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ダイヤモンド リテール・カンファレンス2016
小売業のデジタルマーケティング最前線
カスタマーエクスペリエンス向上を実現するデジタル化、オムニチャネル戦略

流通業でオムニチャネル化が進んでいる。スマホ利用が浸透する中で、自社のECサイトやネットモールでの売上拡大を狙うだけでなく、店舗への集客手段としての有効性が注目されている。これまでのようにECがリアル店舗の売上を食うという考え方から、ECとリアル店舗の相乗効果を発揮することで、トータルで売上拡大につなげるという施策に方向性が変化している。ダイヤモンド・リテイルメディアは5月26日に東京都内で「ダイヤモンド リテイル・カンファレンス2016」を開催し、その中ではキタムラや良品計画のケースとして、ECと店舗の連携により集客と売上の拡大につなげている成功事例が紹介された。当日は小売業のマーケティングや店舗オペレーションの担当者、情報システム担当者、EC企画担当者など多くの聴衆が詰めかけ、熱心に講演に聞き入っていた。


[事例講演]

「オムニチャネルで顧客満足を高める、ECの役割が変わる」
~カメラのキタムラ EC×店舗の成長事例~

株式会社 キタムラ
執行役員 経営企画室 オムニチャネル(人間力EC)推進担当
逸見 光次郎 氏

 

[講演]

“デジタル”の最新動向に見る、明日から踏み出すべき次の一歩

アドビ システムズ株式会社
アドビ グローバル サービス統括本部 ソリューション コンサルティング本部
マーケット ディベロップメント エンジニア
熊村 剛輔 氏

 

[事例講演]

MUJI DIGITAL Marketing 3.0
「『無印らしい』顧客体験の創造を目指すデジタル・マーケティング戦略」

デジタル化された顧客の課題解決に守備領域を拡張

株式会社 良品計画
WEB事業部長
川名 常海 氏

 

セミナー関連資料のご案内

小売業がカスタマーリレーションシップを構築するためのオーディエンス理解
「優良顧客を惹きつけて維持するための新戦略」

[事例講演]
株式会社 キタムラ 執行役員 経営企画室 オムニチャネル(人間力EC)推進担当  逸見 光次郎 氏

 

「オムニチャネルで顧客満足を高める、ECの役割が変わる」

~カメラのキタムラ EC×店舗の成長事例~

 

キタムラはカメラ・スマホ・写真プリント販売チェーン「カメラのキタムラ」を約900店舗、写真スタジオの「スタジオマリオ」約400店舗、iPhone修理正規代理店「Apple正規サービスプロバイダ」57店舗などを展開するカメラと写真の専門店チェーン。全国に広がる店舗網を生かして、カメラ販売では量販店を脅かす存在であり、ネット販売額ではトップ10に入る規模だ。キタムラのオムニチャネルは、専門店の強みを最大限に生かすことを目指している。カメラに関する知識を備えた店舗スタッフだけでなく、コールセンターではスキルの高い店長経験者や店舗経験者が対応し店舗売上にも貢献している。そうした経験値の高い人材をフルに活用したオムニチャネルをキタムラでは「人間力EC」と呼んでいる。

顧客接点拡大よりどれだけ接触時間を長くできるか
株式会社 キタムラ
執行役員 経営企画室
オムニチャネル(人間力EC)推進担当
逸見 光次郎 氏

 私は大学を卒業して三省堂書店に入った。そこで実践したのは「お客さんを手ぶらで帰さない」ということ。例えば三省堂で売り切れていたなら、他店の平台においてあることを教えたり、絶版本のことを聞かれれば古本屋を紹介したりということもやった。三省堂の売上にはならないが、お客様はそうした情報を教えてもらい、目的の本を買えることで満足できる。中には他店で購入して、わざわざ三省堂に戻ってお礼を言ってくださるお客様もいた。つまりお客様満足が向上すれば、そのお客様は離れないということだ。これはリアル店舗でもECでも同様だと考えている。

 オムニチャネル化では「顧客接点をたくさん作る」ということを実行してきた。スマホが浸透したことで、誰もがどこにいても必要な情報を得られるようになった。ここで重要なのは消費者がスマホに接触している時間の長さ。情報を見たり、SNSに書き込んだり、電話をかけたりという時間の中でどう小売側の情報提供に触れるチャンスがあるか、またそのチャンスを生かせるかということが重要になる。そのために必要なのは、スマホを入口として、連携した商品DB・購買DB・顧客DBにつながる仕組みだ。単に接点を作れば済むというのではなく、お客様の満足を向上するためにECを効果的に活用するには、あらゆる情報を連携させて適切な情報を提供しなければならない。

 

EC関与売上のうち約7割に店舗が関与

 

 小売業のECの初期は、ネットで宣伝し、ついでに販売もしようというスタンス。店頭在庫を宅配便で出荷するという形態もあった。さらにネットモールに出店しバーチャル店舗で売上伸長を図るようになる。その頃にはEC倉庫を設けWMS(倉庫管理システム)を備えて効率化も狙った。

 現在の主流は、ネットで集客しネット注文からリアル店舗の売上拡大につなげるという使い方。ネット店舗でEC倉庫からお客様に出荷するだけでなく、EC倉庫からリアル店舗での受け取りも可能になった。そしてこれから求められてくるのが、店舗もネットも活用することで会社全体として売上を伸ばすという方策だ。ECの売上はEC部門で計上する、店舗の売上は店舗でというのではECと店舗が食い合うという発想につながる。ECはオムニチャネルによって企業のインフラとなり、ITとともに事業から基盤へと進化する。つまり会社全体の業績向上にはECと店舗を分けるのではなく、相乗効果を生かしていくことが重要になってくるわけだ。

 キタムラのEC関与売上は430億円。その中身を見るとネットからの注文が262億円。このうちネットモールで検索・注文が74億円。自社ポータルサイトでの検索・注文188億円のうち45億円が宅配を選択し、残る7割の143億円が店舗での受取を選択する。さらに店頭タブレットを使っての取寄せ注文が167億円となっている。ここで注目したのは店舗が関与する売上が311億円を占めていることだ。

 

お客様は店舗スタッフの支援を求めている

 

 これはカメラを買うときなど、製品を熟知した店舗スタッフに確かな情報や使い方を教えてもらいたいというお客様が多いということ。カメラを買うときなど、キタムラでは初期設定を無料で行っているし、例えばメモリーであったり液晶保護フィルムであったりという必要な周辺の製品もアドバイスして買ってもらっている。店舗では一通り揃って、すぐに撮影出来る状態でお渡しするというサービスを当たり前のようにやってきた結果と言えるだろう。

 とくに店舗スタッフがタブレットを操作して注文する場合など、何を撮るのか、どなたが使い、どんなクラスのカメラが欲しいかなどをお客様に聞きながら、価格や機能比較などをアドバイスしながら商品を選ぶというプロセスが注文のカギになっている。これを経営層は「お客様は、キタムラの店員を写真好きの先輩や師匠のように思っている」という風に理解している。

 つまりキタムラのオムニチャネルは直営専門店ならではのスキルを持ったスタッフが支える「人間力EC」というわけだ。

 オムニチャネルはOne To Oneのコンテンツ・マーケティング。「企業が発信したいコンテンツ、つまり企業の専門性をお客様に合わせた形・手段で提供し、顧客自身が納得・満足した上で継続的な顧客になってもらうこと」である。だからキタムラはこれまでの写真やカメラの専門性を生かして、デジタル時代の写真の楽しみ方を、スマホを含めて提案し高めていくことを目指している。これは我々にとって営業行為そのものだとも言える。

 

人間力EC強化には、まず人材の育成

 これまでにも店舗がSEO(検索エンジン最適化)を意識してヒット率の高いタイトルをつけたブログで情報発信することや、商品情報などを掲載したメルマガを常連の集客向けに発信。店舗では通称“パタパタ”と呼ぶプリントアプリ紹介冊子を、プリントに来たお客様の待ち時間に店員が説明してネット会員化している。アプリからいつでも簡単にプリント注文できるようになり、その9割が店舗受取なので、お客様の利便性向上と店舗の作業効率向上につなげた。また、メーカーから実機を借りて、いち早くYouTubeに使い方動画をアップして集客することも行っている。

 これからキタムラのECをどのように強化していくかが課題だ。ポイントは更なる仕組化と人間力ECの増強。まず専門性や接客力の強化を図るための人材教育を徹底すること。さらに新規商品・サービスを拡大しインフラに乗せていくこと。店舗システムへの投資やネット注文システムの刷新などがこれに相当するだろう。また、店舗とECをさらに効率よく活用して在庫回転率を最大化する物流網の構築、メーカーとのSCM強化による在庫の効率化と取寄せ注文の拡大と納期の明確化、全社に最適化されたマーケティングの実現とそのための専門組織の設置も必要になるだろう。

 キタムラでは店舗とECを合わせたお客様1人あたりの通算売上高がオムニチャネルの成果指標と考えており、例えばイヤーアルバムの作成など写真を通じたライフ・タイム・バリュー(LTV)をお客様ごとに提案し売上につなげていく。商品をいくつ売ったかで売上が計算できるが、それはお客様がいくら買ったかの合計も同じ売上となる。キタムラではお客様単位で満足度の向上と売上アップを考えていく方針である。

[講演]
アドビ システムズ株式会社 グローバルサービス統括本部 ソリューションコンサルティング本部 マーケットディベロップメントエンジニア
熊村 剛輔 氏

 

“デジタル”の最新動向に見る、明日から踏み出すべき次の一歩

変化の本質をつかむことが最重要課題

 

デジタルマーケティングの目的は、変化の本質をつかむこと。どんなビジネスでも顧客の環境における変化でビジネスも変わらなければならないし、そのためには変化の本質をつかんで理解することが成功の秘訣となる。モバイルの波に流されて、闇雲にサイトを作り失敗しているケースは少なくない。そもそもモバイルシフトする中で、一貫性のあるマーケティングに注意を払っているかが問題になる。アドビ システムズの熊村 剛輔氏は「一貫性のあるプラットフォームが重要」と話している。

 

情報獲得の「多様化」と「細分化」が進む

 

アドビ システムズ株式会社
グローバルサービス統括本部 ソリューション コンサルティング本部 マーケット ディベロップメント エンジニア
熊村 剛輔 氏

 その変化の本質を表すキーワードは「多様化」と「細分化」だ。多様化には顧客接点の多様化、顧客のライフスタイルやニーズの多様化、コンテンツや情報の多様化、表現手法や顧客体験の多様化などが挙げられる。そして細分化としてとらえられるのは情報接触時間の細分化、マーケティングセグメントの細分化、コンテンツや情報の細分化がある。

 スマホが普及しどこにいても情報に接触できるようになった。それが電車で一駅移動する2分間に情報に接触していても、駅に着いて降りるときにスマホをポケットにしまった後は、また別の手段で情報に接触している可能性が高い。それだけ情報への接点は増え、また情報に接触している時間が短くなっているというわけだ。

 かつては情報源がテレビや新聞、雑誌など顧客の情報取得手段が限定的であり、ライフスタイルや趣味・嗜好などが画一化しやすい状況にあった。つまり「共通解」を作ることができた。今は多様なメディア・ツールが存在し、情報接触手段が増える一方。それゆえに「共通解」が無いコミュニケーションが必要になっている。言ってしまえば、そもそも「共通解」など存在していなかったことが可視化されてしまった、という状況だ。

 

78%の消費者がモバイルでの購買に不満を感じている

 

 「共通解」がなくなった結果何が起きているか。全米広告主協会がまとめた2015年のマーケティング予算配分の状況を見ると、広告が25%程度なのに対してブランドアクティベーションつまり「個」をターゲットにしたマーケティングには60%程度の予算を割り当て、しかもさらにウェートを高めていくと予測している。スマホなどモバイルツールを対象にしたマーケティングの重要性を認識している。

 ところが米調査会社の2016年予測では、米国の小売業の全体売上に占めるモバイル経由の売上の割合は、わずか1.3%である。パソコンを含めても10%程度。たった1.3%のために…と思うかも知れないが、モバイルが影響した売上の割合は32.3%になるとされている。つまり売上の3分の1はモバイルが関与しているわけだ。同時にデジタル広告費に占めるモバイル広告費の割合は66.9%とされ、すでに3分の2はモバイル広告が占めるようになるという。

 一般的なモバイルの使われ方をみると、購入前に商品を確認72%、商品価格の確認70%、店舗の場所検索60%、モバイルクーポン使用55%などとなっており、これらの数値に驚くべき要素は見当たらない。驚くことは、これだけモバイル広告のウェートが高まり、消費者がモバイルツールを活用するのが当たり前になっていながら、「78%の消費者はモバイルでの購入に不満を感じている」という結果だ。これがモバイル経由の売上が1.3%にとどまる理由だ。これは企業がパソコンサイトと同じようにスマホを注文端末と考えて、ECサイトを作ってしまうことにも原因がある。

 

顧客理解には小さな分析と最適化を常時展開

 

 ここでオフラインとオンラインを比較してみると、オフラインは広さ=展開規模と数=部数/視聴率がカギになるが、購買プロセスが進めば影響度は弱まる。これに対してオンラインは多種多様なツールが存在し多くの情報が氾濫していることで影響度は高まる傾向にある。そうした違いを見極めた上で、必要なことは「360度の顧客理解」とよく言われるが、そこが難しいとも言えるだろう。

 アドビ システムズで経験したベストプラクティスの多くが、多種多様で膨大なデータを集めて分析し、さらに「小さな分析と最適化を常時展開」することで顧客を把握、パーソナライズから顧客体験につなげるというカスタマージャーニーのサイクルを構築している。そこで必要になることは「顧客接点をまたいだ一貫したブランディングとマーケティングアプローチ」になる。つまりPaid Media、Earned Media、Owned Mediaといった顧客接点を横断的にカバーしPDCAサイクルを素早く回す仕組みが重要になる。これは「集客」「接客」「送客」のいずれの段階でも必要なこと。そのためにオンラインとオフラインをつなぐコミュニケーション基盤の構築とブランディングが不可欠になる。

 顧客の状況は変化する。その意味で「セグメントは一度作ったら終わり」ではない。顧客にアプローチする段階で顧客がサラリーマンであっても、施策を進める段階では定年退職していた、ということもあり得る。そこでセグメントのメンテナンスのために「小さな分析」が欠かせないわけだ。
 

 

データ分析を“作業”で終わらせない分析基盤が不可欠

 

 デジタルマーケティングで結果を出せる企業とそうでない企業の違いは、データ収集から分析、顧客把握、パーソナライズ、顧客体験というプロセスを速く回すことができるかどうか。データ分析を高速化するために、どれだけ多くの顧客接点から一貫性を伴う情報を得られるか、それだけ多くの情報を素早く分析できるか、共通化された物差しを持っているかなどが問われる。またアウトプットの高速化では、ビジネスの要件に合わせて細分化された多数のセグメントに対するコンテンツを素早く制作できるか、顧客にとってベストなタイミングで的確なコンテンツを提供できるか、その顧客接点に対しても一貫性のある顧客体験を提供できるかが重要になってくる。

 よく言われるのが「データ分析に時間がかかる」ということ。これは結果的にデータ分析が“作業”になってしまい、その後にすべきことを理解していないからだ。しっかりとしたデータ分析基盤を備え作業時間を短縮することと、分析の後に何をすべきかが理解できていれば、施策立案から実行まで本来の分析をスピーディーに実施することが可能になる。

 アドビシステムズは様々な領域で省力化を図るためのクラウドソリューションを提供している。マーケティング領域では「Adobe Analytics」「Adobe Experience Manager」をはじめとした8つのツールを提供している。さらにベストプラクティスで培ったノウハウを備えており、数多くの顧客接点に対してデータで管理された顧客体験を実現するための的確なソリューションを提供できる。

[事例講演]
株式会社 良品計画 WEB事業部長 川名 常海 氏

 

MUJI DIGITAL Marketing 3.0
「無印らしい」顧客体験の創造を目指すデジタルマーケティング戦略

デジタル化された顧客の課題解決に守備領域を拡張

 

オムニチャネルを軌道に乗せるために重要なことは、消費者の共感を得ることであり、より良い買い物プロセスをどう体験してもらうかが重要なカギになる。「無印良品」を展開する良品計画は、デジタル接点が増えていく中で、どのように顧客との絆づくりをして、いかに長くお付き合いしてもらえるかをテーマに据えている。その結果として、お客様に店舗へ行ってもらったり、ネットストアに来てもらったりできるかを考えて施策として打ち出してきた。デジタルを通じてお客様とのつながりを深めていくために、当初の「MUJI Digital Marketing1.0」から「2.0」「3.0」と“バージョンアップ”を図ってきた。

 

第2フェーズでネットから店舗への送客がメインに

 

株式会社 良品計画 WEB事業部長
川名 常海 氏

 インターネットの普及が始まり企業サイトが一般化し始めた2000年に、無印良品はコミュニティサイトを立ち上げるとともに最初のECサイトも開設した。コミュニティを通じてお客様が提案して開発された商品もある。当時は無印良品の店舗が全国に300程度で、まだ全国をカバーしていなかった。そこで店舗のない地域の顧客を開拓するためにもECが有効という判断だった。つまり店舗ネットワークを補完するということが、最初の目的だったわけだ。その頃は店舗とECでは、商品戦略も販売戦略も異なっていた。しかしECが順調に拡大すると「店舗の売上がECに取られている」という声が店舗サイドから起きてきたこともあった。

 その後、2003年から2004年にかけて、第2フェーズでは方向性を「ネットから店舗への送客」というように変化させた。これはネットの売上が伸び悩んできたこととも関係し、調べてみるとネットストアで購入経験がある人は40%、購入経験のない人が60%ということがわかったということも背景にある。結局、ネットでキャンペーン情報や商品チェックを行い、実際に店舗で触ってみたり試着したりして購入している、ということがわかってきた。そこでメールを使ってクーポンを配信することでお客様に店舗に関心を持ってもらい、ネットではできない買い物体験をしてもらうという施策を行った。そうするとかなりのメンバーが来店してクーポンを利用することで売上も伸びてきた。ECサイトに「店舗で受け取る」というボタンも設置した。ネットでのコミュニケーションを高めることで、お客様を店舗に誘導することができ、店舗で「無印良品」のブランド価値を体験してもらうことができるようになった。

 

企業の意志を伝えて、どのように共感してもらうか

 

 さらに2008年から2009年にかけて、第3フェーズ「MUJI Digital Marketing 3.0」に移行する。先進国の場合、一般の人は1日3000件の広告メッセージに接すると言われるほど情報過多の時代に入った。それだけ広告メッセージを発信しても、その情報を見てもらえないという状況が起きる。モノ余り、製品ごとの違いもあまりないという中で、どのように商品の価値や違いを見出してもらい購入につなげるかが大きな課題になる。つまり「いかにして伝えるか」ではなく「どうすれば受け取ってもらえるか」を考える必要が出てきた。

 ここで無印良品が考えたのは、「企業やブランドの意志をどう伝えてそれに共感してもらえるのか」である。その頃に起きたケースで、我々の商品である「ごはんにかける ふかひれスープ」に対し環境保護団体が販売を中止するように求めたキャンペーンがある。日本の旗艦店である有楽町店の前での抗議活動にも発展した。そうしたキャンペーンに対し、無印良品でもアクションを起こす必要があり、1本のリリースを出した。その中でフカヒレだけを使っているのではなく、他の部位も余すところなく他の商品の原料に使っていること、使用しているヨシキリザメは絶滅危惧種の中でも低ランクであること、ふかひれスープの商品化は東日本大震災で被害を受けた気仙沼港や周辺地域の活性化にも寄与していることなどを訴えた。

 その直後から無印良品に対する好意的なツイートが出てくるようになった。WEB事業部でツイートの内容を分析したところ、86%は好意的なコメントで14%がネガティブなコメントということもわかった。極め付けは、このリリースを出した翌週に「ごはんにかける ふかひれスープ」の売上が通常の4倍にハネ上がったことだ。つまり企業が明確にメッセージを打ち出したことで、それに対する賛同が広がり、それは売上も後押しした。

 

お客様との会話、「良い体験」をつくる

 

 従来、一方通行だった企業側のメッセージは良い体験を入れ込んでいくことで受け取り方が変わってくる。これも実際のケースだが、「自分で作るヘクセンハウス」つまりクッキーで作るお菓子の家のキャンペーンでは、お客様のSNS上の会話からインサイトを導き出し、有楽町店にお菓子の街を作った。店舗に来たお客様が何をするかというと、まずスマホを出して写真や動画を撮ったり、ツイートしたりして情報をシェアしてくれる。ブランドからの一方的なメッセージ発信のほとんどはお客様に伝わらないが、お客様のインサイトをとらえた「良い体験」は口コミになり、人から人へ伝播していく。

 企業から生活者に向けて一方通行のコミュニケーションではなく、中心にお客様がいて、SNSやコミュニティを通じて購買体験やブランドや商品に対する満足といった「良い体験」をはじめとして様々な情報が拡散していくというスタイルに変わってきた。

 コミュニケーションをより深くするために、無印良品で始めたのが「MUJI Passport」。アプリ型の会員証だが、そこからさまざまなデータが見えるようになった。「MUJI Passport」を使って買い物をすればマイルが貯まる。それだけでなくネットストアで商品をチェックするなどチェックインするだけでもマイルが貯まる。また購入した商品の評価コメントを書いたり、「くらしの良品研究所」で提案したりすることでもマイルが貯まる。さらにSNSでMUJIファン同士のやりとりでもマイルが貯まる仕組みを作った。

 

「お客様にとって良い体験」を作るスタンスが重要

 

 キャンペーンを打って、共感し推奨してくれるメンバーがどれくらいいるか、話題にする層はどのくらいか、キャンペーンを確認したり参加したり、購入したかしないかという効果測定だけではなく、お客様の商品に対する感想や、買い物体験をどう評価しているかという情報を得られるようになり、それをもとにお客様の求める価値をどう実現するか、お客様にとって良い体験をどう提供するかという視点で考えるようになった。

 こうした施策を通じて我々にとって、デジタルマーケティングとは「デジタル時代に求められるマーケティング」ではあるけれど、それはWebサイトやスマホアプリ、アドテクといったお客様との接点だけを考えていくことではない。真のデジタルマーケティングとは「デジタル化されたお客様」の買い物体験やブランド、商品に対する関心や評価をフィードバックし、ECでも店舗でも「お客様にとって良い体験を作る」ことをメインテーマに据えることが重要だと考えている。それを基本にMUJI Digital Marketingもさらに発展していかなければならないと考えている。

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小売業がカスタマーリレーションシップを構築するためのオーディエンス理解
「優良顧客を惹きつけて維持するための新戦略」

 

小売業の競争戦略においていまや「優れた顧客体験を提供する」ことは、競争上必須の課題となっています。オムニチャネル化が進み、顧客はオフラインだけではなくオンラインを含め、様々なチャネルを通じて小売業とコミュニケーションを取り、商品やサービスを購入するようになっている。そのため、小売業は顧客データを収集して顧客セグメントを徹底的に観察して、適切なチャネルを使用して、適切なタイミングで適切な商品やサービスをよりパーソナライズされた体験価値として顧客に提供することが求められるようになっている。今回のレポートでは顧客理解を深め、顧客を惹きつけ、長期にわたって利益をもたらす関係の構築と展開の基盤となるパーソナライゼーションの重要性と競争優位性を獲得するための戦略について紹介する。

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