普段、食卓に魚があまり並ばない場合、子供が魚との接点をもつ機会は極端に減る。だが、ゲーム感覚で魚と食について知ることができるとしたら、親子揃って魚に注目するのではないだろうか。水族館とはまた違った、魚の楽しみ方を見ていこう。
(本稿は2019年11月、東京・日比谷公園にて開催された「第7回Fish-1グランプリ」での取材をベースに執筆しました)
※本稿内で、さかなクン出題の7問の魚クイズを紹介、回答は文末にあります。
さかなクンの“おいしい魚クイズ”に親子で注目
日本の水産物に光を当てるイベント「Fish-1グランプリ」。19年は、2つのコンテストのほかに、特設ステージから、とくに子供連れ家族を大いに沸かせるイベントが用意されていた。
圧倒的な集客力を発揮していたのが、2回にわたるさかなクン(国立大学法人東京海洋大学名誉博士/客員准教授)によるクイズ&トークショーだ。
「日本の海に生息している魚は約4200種。そのうち、ふだんよく食べる魚は、サケ、さば、いわし、たい、はぜなど、20種から30種類ほど。日本には、まだまだおいしい魚がいっぱいいる」 さかなクンはそう切り出すと、「今日は、めったに食べられない魚、浜にころがっていても食べたい魚などをイラストにしていくから、名前がわかったら、ギョギョギョッと、元気よく手を挙げて!」と会場に集まった子供たちに向かって、声をかける。さかなクンワールドの始まりだ。
この日の2回のステージで取り上げられた魚は全部で8種類。
「背中に13本のトゲ、冬場においしくなる魚。刺身、煮魚、フライにしても◎は?」 すると、さすが魚好きの子供たちが集まっているとあって、すぐさま手が挙がり、男の子が「アイゴ」と答える。見事正解。
その後も、さかなクントークが続く。
「〇〇ダイと呼ばれる魚は350種以上あるが、そのうち、本当にタイの仲間は13種類。タイにも負けない白身魚の『ニザダイ』の別名は?」(問1)、
「冬が旬、海のギャングは?」(問2)、
「北海道や東北の海にいる、味噌汁にするとおいしいタラの仲間は?」(問3)、
「黄色いからだ。あごの先端が光る水族館で人気な魚は?」(問4)、
「カラフルなひげがあって、口元がとんがっている。秋から冬が旬なのは?」(問5)、
「冬の寒い時期になると底引き網漁でかかる、ピンク色のアンコウは?」(問6)、
「クチビルが分厚い、ナマズの仲間。てんぷらでも、味噌汁の具でもおいしいのは?」(問7)
さかなクンの豊富な知識に、同席の大人たちからは「スギョイ」の感嘆の声が漏れる。クイズに正解した子供たちには、さかなクンが目の前で描いたイラストに本人の名前を入れて、その場でプレゼント。こうして1回30分のステージは、2本ともに、静けさを迎える暇もなく終わりを告げた。
宝探し感覚で楽しめる魚との接点
そしてもう1つ、大人が子供たちに負けじと、熱心に聞き入っていたのが、「魚の国のしあわせ」プロジェクト(水産庁)実証事業団体である中部水産(愛知県/脇坂社長)の神谷取締役による「耳石(じせき)ハンターのすすめ」だ。
耳石というのは、脊椎動物(背骨のある動物)の頭蓋骨の中にある体が水平になっているかを計るセンサーで、大小三対(計6個)入っている。大きい魚であれば、耳石も大きいかというとそんなことはなく、種類によって、すべて形が違う。つまり、耳石を見れば、その形からどんな魚なのかがわかるのだ。また、貝殻と同じ成分の炭酸カルシウムでできており、煮干しでも干物でも、煮たり焼いたり、フライやてんぷらにしても、耳石が壊れてしまうことはない。
耳石ハンターのすすめでは、「頭のついた魚を食べたら、最後に、耳石を探し当てよう」という提案をする。三対ある耳石のうち、一番大きな「へんぺい石」を見つければ、耳石ハントは成功だ。毎日、いろんな魚を食べていけば、100種類の耳石コレクションも難しくはない。大人だからできるとは限らないから、親子で競うのも楽しいし、老眼などが入っていれば、子供のほうが圧倒的に有利になるかもしれない。夏休みの自由研究にすれば、食育も兼ねたテーマになる。
そして、神谷取締役は語る。
「子供のやる気スイッチを入れるには、『競争させる』『ちょっと難しいことにチャレンジさせる』『ちゃんと認めてあげる』の3つをクリアすることだ」 耳石ハンターのルールは、「自分が食べた魚から、自分で採取すること」、これだけだ。白いへんぺい石を見つけやすくするために、あらかじめ黒い用紙を用意しておくとよい。
ちなみに「魚の国のしあわせ」プロジェクトというのは、周囲を海に囲まれ、多様な水産物に恵まれた日本に生活する幸せを、5つのコンセプト(味わう、感じる、楽しむ、暮らす・働く、出会う)により、生産者、水産関係団体、流通小売業者や各種メーカー、教育関係者、行政など、水産物に関わるあらゆる層が一体となって、水産物の消費拡大を推進していくプロジェクトで、2012年に水産庁が立ち上げたものだ。
さかなクンのトークイベント、中部水産・神谷取締役の「耳石ハンターのすすめ」の盛り上がり方を見ていてよくわかるのは、魚が消費者から本当に敬遠されているわけではないということだ。
親が子に魚を食べさせる機会が減れば、自ずと子供たちは魚と縁遠くなる。しかし、この日のイベントのように、親子で、あるいは家族で、魚と食について楽しむ機会ができれば、その先には子供ものほうから率先して魚と接点をもつよう変わっていくにちがいない。
SMの鮮魚売場や総菜コーナーなどでも、そうした機会は可能だと思うのだが、いかがだろう。
※魚クイズの回答(答1):サンノジ(答2):ウツボ(答3):ドンコ(答4):マツカサウオ(答5):テングダイ(答6):ミドリフサアンコウ(答7):ゴンズイ