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ドンキの新業態「お酒ドンキ」で3500円の「ウィスキーがちゃ」と850円のペットボトルビールがバカ売れしている事情

ディスカウントストア(DS)を展開するドン・キホーテ(東京都/吉田直樹社長)は2021年5月21日、新業態「お菓子ドンキ・お酒ドンキ」をオープンした。菓子・酒類の専門店で、その売場面積は2店舗合わせても50坪足らずとかなり小規模だ。同店開発のねらいや戦略、売場づくり、商品政策をレポートする。

世界各国の菓子を集積

 お菓子ドンキ・お酒ドンキがあるのは、JR各線「東京」駅からほど近い「八重洲地下街」の一画。メーンの通りからも近く、平日は近隣で働くオフィスワーカーも多く人通りの多い場所だ。売場面積は、お菓子ドンキが19坪、お酒ドンキが28坪と、通常の「ドン・キホーテ」の既存店が約300~500坪であることを考えるとかなり小型の店舗となっている。

「ドン・キホーテ」の既存店が約300~500坪であることを考えるとかなり小型の店舗となっている。

 この新業態開発のきっかけは、八重洲地下街から物件の引き合いがあったことだ。しかし、前述したような狭い売場面積では通常の既存店のような品揃えを実現できず、成功しないと判断。そこで、コロナ禍の現在、既存店で消費者に求められている商品の分析を行い、とくに好調に推移している食品と酒類にフォーカスした。既存店でニーズが高いカテゴリーに特化した新業態へのチャレンジという位置づけで開発されたのがお菓子ドンキ・お酒ドンキだ。

 東京駅直結という立地のため、メーンターゲットは駅の利用者。平日は東京駅近辺で働くオフィスワーカーを、休日は家族連れを想定している。出勤前の午前9時ごろ、昼休みの12時ごろ、帰宅途中の夕方6時ごろが客入りのピークで、主に20代後半から30代の若者の利用が多いという。日中はお菓子ドンキの利用が多く、夕方以降はお酒ドンキを訪れる人が多い。既存店と異なり専用の駐車場がないため、両店とも持ち帰りやすい小型商品を中心に品揃えしている。

 まずはお菓子ドンキからみていこう。食品の中でも菓子に注力したのは、コロナ禍で海外旅行に行けない今、世界中の菓子を集めてあたかも世界旅行をしているかのような雰囲気を演出するねらいがある。その施策の中心を担うのが「ワールドイーツ」コーナーだ。お菓子ドンキで取り扱う1200SKUの商品のうち、約55%が同コーナーで展開されている商品で、スナック菓子やチョコレートなどを中心に取り扱う。ワールドイーツは既存店でも一部導入しているが、既存店では主に中国・韓国など東アジアの商品を中心に品揃えしているのに対し、お菓子ドンキではそれらに加えタイやフィリピン、マレーシアなど東南アジア、さらにはヨーロッパ各国の商品まで展開。台湾名物のパイナップルケーキや韓国のハニーチップスなどが人気商品だ。また、クッキーやビスケットなどと相性のよい紅茶や、韓国やタイのカップ麺など菓子以外の食品も一部取り扱う。

世界各国の菓子を集めた「ワールドイーツ」コーナー
店内中央部で展開する昆虫食コーナー

 そのほか注目したいのは、店内中央部のエンドで展開する昆虫食コーナーだ。SNSへ投稿してもらうことをねらって話題づくりのために導入した。タガメやイナゴ、コオロギなどをチョコレート漬けにした商品などを取り扱っており、手づくりのPOPでは、実際に店舗スタッフが試食している様子を写真付きでリアルに紹介している。写真に掲載されている商品はなかなかにグロテスクな見た目をしているものの、意外にも購入者は女性のほうが多いという。

 そのほか、既存店と異なる取り組みとしては、「うまい棒」の30本セットなど、週末に来店が想定される家族連れをターゲットとした大袋商品を展開。また、お酒ドンキとの親和性から、駄菓子や珍味、缶詰商品などの品揃えも強化した。

「ウィスキーがちゃ」では高額商品が当たる可能性も

お酒ドンキでは、ネット専売品など競合が取り扱わない商品を中心に品揃えしている

 お酒ドンキの取り扱い商品は約1100SKU。既存店にはない珍しい商品を中心に品揃えしており、八重洲地下街にあるほかの酒類専門店ともバッティングしないような商品構成となっている。ネット専売品のほか、高級ワイン、約100種類の世界中のクラフトビール、若者に支持が高いリキュール商品やパーティードリンクなどを取り扱っている。「既存店にないような商品も、『今回は酒類専門店だから』ということで特別に卸していただいたものも多い。独自の品揃えが実現できた」(ドン・キホーテ第29支社長 太田越太(おおたごしふとし)氏)

 同店の施策としてとくに注目したいのが、初導入した「ウィスキーがちゃ」だ。ドン・キホーテが得意とするアミューズメント性を体現した施策で、1回3500円(以下、税抜)でガチャを回し、ランダムで商品が当たるというもの。最低でも3500円以上の商品が当たるようになっており、最も高いものでは数万円の価値がある商品も含まれている。約3日で筐体に入るカプセル100個が全部なくなるとのことで、おおよそ3日に1度は高額酒類が当たっている計算になる。お客からも好評で、1人で3~4回挑戦する人もいるという。「必ず3500円以上のものが当たるため損をしない仕組みになっている。これが購買意欲を掻き立てているのではないか」(太田越氏)

高額商品がランダムで当たる「ウィスキーがちゃ」

 この「ウィスキーがちゃ」のほか、包装紙と箱を同じものに統一して中身がわからないようにした「お楽しみスパークリングワインBOX」も展開。こちらは1本1980円で、「ウィスキーがちゃ」と同じく価格以上の商品が必ず入っており、60本に1本の割合で2万円ほどのドン・ペリニヨンが含まれている。

 そのほか、お酒ドンキでは独自商品として4種類の「生クラフトビール」を展開。ペットボトルに入った生ビール(非加熱処理のビール)で、価格は1本850円と高単価だが、単品売上上位10品に入るほどの人気商品でリピーターも多いという。「市場でもあまり見ないペットボトル形状で、当社では全国でも当店しか扱っていないレアな商品で支持は高い」(太田越氏)

ペットボトルに入った「生クラフトビール」

すべての棚が企画コーナー

 「驚安」のDSで知られるドン・キホーテだが、お菓子ドンキ・お酒ドンキではとくに低価格だけを訴求しているわけではない。お菓子ドンキでは、限られた売場面積ながら「なんだこれ?」とお客の興味を惹き付けるものを数多く品揃えし、1人当たりの買い上げ点数を伸ばす戦略を採り、お酒ドンキでは前述したようなネット専売品や生クラフトビールなど、競合が取り扱わない商品を展開することで価格を下げなくても売れるような商品構成となっている。どちらかといえば付加価値型の業態だ。

お菓子ドンキではインスタント麺など、菓子以外の商品も展開する

 しかし、ドン・キホーテに対して「安い」というイメージを持っている消費者は少なくない。現在でも1つ50円のインスタントラーメンなど価格訴求の役割を担う商品も一部取り扱っているが、「狭い店内でどのようにドンキの『安さ』を表現するかも課題の1つ」と太田越氏は話す。低価格の商品を置く場所や見せ方などで工夫してお客の関心を惹き、ほかの商品も見てもらえるような仕掛けをつくっていきたいとのことだ。

 そのほか、お菓子ドンキ・お酒ドンキの課題として太田越氏は「いかにお客さまを飽きさせない工夫をするか」ということも挙げている。オープン後の売上は計画以上に推移しているとのことだが、「近隣で働く人が毎日店の前を通るなかで、どれだけ短いスパンで景色を変えられるかが重要なポイント」と太田越氏は話す。前述の「ウィスキーがちゃ」も、大当たりの高額商品は一定の期間で入れ替えている。そのほかの商品も入れ替わりが激しく、「先週置いてあった商品が次の週にはない」ということも珍しくない。「すべての棚が企画コーナーといっても過言ではない」(広報担当者)とのことだ。アミューズメント性や買物の楽しさを表現するのが得意なドン・キホーテらしい発想といえる。

 お菓子ドンキ・お酒ドンキの多店舗展開は未定だが、今後は菓子や酒類に限らず、特定のカテゴリーに注力した店舗をつくる可能性はあるという。「この店舗をきっかけに、通常の既存店より狭小な物件のお話をいただくこともあるだろう。商圏に応じて、そこで本当に求められているニーズに特化した店舗には今後も挑戦していきたい」と太田越氏は意欲をみせた。