「独自商品」を重視するバイヤーが大幅に増加
コロナ禍で特需に沸いた食品スーパー(SM)各社。その後にここまでの外部環境の悪化が訪れるとは誰が予想しただろうか。2022年に入ると、ロシアのウクライナ侵攻により、原材料価格や物流費、水道光熱費などの各種コストが高騰。これに伴いメーカー各社の値上げが続き、消費者の節約志向が一気に高まっている。
その結果、SM各社の22年度の中間期決算は、トップラインが落ち込むとともに、とくに電気代の負担が重くのしかかり2ケタ減益となる企業が多かった。
本特集では食品小売企業のバイヤーにアンケート調査を実施し、58人から回答を得た。そこで集まった現場の声でも、計8割以上のバイヤーが現在の景況について「非常に悪い」「悪い」と回答しており、厳しい環境に置かれていることがわかる。
こうした環境下で食品小売企業は今、どのような商品政策(MD)に取り組んでいくべきだろうか。消費者がSMを選ぶポイントは、大きく「立地」「価格」「商品」だ。そのなかで、値上げラッシュが続き、消費マインドが冷え込む現在のような状況下でより重視されるのは「価格」だ。ここでうまく対応できず「値段の高い店」というレッテルを貼られてしまえば、顧客が他店へ流出する可能性が高まるため、大切な局面にあるといえる。
加えて、前出のアンケートで大きな傾向として表れたのが、MDのなかでも「独自商品の販売」の重要度が増している点だ。6割超のバイヤーが「重視している」と回答し、前年よりも10ポイントも増加した。各種コストが増加し収益を圧迫する今、「価格」だけでの競争には限界がある。各社、「商品」の付加価値によって独自性を発揮し、差別化を図る必要性をこれまで以上に感じていると言えそうだ。
さらに、独自性を発揮するうえでは、「商品開発部の体制強化」や「メーカーとの連携強化」を推進しているバイヤーが多かった。これまで食品小売企業は、メーカーから仕入れた商品を販売するのが主だったが、現在の局面では、メーカーとの連携による商品開発や販促、さらには組織体制を強化し自ら商品開発に乗り出しているようだ。
連携を強化するべく、組織・開発体制に工夫を
本特集ではそんな食品小売企業の直近のMDや商品開発の最前線を知るべく、業界でも先進的な企業の取り組みや商品を取材・調査した。
商品開発の体制強化で注目したいのが、アクシアル リテイリング(新潟県:以下、アクシアル)傘下のSM、原信(同)とナルス(同)だ。原信・ナルスは、生鮮、総菜部門をあえて独立した体制のままにして、競うように即食商品の開発を推進。そのうえで商品部と営業企画部が連携して最終的に顧客にとって利便性の高い売場となるようにコントロールするほか、「新MD推進」担当者が、トレンドを反映したメニューや部門横断型での商品開発を提案する体制をとっている。これにより総菜・ベーカリーで約400品目以上という幅広く、かつ魅力的な品揃えを実現しているのだ。加えて原信・ナルスはグループのプロセスセンター(PC)の活用により値ごろな価格を実現できていることも特筆される点だ。今後はPCの有無や、それをいかに活用できるかといった点も商品の競争力を決める大きな要因となりそうだ。
独自商品で重要な存在となるのがプライベートブランド(PB)商品だ。しかし食品のPBも、昨今はドラッグストアなど異業態の相次ぐ参入により競争が激化している。
こうしたなか、セブン&アイ・ホールディングス(東京都:以下、セブン&アイ)が開発する、国内トップクラスの有力PB「セブンプレミアム」も、22年2月期に初めて売上高が前期実績を下回る事態となった。これを受けて同社は抜本的なPB改革を進めている。具体的には取引先、またグループ各社との連携強化によって、商品の価格競争力と付加価値を高めようとしている。
価格競争力では、グループ各社の担当者で一緒に取引先を訪問し、原料調達や販促など共通化できる部分を模索し、これまで以上に連携をとっている。
付加価値の向上では、PBの品目数を約500品目減の約3500品目まで絞り込み、そのぶん1品1品の価値を磨き、単品当たりの売上増をめざす。取引先とは、専門的な商品知識を持つ研究開発担当者とも直接対話を図り、セブン&アイだからこそ実現できる高度な技術・製造ノウハウを生かした商品開発を追求している。
SMもブランディングが求められる時代に
独自商品の開発競争が激化するなか、開発した商品をうまく消費者に訴求することも求められるようになっている。
そうしたなか、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都)傘下のカスミ(茨城県)は22年1月に発売したオリジナルブランド「MiiL(ミール)」において、商品シリーズのブランディングに注力している。商品のコンセプト、ターゲットを明確に定めて、商品部で総力を挙げて商品開発を推進し、約1300品目という幅広いラインアップで販売をスタート。加えて、食の専門性を追求したカスミの新業態「BLANDE(ブランデ)」の店頭で売り出すとともに、SNSでも積極的に情報を発信し高い認知度の獲得に成功している。カスミ常務取締役営業戦略担当の満行光史郎氏は「独自化によって他社と差別化を図ることが求められる今、食品小売企業自ら、商品や自社の魅力をお客さまにきちんとアピールすることが不可欠になっている」と述べている。
これまで商品を仕入れて販売することが主だったSMでは、ブランディングに成功している企業は数えるほどしかない。またブランドの醸成とは一朝一夕でできるものではない。そうしたなかカスミでは、バイヤーをはじめ従業員にマーケティングの教育を始めるなど、着実に取り組みを進めている。今からこのような発想・体制のもと商品政策・開発に取り組む企業とそうでない企業とではこの先大きな差が生じてきそうだ。
国内外で原材料を開拓生産者の支援も
産地開拓や原材料の調達など、これまで以上にサプライチェーンを遡って商品開発を進める動きも加速している。
サミット(東京都)はコロナ禍で控えていた産地訪問を再開し、他部門のバイヤー同士が一緒に産地へ出向く取り組みを進めている。そうすることで、異なる部門でまとめて買い付けることによるスケールメリットを生かし、高品質かつ低価格な商品を実現できる原材料の開拓を図っている。
関東を中心に1都12県で宅配事業を展開するパルシステム生活協同組合連合会(東京都)は、厳しい原則に基づいた「産直協定」を結んだ契約産地を全国に約390カ所も持つ。同連合会はこれまでの商品開発を通じて構築してきたネットワークを生かし、契約産地と食品加工メーカーを結び付けることで、産直素材を使った商品を拡充しようとしている。安全・安心という付加価値の高い商品を供給するべく生産者のサポートにまで乗り出している先進的な取り組みといえる。
近年では、自社で海外から素材や商品を直輸入する企業も増えてきた。しかし、昨今の円安や海上運賃の高騰などにより、輸入開発についても今まで以上に自社で工夫をしなければ収益や価格競争力が出せない状況になっている。
こうしたなかイオン(千葉県)子会社でオーガニックSM「ビオセボン」を展開するビオセボン・ジャポン(東京都)は、自社で欧州現地の物流ルートを整備したほか、イオングループ各社との共同輸入を始めて、物流効率を大きく高めている。
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このように急激な外部環境の悪化を受けて、食品小売企業は、価格対応とともに独自性も発揮するべく、これまでよりも、原材料の調達や商品の企画、製造段階にまで自社で入り込み商品開発を進めていることがわかる。現在の厳しい外部環境は23年も続くとみられ、今後勝ち残っていくためには、食品小売にとどまらず、こうした取り組みを進めて差別化を自ら図っていくことは必須といえるのかもしれない。
それは食品小売企業にとっては新たな領域への挑戦であり、これまでにない専門知識やノウハウがいっそう必要になることを示唆している。本特集では先進的な企業が価格対応や独自化を図るために、最前線で実践していることをまとめている。今後の商品政策、商品開発のうえで一助となれば幸いだ。