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EDLPの成功で拡大続くスーパーマーケットの冷凍食品 新たに浮上した課題とは何か

家庭用冷凍食品の販売チャネルは、コンビニエンスストア(CVS)の急拡大を筆頭に多様化を続けているが、依然スーパーマーケット(SM)での販売比率が最大ボリュームである。SMの冷凍食品は、一律5割引きが横行する時代を約10年(2004年~2014年)経験。2015年以降は冷凍炒飯の「進化」で注目を集め、現在は新店や改装店では売場が拡大傾向にある。そんな中、浮上してきた課題とは何か。

スーパーマーケットの冷凍食品売場は特売からEDLPへと大きく変わってきた

「お試しセール」の一律割引からEDLPへ

 かつてSMの冷凍食品売場では割引販売がエスカレートしていて、週に1度「全品〇割引」といった安売り手法が恒常化していた。果たして安さは正義か。答は否である。消費者にとっては、欲しいときに高く感じて買えないという「不親切な」売場であった。しかも、販促戦略とはいえない売り方に「我慢できない」とメーカーが反発しようものなら、売場からそのメーカーの商品を外してしまうという横暴な企業まで出現した。これは、正常な商取引ができない暗黒の時代であった。

 そもそも1970年代末頃、一律割引セールを始めたのは東急ストアだ。当時は冷凍食品業界自体がまだ10年という駆け出しの時期で、当時のバイヤーが「お試しセール」の意味を込めて3割引セールを実施したのである。ところがこれが大ヒット、売場がスカスカになるくらい売れた。つまり割引をしていないライバル店では売れないわけで、次第に一律割引戦略がSMの間で広がっていった。お客は一律割引の日を心待ちにするようになっていったのである。弁当向け冷凍食品が市場に定着する頃には、より刺激の強い4割引となり、さらに2004年イトーヨーカ堂が「全品半額」を始めた衝撃は、鮮明に記憶に残っている。こちらは一瞬だったが、ダイエーの6割引もショックな出来事であった。

 この割引セールは冷凍食品のヘビーユーザーを育てた一方で、「安かろう悪かろう」と感じた消費者の足を売場から遠のかせてしまうことにもなった。メーカーは利益を挙げられず、CMや店頭販促費も捻出できないほどになっていった。そしてついに2013年、消費者庁が価格表示に有利誤認を生じているとして行政指導を行い、小売業関連団体には冷凍食品の価格表示適正化を要請した。その翌年、イトーヨーカ堂が半額セール中止を宣言して以降、冷凍食品売場では一律割引の代わりに毎日低価格で販売する、エブリデー・ロープライス(EDLP)化が進んでいくことになる。

ショーケースの扉を超えた提案

 2014年はイトーヨーカ堂が5割引終了宣言をした年、そしてダイエーがイオンの完全子会社になった年として感慨深く思い出される。日本のSMの冷凍食品売場第1号は1963年、ダイエー三宮店だった。当時の苦労を元ダイエー専務取締役の川一男氏が冷凍食品新聞社刊の書籍で語っている(1989年「冷食事始」)。冷凍食品売場の構築は、まず川氏自身がアメリカに行き、八尺換算の大きさのショーケースを持ってくることからのスタートだったという。それから約50年を経て、ダイエーはイオングループになった。その頃には、冷凍食品売場はリーチインショーケースへと切り替わりつつあった。

 現在の売場は、リーチイン+販促企画の平ケースといった構成が一般的だろう。消費者もこの構成に徐々に慣れてきて、リーチイン化による売上減の悩みも少なくなっているだろう。一方メーカーでは、見栄えの良いタテ型ピロー包装の導入を進めてきた。しかし、買物客にとって分かりやすい売場づくりはまだまだ工夫が必要だろう。どこにどのような商品があるのか、メニューに結び付く提案ができているのかという視点で売場を見てみるといまひとつの店が多い。今こそ、提案力のある売場づくりを再考してみてはどうだろうか。

 一方で、コンビニエンスストアの冷凍食品の過去5年ほどの歴史を振り返ると、売上が良いのはセブン-イレブンの平ケースだ。シズル写真を商品の全面に配し、今すぐに食べたいメニューが視覚的に分かりやすいのである。SMの冷凍食品売場は何年経っても、いつまでも、EDLP訴求だけだ。スーパーでシズル感を演出するには、例えば試食提案販売、それが難しければ、食卓イメージの展示や写真、メニュー写真のPOPや、書店のような店員のお勧めコメントの掲出などが有効なのではないかと思う。

冷凍食品は生鮮食品 コールドチェーンを切らないことが重要

消費者にとって利便性の高い場所に冷凍食品を配置することが重要だ(JGalione/istock)

 もう1点、SMに再考を促したいことがある。それは冷凍食品売場の位置である。結論からいえば、レジに近い総菜売場の対面が今のところベストの位置だと考える。総菜売場と冷凍食品売場が近づくことで、当日すぐに食べるメニューとしての総菜と、買い置きとしての冷凍食品を選ぶ空間が演出できる。総菜業界にはかねてより、生鮮3品に総菜を加えて「生鮮4品」という言葉があった。ここにさらに冷凍食品を加えて、「生鮮5品」を主張したい。冷凍食品売場では温めるだけで食卓に並べることができる商品ばかりではなく、弁当向け商品、米飯や麺の主食系、スナック、野菜・フルーツ、スイーツまで揃うことはいうまでもない。

 さらに、生鮮のごとくフレッシュな冷凍食品は、マイナス18℃以下の温度管理が重要である。レジに近ければカゴに入れて店内を回るうちに半解凍、といった事態を招く心配もない。真夏にアイスを買った場合は誰でも相当の配慮をもって持ち帰ると思うが、それと同等の温度ケアをして冷凍食品は本来持ち帰るべきなのである。レジを通過後にしっかりと保冷バッグ、保冷剤(もしくはドライアイス、氷はNG)を使い、持ち帰ることを推奨してこそ、冷凍食品の販売は完結する。

 付け足して苦言をいえば、最近、冷凍野菜や冷凍水産系商品・畜肉系商品をバラバラに配置する店舗が多くなっているように見えるが、これは親切なようでいて、実は顧客の利益にはつながっていない。品質保持にコールドチェーンが重要な役割を果たす冷凍食品。売場が分散することはそれだけ品質の低下を招いてしまうということでもあるのだ。

 コールドチェーンは家庭までつなげなくてはならない。買って帰ったら即冷凍庫に入れ、賞味期限に限らず買ってから3カ月以内に使い切るなど、おいしく食べる商品知識を普及させてこそ、次の購買につながり、そのSMの冷凍食品売上は伸びていくと認識してほしい。作る者も運ぶ者も、販売者も消費者も、コールドチェーンで品質をつなぐワンチームなのである。

 

山本純子責任編集、冷凍食品専門情報サイトは「エフエフプレス」(https://frozenfoodpress.com/)