メニュー

「簡便・時短」から「タイパ」へ 急拡大する「タイムパフォーマンス」志向

Z世代から広がった「タイムパフォーマンス」志向は、今や主婦層や共働き世帯にまで広がっており、食品・サービス分野でも「タイパ」志向の商品が増加している。簡便・時短から一歩進んだ、時間対効果=「タイパ」の需要について考えてみたい。

時間対効果=「タイパ」の需要について考えてみたい。(i-stock/Seiya Tabuchi)

キザシ発掘ラボ® とは
消費者の暮らしの変化をトレンドやデータなどから把握・分析し、これから生まれる「消費のキザシを発掘」するための電通tempo独自のマーケティングチームです。

Z世代を中心に急速に浸透するタイパ意識

株式会社電通tempo
ソリューション&メディア本部統合ソリューション室キザシ発掘ラボマーケティングプランナー キザシ発掘Lab 主任研究員永野 薫氏(右)
コミュニケーションプランナー キザシ発掘Lab 研究員杉田 智恵氏(左)

 昨今、耳にする機会が増えた「タイパ」というキーワード。「タイパ」とは「タイムパフォーマンス」の略語であり、「コストパフォーマンス(費用対効果)」をもじり、タイム(時間)に置き換えた「時間対効果」を意味している。

 「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2022』」で大賞を受賞した「タイパ」は、Z世代を中心に急速に広がった用語でもある。事例として頻繁に挙げられるのが、録画した映画やドラマなどの動画を倍速で見る「倍速視聴」。デジタルサービスによるコンテンツ過多の環境下、Z世代をはじめとした若年層は常に時間に追われており、「深く理解できなくても世間の動きや話題を網羅したい」「移動中などスキマ時間に見れば効率がいい」といった考え方から、時間対効果の高いショート動画や倍速での視聴を取り入れているのだという。こうした動きを受け音楽配信の世界においても、スキップされないようイントロにキャッチーなフレーズを盛り込んだ曲が流行るといった傾向も見受けられる。

 「ながら見」など複数の事柄を同時並行する、効率的な時間の使い方を重視する「タイムパフォーマンス」志向は若年層を中心に広がってきたものだが、以前からニーズとして高かった「時短」志向とも相性が良く、現在は主婦層や共働き世帯に至るまで「タイムパフォーマンス」志向が拡大。それに伴い、動画視聴や音楽配信といったエンタメ領域だけでなく、家事の領域にも「タイパ」を意識した商品やサービスが増加している。

コロナ禍の収束に伴い、高まる「タイパ」志向

 「タイムパフォーマンス」志向は、コロナ禍生活4年目を迎え、日常生活の一部がコロナ前の形に戻ってきた現在、加速度的に拡大している。

 「セイコー時間白書2022」によると、時間の意識について87.3%が「時間を意識して行動する」と回答。これは対21年比で2.3%増加している。また61.8%が「時間に追われている」と感じ、48.0%と約半数が時間に追われる感覚が以前と比べ「強くなった」と回答している。

 さらにコロナ禍以降、時間の使い方で困っていることを尋ねると、「他人がどのような時間・リズムで生活しているかがわからない」(52.5%)、「時間を自分で効率的に計画し、使うことが難しい」(51.1%)が上位に挙げられており、さらに「こなすべきタスクが増えて時間が足りない」と感じる人が37.8%から48.1%と10%弱も増えている。

 ナイルのタイムパフォーマンスに関する調査レポートによると、タイパを意識している人に、日常生活でタイムパフォーマンスを意識する事柄について尋ねたところ、最も多かったのは「食事・料理」。その後も「掃除」「仕事」「買物」「洗濯」と続いており、消費者の家事に関する「タイパ」意識の高さが見て取れる。

 家事を行う主婦層に訴求するキーワードとして「簡便」や「時短」が広く普及しているが、コロナ禍以降、面倒な作業時間を圧縮することで、自分の好きなことをする時間を創出する「時産」という考え方が少しずつ浸透してきた。

 「タイムパフォーマンス」志向は「単純に時間がないため作業効率をアップしたい」という「時短」型の考え方と、「作業を効率化することで生まれたスキマ時間をより大切にしたい」という「時産」型の考え方を併せ持っている。

 「タイムパフォーマンス」は現代人においてニーズの高い志向であり、食品スーパーの商品構成やサービスにおいても、今後、必要不可欠な要素となっていきそうだ。

「タイパ」商品続々、コーナー化で新たな気付きを

 ここからは「タイムパフォーマンス」に関連する商品群やサービスを見てみよう。

 まず、永谷園の「パキット」シリーズは半分に折ったパスタをパッケージに入れて電子レンジであたためるだけで、“パスタの茹で” と“ソースの温め”が一度にできる画期的なパスタソース。「1人分のパスタを茹でるのが面倒」といった声から誕生したタイパに優れた商品で、電子レンジを使用したパスタの新しい調理方法を提案する。

 エスビー食品の「本挽きカレー」は溶かしやすいパウダー状のルウを採用することで、フライパンや電子レンジを使って簡単にカレーを作ることができる。

 ニチレイフーズでは、電子レンジで指定の時間温めると冷たい料理が出来上がる新技術を採用した「冷やし中華」を発売し、好評を得ている。

 アサヒコでは、たんぱく質や食物繊維が摂取でき「ながら食べ」や「タイパ食」に最適な総菜バー「たんぱく質10gの豆腐バー 蓮根と枝豆」を発売。日清食品では定番の「チキンラーメン」をそのままかじって楽しめるよう塩分を約50%に抑えた「0秒チキンラーメン」を発売し、大きな話題となった。

 「タイパ」ニーズに合わせて、既存品をリニューアル展開するブランドもある。クラシエフーズの棒付きキャンディ「チュッパチャプス」は、飴の大きさを通常の半分にすることで舐める時間を短縮した「チュッパチャプス ミニ」を発売。

 調理時間の効率化という観点では、ちょい足しで料理の幅が広がる「チューブ調味料」が人気に。これまではわさびやからしなど薬味商品が中心だったが、キユーピー「レシピひろがるパスタソース」のような新たなタイプのチューブ調味料も生まれている。

 流通業側でも「タイパ」に関する取り組み事例が出てきている。小田急商事が運営する「Odakyu OX 祖師谷店」では、料理に必要な材料を商品カートにあらかじめ入れた状態で店頭に用意するサービスが話題に。ユーザーからは献立を考えるストレスが減る、買物の時短につながるなどの声が上がっている。

「Odakyu OX 祖師谷店」で展開された石狩鍋が作れるカートとスープカレーが作れるカート。同店店長の片山英樹氏によると、メニュー提案の強化を図る中でSNS上の投稿から着想を得て実施したという

 セブン-イレブン・ジャパンではスマホで注文した商品を最短30分で指定の場所に届けるサービス「7 NOW」を約1200店舗で導入している。

 感染拡大以前の働き方に戻り時間に追われる人が増えたことで「タイパ」ニーズはより一層高まることが予想される。これまでも簡便・時短を謳った商品やサービスは多数あったが、新たなトレンドである「タイパ」をキーワードに用いることで売場に鮮度感を出すことができるだろう。店頭でも「タイパ」につながる商品やサービスを集積し家事の効率化を提案することで、来店者への気付きにつなげていきたい。