メニュー

2人前で1万円超も!松屋銀座、銀座老舗とのコラボ冷食などが目標の1.5倍も売れた理由

コロナ禍で利用を増やした食品カテゴリーといえば、「冷凍食品」だ。外出を控える中、買いだめして家庭で本格的な味わいが楽しめる冷凍食品への需要が高まったのだ。その背景には、急速冷凍技術の普及が欠かせない。凍結前の味をそのまま提供することができるようになり、ハイクオリティな冷凍食品の需要がこれまでになく高まった。
いまや冷凍食品は、美味しい食べ物の代名詞ともなりつつある。その時流にのった、百貨店の新たな取り組みを取材した。

「ギンザフローズングルメ」の立ち上げを担当した松屋銀座 食品部の今井克俊課長

松屋銀座の地下2階に誕生した
「ハイクオリティ」な冷食売場

 冷凍食品売場のラインアップといえば、一部に高級品はあれども、総じて価格を抑えた、リーズナブルなものが多い。冷凍食品なら高くても1000円を超える程度、そんなイメージがお客の間にもあるだろう。

 そうしたなかにあって、松屋銀座には桜なべ中江「桜なべ(1人前)」(4320円<税込>)、駒形前川「うなぎ蒲焼(1人前)」(5200円<同>)、京懐石 美濃吉本店 竹茂楼「鱧鍋 すっぽん出汁仕立て(2人前)」(1800円<同>)といった老舗名店の味を冷凍食品で再現、店舗に直接、足を運ぶのとほぼ変わらぬ価格で提供する冷凍食品売場がある。

 2022831日、松屋銀座の地下2階にオープンした自社運営の冷凍食品売場「GINZA FROZEN GOURMET(ギンザフローズングルメ)」(売場面積約10坪)だ。松屋が初めて手掛けた冷凍食品専門売場で、銀座の名店4店(銀座 みかわや、銀座 吉澤、銀座日東コーナー1948、銀座 ピエス・モンテ)による冷凍食品のブランド「銀ぶらグルメ」などの展開により、当初、229月~232月の売上目標5000万円を見込んでいたが、目標の1.5倍を達成するなど、好調に推移している。

 237月には浅草の食文化を冷凍食品にした「浅草グルメ」シリーズ3品はじめ、20品の新商品を投入した。

 このギンザフローズングルメのコンセプトづくりから、商品開発、売場展開まで、すべてを担当してきた、松屋銀座食品部課長の今井克俊氏は「リピート購入による、まとめ買いも多い。立ち上げ時は、銀座店から30分圏内(中央、港、千代田、江東)に住む40代・50代の共働き世帯をターゲットにしたが、現在は埼玉県をはじめ、持ち帰るのに1時間、2時間もかかる遠方からのお客様も増えている。高所得層の方も多い外商のお客様にも好評だ」と売上の順調な伸びを分析する。

 取材当日にも、7万円のまとめ買いをするお客を見かけたが、自宅用以外のニーズとして、実家の両親への届け物、結婚の内祝い、なかには一人暮らしを始めたばかりの息子・娘に送るというケースもある。同店では幅広いニーズに応えるため、持ち帰り用の専用保冷バッグを開発したほか、冷凍配送サービスにも対応している。

 また、銀座や浅草の名店グルメを味わえるということもあって、ECや電話経由で地方からの注文も入ってくるという。

 今井氏は「高価格帯のものが多いこともあり、60才前後の購入者が中心だが、まずその店の冷凍食品を味わってから、次に実際のお店に行く、という商流も生まれている」と話す。

コロナ禍で売上が伸びた総菜からヒント

松屋銀座本店地下2階の冷凍食品売場に誕生した「ギンザフローズングルメ」

 ギンザフローズングルメは、松屋として初めて取り組んだ冷凍食品専門売場だが、世にある多くの冷凍食品売場と一線を画したものとなったのはなぜか。どのような考えから生まれたものだろうか。

 今井氏はコロナ禍が収まりかけた216月~7月頃、飲食店の営業自粛もあって、デパ地下の総菜売上が実力以上に伸びたことに注目した。しかしその後、感染拡大が広がると『(総菜の)テイクアウトは不安。それに代わる冷凍食品はないのか』というお客様の声をたびたび耳にするようになった。一方で、総菜売上の減少を穴埋めするものが必要ということもあり、冷凍食品に目を向けた。

 本腰を入れて考え始めたのは21年の夏場過ぎだ。とはいえ、量販店やコンビニと同じものを扱ったのでは、価格勝負になってしまう。加えて、時短を主目的とした冷凍食品では、いくら品質がよくなったとはいえ、百貨店グルメのレベルには達しない。

 そこで今井氏が着目したのが、創業150年超の松屋が長年にわたって築き上げてきた銀座や浅草の老舗名店との結びつきだ。

駒形前川の「うなぎ蒲焼」(株式会社松屋提供)

「以前から地元の名店のオーナーと話す機会が多くあったが、コロナ禍による影響の大きさを強く感じた。稼ぎ時の夜間に営業ができず、客足の戻りも芳しくない。何か(彼らと)いっしょにできることはないか」(今井氏)。他方、急速冷凍技術など冷凍技術の進化は、名店の味を損なわずに再現可能なレベルに達していることを知った。

老舗の味を再現するための万全の支援体制

桜なべ中江の「桜なべ」(株式会社松屋提供)

 その構想から、老舗名店とコラボを組む「銀ぶらグルメ」シリーズが誕生した。

 とはいえ、参加を呼びかけたどの店も、自慢の味を冷凍化した経験はなく、いつもどおりに仕上げたものをただ冷凍にすればよいというものでもない。料理や素材によって、冷凍への向き不向きは当然あり、衛生上の観点から、店舗で提供するものと冷凍食品用のものを同時に作ることはできない。そのうえで店の味の再現を第一義にしているから、おいしくなければ始まらない。

 一方、松屋側では、しっかり販売するためのさまざまなサポート体制を整え、自慢の味の冷凍食品化に躊躇する老舗の経営者らを説得した。

 オリジナルの商品パッケージを作成する傍ら、グループの関連会社を通じて、松屋の衛生基準に基づく安心・安全の確保と、菌検査をクリアするまでの流れを構築、冷凍食品として流通可能であることを確認したうえで販売する支援体制を構築して行った。冷凍にあたっては、専用の冷凍ラボを持つレストランとほかの飲食店をつなぐ役割を果たすことにより、飲食店自身が冷凍機器を持たなくとも冷凍食品に仕上げる環境も整備した。

 こうして1年近くの準備を経て、できあがったのが、銀ぶらグルメシリーズだ。

 銀ぶらグルメ、浅草グルメには、名店の味を再現するための約束事がある。

「われわれが提供する冷凍食品は、お客様に最後のひと手間をかけていただかないと完成品にはならない。パッケージに表示してある指示通りに“レンチン”やボイルなどの簡単な調理をしていただいて初めて老舗の味を再現できる」(今井氏)。

 7月中旬からは、冷凍食品の卸売事業もスタートした。創業138年の老舗高品質スーパー「明治屋ストアー」の広尾ストアー、玉川ストアーから、「銀ぶらグルメ」シリーズなど約20アイテムの販売を開始した。8月末には明治屋ストアーの福岡天神ストアーでも始まり、少しずつ広げていく予定だ。

 消費期限による食品の廃棄が問題になる昨今、期限を気にせず長期保存が可能な冷凍食品の販売はフードロス削減にも寄与しているとSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも高く評価されている。