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青森ダウンなどSANYOCOATの10~20万円の高額アウターが飛ぶように売れる理由

「マッキントッシュ フィロソフィー」「ポール・スチュアート」など20ブランドを展開する三陽商会(東京都/大江伸治社長)。ライセンスビジネスの印象が強いが、最近ではオリジナルコートブランド「SANYOCOAT」の好調ぶりがひときわ目立っている。とくに「100年コート」「青森ダウン」の2ラインは約10万円~20万円台の高価格帯ながら完売品も出るほどの人気だ。

コロナ禍の収束にともない「リベンジ消費」も一段落した今、なぜこれら高価格帯のアウターが飛ぶように売れているのか。同社コーポレートブランドビジネス部 コーポレートブランド課長の浅野英樹氏に好調の秘訣を聞いた。

受け継がれるコートを目指した「100年コート」

SANYO COATバルマカーンコート
レインウールのバルマカーンコート

 三陽商会のオリジナルコートブランド「SANYOCOAT」が展開する「100年コート」。手入れをしながら世代を超えて着られることを目指してつくられた約10万円~20万円台の高価格帯のコートが、いま好調だ。

 100年コートのほか、2024年秋冬シーズンのレディースでとくに好調ぶりが際立ったのが、耐久撥水機能の高いウール素材「レインウール」を用いたバルマカーンコート(ステンカラーコート)。前シーズンは途中で欠品してしまい、急きょ生産数を1.5倍に積み増した。レインウールでは、人気スタイリスト 大草直子氏とのコラボレーションによるショート丈のPコートも支持を集めた。

 そのほかの人気アイテムは、「100年コート ショートトレンチモデル」。昨今の気候変動に対応し、ライナーを外してさっと羽織れる機能性が注目されたようだ。

 一方メンズでも、「100年コート」はトレンチコート型とバルマカーンコート型の2種類を展開。こちらも同様に10万円台の定番モデルから20万円を超える「100年コート 極 KIWAMI」モデルまでよく売れており、型によっては完売しているモデルも多い。

「これらの好調により『 SANYOCOAT』は、2024年度下期の売上が前年を超える勢いで推移している」と、浅野氏は顔をほころばせる。

ダウンの素材から縫製まで「青森産」

SANYO COAT青森ダウン
青森ダウン

 2023年秋冬シーズンには、新たな高価格帯アウターラインをリリースした。意外にもそれは「ダウン」だ。

「青森ダウン」は、高い防水・防風・透湿機能を持つ「PERTEX (R) SHIELDAIR」を使用。三陽商会の自社縫製工場「サンヨーソーイング 青森ファクトリー」で一貫して縫製を行い、中に詰めるダウンも青森産と「メイドイン青森」にこだわった。

 メンズ・レディース各1アイテムずつでリリースしたところ、20万円近くするにもかかわらず高い消化率。2024年シーズンではアイテムをメンズ・レディース各3モデルに大幅に増やしたが、勢いは衰えず「昨シーズンの5倍、計画比の2倍で売れている」(浅野氏)

 とくに人気なのが、繊維メーカーのセーレンと共同開発した「BLACK OF BLACKs」のシリーズだ。素材の機能性はそのままに、合成繊維では難しいとされる濃い黒色を実現した。

 また、レディースではとくにロング丈のダウンコートが売れている。暖冬が続き、「ロング丈は売れない」と生産を取りやめるメーカーも見られる中で“常識”を覆した売れ行きを示している。

 高価格帯のダウンコートといえば、「モンクレール」「タトラス」「カナダグース」といった海外ブランドが連想される。競合も多い中で、ダウンの素材から縫製まで青森産というローカルに振り切ったブランディングが奏功し、「こちらから特別なプロモーションを仕掛けたわけではなく、メディアに取り上げてもらった」(浅野氏)ことで反響を呼び、認知が広まっていった。

三陽商会のR&D拠点「青森ファクトリー」

三陽商会コーポレートブランドビジネス部 コーポレートブランド課長
コーポレートブランドビジネス部 コーポレートブランド課長の浅野英樹氏

「100年コート」に「青森ダウン」と、好調な2ラインは、いずれも三陽商会の展開するアウターブランド「SANYOCOAT」のシリーズだ。

「SANYOCOAT」の起源は、実は戦後の1946年にまでさかのぼる。戦後の物資が少ない中、創業者の吉原信之が軍隊時代のつてを辿り、戦時中の防空暗幕の材料の備蓄を発見。この防空暗幕を用いて作った紳士用の黒いレインコートが三陽商会のレインコート第1号となった。

 設立70周年の2013年には、企業タグライン「TIMELESS WORK. ほんとうにいいものをつくろう。」を策定。いつの時代でも変わらない、普遍的な価値のあるものづくりの姿勢をこのタグラインに込めた。

 これを体現すべく、同年に立ち上げたコートシリーズが「100年コート」だ。親から子へ、子から孫へと“世代を超えて永く愛されるコート”を目指し、時代を選ばないオーセンティックなコートづくりに取り組んでいる。

 100年コートのものづくりを支えるのが、前述したコート専門工場「青森ファクトリー」だ。青森・七戸町にあるこの工場には約50名の縫製職人を揃え、「SANYOCOAT」の約7〜8割の製品を手がけている。

「この青森ファクトリーを、当社のR&D拠点に位置づけている」と浅野氏は力を込める。もともとはコットンギャバジン製のコートを中心に縫製していたが、近年では積極的な設備投資を行い、さまざまなアイテム・素材へと技術の幅を広げている。その象徴が「青森ダウン」で、ダウンコート用の封入機や熱圧着機を導入し、生産体制を整えた。

世界最大級の見本市でも「ビューティフル!」

ピッティウオモの展示会エリア

「100年コート」も「青森ダウン」も購買層は可処分所得の高い40代、50代が中心だが、「予想外なことに20代のお客さまも多い」と浅野氏。サステナビリティに敏感で、ファストファッションに食傷気味なZ世代の「高くてもいいものを長く着たい」というニーズに、「SANYOCOAT」の普遍的なものづくりへの姿勢が共感を得ているようだ。

「売っておしまいではなくて、お客さまと長くコミュニケーションをとれる商品だと思っているし、そのようなブランドになっていきたい」

 浅野氏のその言葉を裏づける取り組みとして、「100年コート」では購入者に対して、3年おきのメンテナンスサービスを提供する、オーナープランを用意。

 一例を挙げると、「100年コート」では袖丈をあえて長めに設定している。コートの袖が摩耗によって擦り切れたら、補修して長く使えるように「補修用の縫い代」をあらかじめ設けているのだ。こういったディテールにも、青森ファクトリーに蓄積される補修の経験とノウハウが反映されている。

 この青森ファクトリーの高い縫製技術が、遠く海を渡ってファッションの聖地・イタリアでも共感を得た。

「ビューティフル!」「ビューティフル!」

 1月にイタリア・フィレンツェで開催された世界最大級のメンズファッションブランドの国際見本市「ピッティウオモ」。三陽商会の「SANYOCOAT」の展示エリアには人だかりができ、メイドインジャパンの高い縫製技術に多くの賞賛の声が集まった。

「出展する前はどれだけ受け入れられるか不安だったが、予想以上にいい反響が得られた」と浅野氏は手ごたえを口にする。都心にある日本製のデニムやスニーカーのショップにはインバウンド観光客が列をなすほど、「メイドインジャパン」のアパレルは高い人気を誇る。今後は「100年コート」や「青森ダウン」の海外展開も可能性がありそうだ。

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