メニュー

新店・ヤオコー東松山シルピア店で鮮魚専任の接客係を配置したねらいは!?

食品スーパー(SM)大手のヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)は2019726日、「ヤオコー東松山シルピア店」(以下、東松山シルピア店)をオープンした。カラオケ店や紳士服専門店、100円ショップなど複数の商業施設が集まるショッピングセンター「東松山ショッピングスクエアシルピア」への出店だ。店舗面積1862m2の標準的なサイズの店舗だが、鮮魚売場で専任の「お客さま係」を配置し、ヤオコーが得意とする食提案型の売場づくりにより一層力を入れている。

ヤオコー東松山シルピア店

鮮魚売場で専任の「お客さま係」を配置
旬のおいしさ提案に磨きをかける

 東松山シルピア店は、東武東上線「東松山」駅から徒歩で約20分の場所に位置している。同店のストアコンセプトは「毎日の食事が“楽しくなる”店」。旬の素材のおいしさを伝えるための売場づくりに注力している。

 それを踏まえ、生鮮3部門の売場づくりについて、写真を交えて簡潔に解説していきたい。まず売場トップの青果売場では購入頻度の高い商品を単品量販で売り込み、安さや鮮度のよさが伝わる売場づくりを行った。果物は旬の素材を平台トップで展開するほか、季節を先取りした商品を早期に品揃えすることで、季節感の打ち出しを強化する。

青果売場では、旬の素材を平台で展開

 精肉売場では、九州産の黒毛和牛を中心とした牛ステーキ肉の売り込みを強化した。そのほか、しゃぶしゃぶコーナーでは曜日に合わせた提案を実施している。平日はおかずとして手軽に食べられる肉を、週末は銘柄肉など質にこだわった商品を品揃えすることで、さまざまな食卓シーンを提案する。

精肉売場では、牛ステーキの売り込みを強化する

 鮮魚売場では、千葉県や神奈川県などの近海で捕れた魚と刺身の盛り合わせで新鮮さを打ち出す。また、ヤオコー初の取り組みとして、東松山シルピア店では鮮魚売場専任の「お客さま係」を配置している。接客担当として昼と夕方のピークの時間帯に売場に立ち、おすすめ商品の紹介や食べ方の提案、試食を通して旬のおいしさをお客に伝える。「お客さま係は、鮮魚の専門知識があるパートが主体となって担当する。今後はパートでも専門知識を持つ人員を育てたい」(広報担当者)。

鮮魚売場では、専任の「お客さま係」を配置。注・取材時はオープン前のため「お客さま係」は確認できなかった

次ページは
SM各社がお客との接点確保に取り組む理由は?

SM各社はお客との接点確保に注力

 近年、日本では多くの企業が人手不足に悩まされており、小売業もその例外ではない。にもかかわらず、人手をかけてお客との接点確保に注力するSM企業は少なくない。

 ヤオコーは、以前から多くの店舗に「クッキングサポート」を設けている。同コーナーでは、売場で提供している旬の素材を使用したメニュー提案や調理の実演を行う。地域住民との交流の場にもなっており、お客から得た情報や要望は売場づくりや品揃えに生かされている。

ヤオコー店内のクッキングサポート

 茨城県を中心に関東圏でSMを展開するカスミ(茨城県/石井俊樹社長)も、メニュー提案や食の情報提供を行う「クッキングコミュニケーション」を売場に配置している。同社の最新店舗「フードスクエアカスミ水戸西原店」(茨城県水戸市:19426日開業)のオープン会見で、石井社長は「セルフレジの導入などで省人化が進み、お客さまとの接点が少なくなっている。地域住民との交流のためには、会話の機会は必要だ」と話していた。

 サミット(東京都/竹野浩樹社長)では、約4年前から店舗に接客専任の「案内係」を配置している。案内係の業務は、売場の案内から要望の聞き取り、買い物のサポート、お客との日常会話に至るまで多岐に渡る。サミットは案内係を通してお客との接点を確保し、期待以上の接客を提供することでサミットのファンを増やすことをめざしている。

 人手不足に苦しみながらも、SM各社が人手をかけてお客との接点確保に取り組むのはなぜか。理由の1つとして、お客のニーズをより正確に反映させた売場づくりを行い、顧客化を進めて客数増につなげるねらいがある。

 現在、SM業界を取り巻く状況は厳しい。人口減少が続く中、コンビニエンスストアやドラッグストアなど、食品を扱う異業種との競争が激しさを増している。さらに10月以降は消費増税により、(食品自体は8%のままとはいえ)消費が落ち込むことも予想されている。

 このような状況の中でお客に選ばれる店をつくるためには、お客が求めるものを正確に理解していなければならないのである。お客との会話を通じて意見や要望を聞き出すことで、それらを店づくりに生かすことができる。加えて、店側から積極的にメニュー提案や情報発信を行うことで、お客に付加価値を提供することができ、それが他店との差別化にもつながりそうだ。現に約4年前から案内係の取り組みを続けてきたサミットは、SM各社が客数減に苦しむ中、193月期では既存店客数増加を達成している。

 ヤオコーでも同様のねらいがあると思われるが、ではなぜ、鮮魚売場だったのだろうか? 魚は肉や野菜に比べて調理のハードルが高く、下処理の手間もかかる。しかし、調理の仕方やコツがわかれば魚料理にチャレンジしたいと考えるお客も少なくないだろう。ヤオコーはそのようなお客の需要に応え、鮮魚売場に専任のお客さま係を配置したのではないだろうか。