2019年頃より「作り置き」に代わり検索頻度が急上昇している「下味冷凍」。両者の評価を分けたものは何なのか。レシピ数358万品、月間約5,800万人が利用する料理レシピ投稿・検索サービス「クックパッド」(https://cookpad.com)の検索ワードからそのトレンドを探った。
料理の負担をどう解消するか?生み出された“時短”の知恵
私達は忙しい。専業主婦世帯と共働き世帯の割合が逆転したのは90年代。それから20年余り、多くの女性(もちろん男性も)は仕事・家事・育児をパラレルでこなしている。手のかかる料理は頻繁にはできないけれど、最低限は日々の料理で栄養バランス良く家族の健康を維持したい。それが世の主家事担当者の声だろう。そこにコロナ禍が重なり、家での料理の機会が増え、これまで以上に大きくなった料理の負担をどう解消していくのか?という難問にぶつかった。今回はその難問を、クックパッドの検索ワードに現れる「生活者の知恵」として紐解いていこう。
まずは2014年から検索頻度※が上昇し始めた「作り置き」だ。これは休日など時間のある時に料理をまとめて多めにつくり、それを平日に分けて食べるというのだ。人気のレシピはマリネやきんぴら、煮玉子などの副菜が多く、夕食にあと1品欲しい時やお弁当の隙間を埋めたい時に「作り置き」が活躍した。レシピ本も多く出版され、休日に何品も仕込み、琺瑯(ほうろう)などの容器に入れて、複数品を並べ真上からの俯瞰写真を撮ることも流行した。次第に、この調理済みの料理を冷蔵保存する「作り置き」は「冷凍保存して消費期限を長くしたい」という願望になり「作り置き×冷凍」という組み合わせで2016年頃から検索されるようになった。冷凍できる作り置きメニューで人気のものはハンバーグや唐揚げ、つくねなどお弁当のメーンになるようなレシピが多い。
そして2019年頃から検索頻度が上昇したのが「下味冷凍」だ。これはジップロック®などのチャック付き保存袋に、一口大に切った肉や野菜などの食材と調味料を一緒に入れ、下味を付けながら冷凍保存する。食べる際は半日ほど前から冷蔵庫に移し解凍しておき、あとはそれを焼くだけで味のしみたメーンの1品ができるという新しい時短のテクニックだ。さらに時短だけではなく調味料と合わせて冷凍することで、味がしみ込み、食材が柔らかくジューシーになるという美味しさへの付加価値も評価されている。ちなみにこの下味の状態を冷蔵庫で保存するものは「つけおき」と呼ばれる。
※ SI値:Search Index:1000回あたりの検索頻度
このように「調理時間を短くしたい、美味しい料理を簡単につくりたい」という生活者の願いは、工夫を重ね進化してきた。これらの調理スタイルを分類すると下の図のようになる。
これまで冷凍庫は賞味期限を一時的に延ばすための駆け込み寺であった。それが「下味冷凍」によって賞味期限に追われることなく、計画的に美味しく食べることができる「攻めの場」として冷凍庫は変化した。
「下味冷凍」は時短なのか?
ここまで時短テクニックとして「下味冷凍」を紹介してきたが、するどい読者の方なら疑問に思ったかもしれない。まとめて沢山つくる「作り置き」とは違い「下味冷凍」は調理の合計時間が短くなっていないのではないか?と。まさに合計時間は大きく変わらないが、調理のピークタイムの負荷を減らすことができるのが「下味冷凍」のポイントなのだ。
想像してみてほしい。平日の夕方以降、仕事が終わり急いで子供を保育園へ迎えに行き、空腹を訴え不機嫌な子供をやり過ごしながら夕食を手早くつくるその時間の忙しさを。この時に袋から出して炒めるだけでいい、切ることも味付けもしなくていい「下味冷凍」はピークタイムを助けてくれるのだ。時間のある休日に「下ごしらえの時間をまとめ、移行する」これが新しい知恵だ。その証拠に「下味冷凍」を検索している年代を見ると20代後半、30代前半の女性が多く、忙しい子育て層に支持されていることがわかる。また曜日別で見ると日曜日の検索頻度が高い。
人気の「下味冷凍」レシピは、炒めるだけでメーンになる豚・鶏
「下味冷凍」と組み合わせて検索されているワードを見てみると、食材では「鶏、豚、鶏むね肉、鶏もも肉、魚、豚こま切れ」など安価で食卓のメーンになる肉類が多い。最近では「魚」がランクアップしており人気のレシピはブリの照焼や、タラと白菜のレンジ蒸しなどがある。鮮度の落ちやすい魚は買ってきてすぐに調理しなくてはいけないという悩みがあったが、「下味冷凍」によってそれも解決した。
さらに調味料を見ると「塩麹、味噌、はちみつ、ヨーグルト、マヨネーズ」などがあり、柔らかくジューシーにすることを期待しているようだ。これらの組み合わせ検索は「炒めもの」とは違う傾向を示している。
2020年、コロナ禍で明暗を分けた「作り置き」と「下味冷凍」
経年で検索頻度を見ると2020年に「作り置き」は減少し「下味冷凍」は上昇した。「下味冷凍」はコロナによる一度目の緊急事態宣言が発令される前の2月末から検索頻度が上昇し、著名人の感染のニュースなどが流れ警戒心が高まったとされる3月末にピークを迎えた。これは外出控えに伴い、スーパーへの買い物頻度を減らし、まとめ買いをする人が多くなったことが関係していると思われる。まとめ買いをした食材を、1週間後も美味しく食べるための保存方法として「下味冷凍」が評価されたからだろう。一方「作り置き」は保存期間が数日と短いこと、同じ味を食べ続けなければいけないことなどが起因し減少したと思われる。
ただ2021年に入り「下味冷凍」もややダウン傾向である。長引くコロナ禍で自粛疲れを感じる人も多い。同じように計画的な調理を続けることにも疲れるだろう。時にはテイクアウトやメニュー用調味料なども利用し、調理の負荷を減らすための選択肢の一つとして「下味冷凍」は定着していくだろう。