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ゴミを出さない!国内初、量り売り食品スーパーの斬新なビジネスモデルとは

2021年7月、京都・神宮丸太町に誕生した食品スーパー、斗々屋(京都府/梅田温子社長)。商品を個別包装せず、お客が持参する空き瓶や容器などに詰めて持ち帰る国内初のセルフ量り売り食品スーパーだ。業界からの注目度が高いのは、最新テクノロジーを駆使した買い物システムや高い商品力、フードロス対策を担うイートインの併設、そしてこれらノウハウを商品化し、量り売り食品スーパーの開業支援やプロデュース、卸売業も手がける点。つまり“ゼロ・ウェイスト(=ゴミを出さない)”な小売店を体現するビジネスモデルとなっている。長年、日本に根付かなかったモデルだが、斗々屋の登場や海外の事例などから見る、セルフ量り売りの未来とは?

京都市の繁華街、四条河原町から約1.7km北上した神宮丸太町にある斗々屋。主客層は30代〜50代女性

従来のデメリットをテクノロジーで解決

 これまで量り売り食品スーパーが根付かなった背景に、商品を選んでから「量を決め」「計量する」という手間が挙げられる。特に「計量」は電子はかりのパネルにある無数の商品名から、自分が選んだ商品を見つける時間と労力がデメリットだった。そこで斗々屋では電子はかりのグローバル企業、寺岡精工(東京都/山本宏輔社長)とタッグを組み、モーションセンサー「e.Sense」を導入して解決する。

木とガラスとステンレスででたプラスチックフリーのドイツ製什器にもこだわった。ハンドルに付く黒いタグが「e.Sense」

 具体的には500円玉大の「e.Sense」を、商品を入れた瓶などの什器に取り付け、例えばお客が商品を取り出すと、動作を感知した「e.Sense」が最寄りの電子はかりに商品情報を送信。お客が商品をはかりに置くと正しい商品情報がすぐに表示され、パネルをタッチして価格表示シールを印刷するだけ。簡単かつ短時間で買い物ができるという仕組みだ。この他にも複数のテクノロジーを駆使し、今まで煩雑だった量り売りのストレスを軽減している。

 また瓶や保存容器などの準備がなくても買い物できるよう、貸し出し可能な保存容器を大小6種類用意。1つ100円〜の預かり金を支払うと、返却時に返金されるデポジット制で、こうした細やかなサービスで量り売りへのハードルを下げている。

液体は瓶に使いかけの調味料が残っていても、新たに注ぎ入れた容量を計ることができる

キッチンをフル稼働させ収益化

現在、コロナ禍により夜営業は休止中。昼はランチプレートを提供し、カフェづかいもできる

 商品は規格不選別の野菜をはじめ、米や乾物、茶、ハーブ、調味料、海外産のナッツやドライフルーツ、アルコールなど700品目。中には豆腐や納豆といった日配品もあり、肉は予約販売する。

 商品構成は野菜20%、総菜10%、雑貨10%、その他食品60%で国産品と輸入品は7対3。味はもちろんのこと、オーガニックやフェアトレード、アニマルウェルフェアなど社会と環境に配慮した商品を選ぶ。また納品時に過剰包装しないなど、ゼロ・ウェイストに賛同する生産者・メーカーを選定している。

 店内奥にはカウンター12席のイートインを併設し、余った野菜や日配品は調理師がイートインメニューや量り売りの総菜、ジャムやピクルスといった瓶詰めにして素材を使い切る。「食品ロスを出す前提で売上を立てる小売業界の意識を変えたいと思っている。そのためにもキッチンは総菜、加工品の製造、レストラン営業という3毛作で食材を余すことなく商品化している。安定した経営に必要不可欠」と広報のノイハウス萌菜氏。お客にとってもイートインは、同店の商品を試せる貴重な場となっている。

国内外で加速するセルフ量り売り食品スーパー

総菜は10種以上。古代米や蕎麦の実を「東山とうふ西初」(京都市)の揚げに詰める「斗々屋のお稲荷さん」270円/100gなど

 開業2年目にして2022年は年商1億3000万円を目標に掲げる斗々屋。好調な背景には、環境への意識が高まっている時勢も関係している。実際に、同社が量り売り専門店の開業を最初に試みた2017年は「周囲の理解を得られず、早すぎた」(ノイハウス氏)という。

 現在の海外事情はというと、フランスでは、近年大手チェーンストアの一角が量り売りになるほか、量り売り食品スーパーチェーン「day by day」がフランチャイズ展開で急成長。2021年7月に施行された「気候変動対策・レジリエンス強化法」にも2030年までに温室効果ガス排出量の40%削減することを目的とする項目の中に「スーパーの量り売り販売面積を2030年以降、全体の20%以上にする」と盛り込み、今後も増加が見込まれている。

 国内でも一部の無印良品やナチュラルローソンがここ1年〜2年で菓子や日用品の量り売りを開始。小売店以外だと、徳島県上勝町を筆頭に“ゼロ・ウェイスト”を掲げ、ゴミ問題に取り組む自治体が増えているなど、普段の生活からゴミを減らす人、店は確実に増えつつある。

ゼロ・ウェイストな小売店の未来

店内にはAIを搭載する革新的な電子はかりも。形が似る柑橘類や葉野菜をAIが学習し、見分けるという

 では、セルフの量り売り食品スーパーの今後はどうだろうか?

 斗々屋ではすでに開業支援した小規模店が全国に複数誕生している他、大手では百貨店やドラッグストアとのプロジェクトが始まっており、手始めに量り売りのポップアップストアを開催し、お客の反応を見る事例が多いという。

 テクノロジーを駆使した量り売りシステムを顧客が受け入れさえすれば、すでに魅力的なプライベートブランド(PB)や商品力を持つ大手食品スーパーは参入しやすいと言える。今まで個食サイズからファミリー用の大袋まで販売していた商品は、量り売りになった場合、各家庭に合った量をお客自身が好きだけ買うことができ、店とお客、双方にとっても魅力だ。

「ゼロ・ウェイストな量り売りは余分な包材コストをカットし、梱包の手間を省き、それにかかっていた時間を生み出す経済的メリットが多い。海外の動きを見ても今後、日本の大手食品スーパーの一角に量り売りコーナーが増えると予想しています」とノイハウス氏。テクノロジーの力で快適になった新感覚の量り売りが、ニッチでなくなる日が近づいている。