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コロナ禍における家飲みマーケットの分析から見えてきた「市場拡大」のヒントとは?

MDエディション

新型コロナウイルスの影響によりお酒を飲む機会が飲食店から家へシフトし、家飲み市場が拡大してきている。コロナ禍において、どんなシーンで家飲みが伸びてきているのか?新たに家飲みに求められてきているコトとは?家飲みマーケットの中身を分析することで、市場拡大のヒントが見えてきた。

コロナ禍における酒類の市場動向

 総務省統計局家計調査で1世帯あたりの家庭での酒類支出金額を見てみると、2010年が3171円/月だったのに対し2019年には2947円/月と長期的には減少傾向にあったが、2020年4月~6月は3262円/月で対前年同期比117.7%と家飲み支出が増加してきている。

対前年同期比117.7%と家飲み支出が増加してきている。 gettyimages/recep-bg

 図1は8月までの各業態での酒類の売上高前年比の推移を見たもので、コンビニエンスストア以外は好調に推移している。日本フードサービス協会によると8月の飲食店全体の前年比は84%と回復傾向にあるが、居酒屋・パブ業態は同41%と外飲みの回復が遅れており、家飲み需要は継続すると思われる。

 外で飲めない分、家でお酒を楽しんでもらうためにもコロナ禍における家飲みでどんなシーンが増えているのか?どんなコトが求められているのか?家飲みマーケットの詳細を見ていきたい。

家飲みマーケットを牽引する「夫婦飲み」がお酒利用の多様化を促す

 さまざまなデータから家飲みが増加していることが示されているが、では誰のどのようなシーンのマーケットが伸びてきているのだろうか?図2ではそれぞれの家飲み機会数について2020年3月~7月と前年同期間との増減数を算出することで、どのような家飲みが増えているのか減っているのかを調べたものである。

 いちばん家飲み機会数が増えているのは既婚者の夫婦飲みとなっている。既婚者のひとり飲みは減少しており、コロナ禍で同僚や友人など他人と飲む機会が減った分、夫婦の時間が見直されひとりで飲むよりは夫婦で楽しもうという生活者が増えたようだ。

 実はこの夫婦飲みが家飲みにおいてのお酒利用の多様化を促す大きなきっかけになっている。図3の青色の線は2019年3月~8月の期間でスーパーにおいて1人あたりどれぐらいのカテゴリー(発泡酒、ワイン、チューハイなど)のお酒を購入しているのかを見たものである。特定のカテゴリー1種類しか購入しない人が28%、3種類までで65%を占めており意外と保守的な購買行動であることが見てとれる。外飲みの場合は人が飲んでいるお酒がおいしそうに見えて新しいカテゴリーに挑戦することも多いかと思うが、コロナ以前の2019年の家飲みのデータを見ると56%の人がひとり飲みしており、なかなか新しいカテゴリーに挑戦しにくい状況が窺えた。コロナによって夫婦飲みが増加し互いの酒文化の交流が促された結果、図3の赤線のように飲むお酒のカテゴリーも増えたようである。また図4にあるように平休時間帯別の増減回数を見ると夕食前、深夜の時間帯の利用が増加しており、それに伴いノンアルコールのような雰囲気を楽しむようなカテゴリーから自分でつくるRTSまでさまざまなシーンに合わせたお酒が利用されるようになり家飲みマーケットを押し上げていることが窺える。

一緒に食べられるメニューの変化をとらえ食シーンの提案を

拡大図はこちら

 このようにコロナによって家飲みは飲むシーンや時間が変化し、飲む酒も多様化してきている。それでは一緒に食べられるメニューにはどのような変化が起きているのだろうか?それぞれのお酒に求められているメニュー提案を行うことでより充実した家飲みをしてもらい、マーケットの拡大につなげていきたい。表は2020年3月~6月の期間でそれぞれのお酒と一緒に食べられるメニューをリフト指数(一緒に食卓に並びやすい)順にランキングすることで各お酒との相性のよさを、そして同時出現率の増減から求められてきているメニューを見つけることができる。

 枝豆、チーズなどお手軽に出せるメニューがどのお酒にもランクインしており、同時出現率も伸びてきている。刺身もおつまみとしての人気が高いが同時出現率は減少傾向だ。コロナ禍により買物頻度が減少したため、生鮮品よりは冷凍の枝豆などストックしやすい商品が選ばれやすくなってきている。

 ビールとアイスクリームが一緒の食卓に並びやすく、同時出現率が大きく増加してきている点も興味深い。買物カゴ分析で酒類との同時購買状況を見るとプレミアムアイスやチョコレートなども一緒に買われやすくなってきており、夫婦飲みにはデザートも求められていることがわかる。

 最後にチューハイやビールとの同時出現率が伸びてきている焼き餃子に注目したい。そもそもコロナ禍において餃子の食卓登場は高まってきており、「マスクのおかげで口臭をあまり気にしなくてよくなった!」「外出機会が減ったので昼からにんにく料理でも平気」といった人が増えてきている。実際にスーパーでの歯磨き粉やマウスウォッシュなどが含まれるオーラルケアのカテゴリーは前年割れが続いている。酒類との同時購入が増えているのも、餃子の皮、にんにく、ニラでとくに若年層が手づくり餃子で家飲みをというシーンが拡大している。酒類と餃子の皮を購入している人の買物カゴを分析してみるとサルサソースやナンプラー、チリソースなどのエスニック調味料、また海老やチーズなどがリフトしており、つけダレや中具をアレンジした餃子をおつまみとして楽しんでいる状況が窺える。

 家飲みマーケット拡大のための対策としては定番おつまみに加えて、コロナ禍によって増えた①ストックできてパッと出せる商品②お酒の〆となるデザート③アレンジ焼き餃子、の提案が効果的だと思われる。

文=日本食研ホールディングス株式会社食未来研究室 専任課長 児玉一穂  食未来研究室ホームページ:https://nsk-shokumirai.com/