掃除用品のレンタル・販売を主な事業とするダスキン(大阪府/山村輝治社長)。同社が展開するフード事業ではミスタードーナツが最も有名だが、そのほかにもさまざまな業態を展開していることはあまり知られていない。本記事では、ダスキンが運営している飲食業態のうち、近年とくに好調な「かつアンドかつ」と「Pie face(パイフェイス)」について解説する。
ミスタードーナツの商品戦略についての記事はこちら
ファミリー層向けのとんかつ専門店「かつアンドかつ」
かつアンドかつは、その名の通りとんかつの専門店。業態としての歴史はダスキンのフード事業のなかでミスタードーナツについで長く、1999年に事業を開始している。
商品としては「ロースかつ膳」(120g、1170円:以下、税抜)や「ヒレかつ膳」(120g、1270円)などの定食メニューが中心で、メーン商品の価格は1000~1680円と少し高めに設定しており、主な客層はファミリー層を想定している。
季節限定メニューが売上増加を後押し
かつアンドかつの2019年3月期の売上高は前年度実績を上回っており、19年4月にはさらなる事業拡大を図り分社化するなど好調だ。
事業が好調に推移している最大の要因は、季節限定メニューの導入だ。かつアンドかつには常連客が多く、季節に応じて楽しめる商品を提供し始めたことが売上増加につながっているという。
たとえば、19年秋~20年冬に提供している「北海道の牡蠣・広島の牡蠣食べ比べ膳」(1650円)は、北海道知内産・サロマ湖産と広島県産の合計3種類の牡蠣を食べ比べできるメニューとなっている。また、19年12月からはゴルゴンゾーラチーズをブレンドしてふんだんに使用した「鉄カツ膳 フロマージュ(ロース90g)」(1420円)など独自のメニューを発売した。
また、調味料もスタンダートなとんかつソースだけでなく、塩やわさび、だし汁など複数準備し、さまざまな食べ方を提案している。加えて、商品の価値に見合うような重厚感のある食器を使用するなどイメージアップのためのさまざまな施策が奏功し、売上増加を後押ししているという。
かつアンドかつは大阪府など関西圏のロードサイドを中心に出店しており、20年1月時点で16店舗を展開している。当面は関西圏での店舗拡大に注力し、その後は中国地方への出店も視野に入れる考えだ。
20~30代女性に人気「パイフェイス」
次に紹介するのは、パイ専門店の「パイフェイス」だ。もともとは03年にオーストラリアのシドニーで発祥したブランドで、15年にダスキンが日本における営業ライセンスを取得。現在は京都府、大阪府、千葉県で3店舗を展開しており、イートインとテイクアウトの両方に対応している。オペレーションは簡素化されており、商品は専用工場から冷凍で配達され、店舗では溶いた卵を塗りオーブンで焼くだけで済むようになっている。
パイフェイスでは、「りんご」や「ラムレーズンバター」(いずれも280円)などのスイーツパイはもちろんのこと、黒胡椒など数種類の香辛料で味付けしたミンチビーフを詰め込んだ「クラシックミンスビーフ」や、大きめにカットした角切りの牛肉を使った「チャンキーステーキ」(いずれも390円)などのセイボリーパイ(総菜パイ)も多く取り扱っているのが特徴だ。
SNS映えする可愛らしい見た目も人気
主な客層は20~30代の女性で、すべての総菜パイと一部のスイーツパイには表面にそれぞれ異なる可愛らしい顔がデザインされていることから、SNS映えする、手土産にも喜ばれると人気だ。加えて、パイは中身が見えないため、顔で種類を見分けることができるというメリットもある。また、見た目だけではなく中に入っている具材が大きくボリューム感があることも支持を得ているという。
日本ではパイはスイーツとして食されることが大半で、総菜パイの認知度はそれほど高くないというのが現状だ。ダスキンの副社長でフード事業を管掌する宮島賢一氏は「日本で食事系のパイの知名度を高めたい。しばらく出店をしていなかったが、今後は全国の主要都市を中心に店舗数を増やしていきたい」と話している。
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ダスキンのフード事業は長年業績低迷に苦しんでいたが、近年は主力のミスタードーナツを中心に業績が回復傾向にある。ダスキンの中でも、かつアンドかつやパイフェイスのような業態は店舗数が少ないため認知度はあまり高くないかもしれないが、本記事で紹介したように他社と差別化できる独自のメニューを持っている。店舗数を増やし消費者の認知度を高めることができれば、さらなる売上アップも期待できるのではないだろうか。
「ダイヤモンド・チェーンストア」2020年3月1日号では、ダスキンフード事業の中核であるミスタードーナツのレポートを掲載する予定です。商品だけではなく、ミスタードーナツの店舗政策・出店政策なども詳細に解説しています。お楽しみに!