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氷結に麒麟特製、「甘くないチューハイ」が売れるワケ!キリンビールが描くRTD戦略

コロナ禍を契機に、人々の在宅時間の過ごし方や嗜好・ニーズが多様化している。そのような中、酒類においてRTD(Ready to Drink:栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料)市場は拡大傾向にあり、家庭用酒類市場では最大のカテゴリーとなる見通しだ。
そうした状況下、キリンビール(東京都)では、新たな提案として「氷結無糖」シリーズや「麒麟特製」など、「食事に合う」をコンセプトとした新商品を発売している。

2020年10月に発売された「氷結無糖シリーズ」が“食事に合うRTD”として支持を集めている。直近では2022年10月に新フレーバーの「グレープフルーツ」を発売

RTD市場は右肩上がりで拡大中!

 RTDカテゴリーは2001年に「氷結」が登場して以降、右肩上がりで伸長を続け、中長期的にも需要は拡大していくと予想される。飲料メーカー各社はコロナ禍で変化した生活様式や嗜好を反映した商品を投入しており、足元では、家庭での料理に合う味わいや、カロリー・糖質の制限を求める「ギルトフリー」を求める消費者のニーズに応える、「甘くない」RTDが注目されている。

 また、酒税改定によって酒類の価格差が生じ、購入者の選択肢や市場の構成比が変化する中、RTDは比較的購入しやすい価格帯という点からも堅調な伸びを見せており、市場拡大の一助となっている。

 市場が堅調に推移する中、キリンビールでは「氷結」ブランドを柱としたRTDカテゴリーの活性化に力を入れる。キリンビールマーケティング部RTDカテゴリー戦略担当カテゴリーマネージャーの松村孝弘氏は「RTDの商品開発において最も難しい点は、お客さまの嗜好の変化が激しく、そのスピードも速い点。重要なのは、お客さまのニーズの半歩・一歩先を捉えることだ」と話す。

 ここ数年のキリンビールのRTDカテゴリーは、「氷結」というロングセラーブランドが中心にありながらも、アルコール度数の高いストロング系チューハイが大きく注目されたほか、レモンサワーが一大ブームとなるなど消費者のニーズは目まぐるしく変化してきた。

 そうした中でキリンビールがめざすのは、お客の基本ニーズの裏側にある「なぜそれが欲しいのか」という気持ちに寄り添い、よりよい時間の過ごし方や心の充足、健康などに配慮した商品展開だ。長引くコロナ禍や資源高騰、世界情勢の変化による物価高などが人々の生活に与える影響は大きい。とくに健康への配慮や家庭での食事時間を豊かにしたいというニーズが商品コンセプトにも反映されている。

「食事に合うRTD」が続々と登場

 その一例が、「甘くない氷結」として2020年10月に発売された「氷結無糖シリーズ」だ。同シリーズは「無糖」を謳っているが、スッキリ感や爽快さ、果実由来の味わいやほのかな甘み、お酒のおいしさを同時に実現しながら、食事に合うRTDとして支持を集めており、直近では2022年10月に新フレーバーの「グレープフルーツ」を発売。普段はビールを好む消費者からも支持されており、ビールと並飲するケースも多いという。

 販売の好調ぶりは数字にも表れている。過去20年間に新発売した同社RTDブランド内において「氷結無糖」シリーズは最速で販売数5億本を突破(2020年10月発売以来23カ月での達成、250mℓ換算)。氷結無糖シリーズの好調も手伝って、氷結シリーズの2022年1月~10月の販売実績は2001年の発売以来過去最高売上を記録。「氷結無糖」シリーズについては、当初の約1.2倍に上方修正した、年間販売目標である約1400万ケース(250mℓ×24本換算)を突破している。

「麒麟特製」も食事と合わせたシーンを想定したRTDシリーズの1つだ。2018年に「キリン・ザ・ストロング」というブランドから始まり、2020年に同ブランドをリブランディングするかたちで誕生したこの「麒麟特製」。同シリーズは「飲みごたえ」と「本格的なお酒のおいしさ」の両立を追求したブランドとの位置付けとなる。

「麒麟特製」は「飲みごたえ」と「本格的なお酒のおいしさ」の両立を追求したブランド

 直近では2022年9月に「麒麟特製 レモン酎ハイボール」「麒麟特製 クリア酎ハイボール」、2022年12月にはレモン果皮由来のほろ苦さを特徴とする「麒麟特製 皮ごとレモンサワー(期間限定)」も投入。2022年9月発売の2商品は、レモン浸漬酒に焼酎を使用したウォッカベースのハイボールで、すっきり甘くない味わいに仕上げているのが特徴だ。

 高付加価値型の位置付けとしては、2021年3月発売の「麒麟 発酵サワー」シリーズもある。同シリーズはキリンビール独自の発酵技術を最大限に活用し、発酵由来のおいしさを引き出しているのが特徴だ。自然の恵み「発酵」による、心地よいおいしさが昨今高まる健康志向ニーズを捉え、販売も好調だ。

高付加価値型の位置付けとなる、2021年3月発売の「麒麟 発酵サワー」シリーズ。直近では2022年9月に新フレーバーの「麒麟  発酵ジンジャーサワー」を投入した

 2022年9月には新フレーバーとして「麒麟 発酵ジンジャーサワー」を発売。キリンビールとしては、「麒麟 発酵サワー」を前述の2ブランドと同様に新たなカテゴリーとして育てていく方針だ。

キリンビールが描く今後のRTD戦略

 キリンビールにおけるRTDの今後のビジョンについて、松村氏は「既存ブランドの育成と、新しい領域への挑戦の2軸で考えている。とくに既存ブランドについては『氷結』『麒麟特製』を中心に、新たなチャレンジとしては『麒麟 発酵サワー』の展開で、市場を大きく伸長させていきたい」と話す。

 ほかのカテゴリーとは異なり、RTDは「非計画購買が多い」という特性がある。購買の後押しとなる情報を店頭やパッケージでわかりやすく伝えるほか、デジタル広告を中心に広告投下も積極的に行っていく構えだ。

 小売業と連携した展開にも力を注ぐ。とくに「麒麟特製」シリーズなどは、食品部門と連動したPOPを設置するなど、チェーンストア企業との連携による売場展開も一部で行っている。スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの販売が大半を占めるRTDだが、今後は市場拡大を見据え、他業態での展開も拡大する可能性もあるとしている。

 「食事と合う」というコンセプトがお客に伝わり、総菜をはじめとした即食商品、あるいはそのほかの食品と連動した売場展開などが実現すれば、さらなる販売拡大も期待できることだろう。