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小売業の衛生対策 来店客、従業員の安全安心を第一に各種衛生対策に力を入れる

コロナ禍にあり、平和堂(滋賀県/平松正嗣社長)は、来店客、従業員の安全安心を第一とする衛生対策に注力する。今も国の方針、社会情勢、人々の感染症への認識などが刻々と変化するなか、「地域になくてはならない存在」を掲げ、新しい生活様式に対応した施策を工夫、実施している。

20年2月に対策本部設置

 2020年1月中旬、日本で最初の感染者が確認されて以降、コロナ禍は今年で3年目を迎えた。近年、人類が経験したことのない未曾有の事態に、これまで流通業界は大いに揺れ、各社は翻弄されてきた。

 そのなか平和堂は、地域、来店客、従業員の安全安心を第一とし、最善と考えられる衛生、感染予防対策を講じてきた。まずは当初のおもな取り組みを時系列で紹介する。

 「新型コロナウイルスの感染が報じられ始めた頃、最初に意識が向いた先は当社の中国事業のことだった」。こう話すのは、同社総務部総務課長の西政明氏である。

 平和堂では1998年から中国へ進出、強い支持を獲得している。そのため20年1月、日本で感染が広がっていない段階では、現地の衛生対策に動いた。すぐに滋賀県内の自社施設に備蓄してあったマスク数68万枚を現地に発送する。

 だが同年2月以降、日本でも感染が広がったのを受け、平和堂は総務部内に対策本部を設置、西氏は事務局担当となる。店舗を管轄する店舗営業本部と連携、さらに経営層と密接にコミュニケーションをとりながら、すぐに感染防止、衛生のための対策を打った。

 店舗では、全従業員がマスクを着用、チェッカーは一時期、フェイスシールドを着用して業務に当たった。飛沫感染防止のため、レジ、サッカー台などにおいてパーテーションを用意。ただ当時は現在のようなアクリル製の製品がすぐには手に入らず、ギフト用のラッピングセロファンを、L字状金具に取り付け、手作りした。

レジやサッカー台には飛沫感染防止のシートを設置

 平和堂の商勢圏は、本部を置く滋賀県を中心とする関西、さらに北陸、東海エリアの2府7県で、そこにある全157店舗(22年6月現在)で対策を行った。一方、本部や日々の業務でも各種会議や会合、研修、また取引先との商談を中止するなど、政府の方針、業界各社の動向、最新情報を注視しながら手を打った。

 当然ながらウイルスは目には見えない。恐怖心もあり、仕事に出るのが怖いと訴えるパートタイマーも少なくなかった。また来店客、従業員の安全安心を第一に考え「ゴーグルを用意してほしい」と申し出た従業員もおり、それらすべての要望に応えた。

 「幸い、消毒用アルコールはスムーズに手に入ったが、マスクの調達には苦労した。とくに最初の半年は混乱が大きかった」と西氏は振り返る。

「コロナ通知」で業務指示

 感染力の強い変異種が登場すれば形勢一変するのが、新型コロナウイルスの恐ろしさ。その意味では、予断を許さない状況は今も続く。だが直近は感染者数が一段落、また外国人観光客の受け入れも再開され、ひとまず小康状態を保っているのが現状である。 そのなかでも平和堂は、粛々と新型コロナウイルス対策を続ける。

 店舗での営業、そして本部をはじめ業務分野についてはその都度、適切な対応を行っている。具体的には、営業分野では支配人や店長など店舗責任者、業務分野では各部署の役職者に対し、メールで業務指示を送信する。

 メールのタイトルは「新型コロナウイルスの対応について」で、社内では「コロナ通知」と呼ぶ。施策は対策本部で決定後、経営トップが承認したものを、2週間に1度の頻度で関係各方面へ伝える決まりだ。店舗では、それを受け取り、朝礼や各種会合などを通じ従業員に周知徹底している。なおコロナ通知は20年2月からスタートし、これまで累計60数報を数える。

店舗の入口には、アルコール消毒液の噴射器を設置している。消毒後、入店するという行動が定着していた

 現在、各店で実施する感染対策は、次の通りだ。店舗入口にアルコール消毒剤を自動で噴霧する専用機のほか、レジ、サッカー台付近、またサービスカウンターなどに飛沫感染防止のパーテーションを設置。また買い物カゴはじめ、多くの人が触れる部品等を定期的に消毒している。

サービスカウンターにも、感染対策を施す

 

 来店客に対しても、マスク着用のほか、レジを待つ際は1〜2mの間隔を空けることなどの協力を求める事項を決めており、それらを記したポスターを店内の随所に貼るほか、Webサイトにも掲載している。

Webサイトでは、店舗での衛生対策を伝えるとともに、来店客に対し「アルコール消毒液による手指消毒」「マスクの着用」などの協力要請を行っている

 ここ数ヶ月は、コロナ通知による各店への強い要請はほぼなくなっている。だが昨年9月まで、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が断続的に出された際には、対策本部の動きは慌ただしかった。

 とくに平和堂の場合、総合スーパー(GMS)企業であることが大きい。全157店のうち、約60店が多層階のGMS店舗。生活必需品以外は営業が制限された時期には、衣料品、住居関連売場を開けるかどうかについて、府県で異なる方針も考慮しながら経営層の判断を仰ぐ日々が続いた。

 「たとえば衣料品売場の場合、大阪府、兵庫県では営業が制限されたが、京都府では緩和された時期もあった。錯綜する情報を収集しながら、対応策に追われた」(西氏)

“柔らかい”健康情報を発信

 今回紹介したように、平和堂では来店客、従業員の安全安心を第一とする衛生対策に取り組んできた。その一方、最前線の現場で働く従業員に向けた情報発信にも力を入れていたというのは興味深い。

 「緊張して仕事をすることが多いなか、少しでも安心感を持って働いてもらいたいとの思いがあった」と、西氏はその意図について教えてくれた。

 「コロナ掲示板」という施策で、A3サイズの紙に、時期に応じた各種情報をプリントし、月に1回、各店へ配布した。対象はパートタイマー、アルバイトを含む一般従業員で、健康や日々の過ごし方に関する内容が中心。コロナ通知が“硬い”内容だったのに対し、コロナ掲示板は“柔らかい”情報を意識したという。

 「コロナは正しく怖がりましょう」と題し、「マスクの着用方法」や「正しい手洗いのやり方」などについて説明するほか、夏に向けては熱中症対策など、新型コロナウイルス感染症以外の話題も積極的に取り入れた。気温の高い場所で作業する場合は、一旦、マスクを外し、小まめに水を摂取することを推奨するなど、日々の体調管理で気を付けるポイントを伝えたこともある。

 従業員の反応は上々だった。一定の役割を終えたとして現在はすでに発行を中止しているが、業務命令と同時に、現場の雰囲気を和やかにする取り組みをしていたというのはユニークだ。

 また、従業員に向けて、感謝の気持ちを形で表した感謝金の支給を複数回実施したほか、トップからの感謝のメッセージをグループ報で都度発信。さらに、メッセージ動画や平和堂財団の協力によるリモートコンサート動画の配信なども行った。

 さて現状、感染者数がある程度、落ち着きを見せるが、平和堂では今後、どのような方針で衛生対策を続けるのだろうか。「これからは『ウィズコロナ』のもと、いかにお客さま、従業員、そして地域の安全安心を守るかがテーマになると考えている」と西氏は述べる。

 マスク着用が当たり前の時代では、最善の策を打っても相手の反応がわかりづらい一面があるという。人との距離が取りづらい「もどかしい時代」とも言える。そのなかでも平和堂は、「地域になくてはならない存在」を掲げ、来店客と従業員の安全安心を第一とした対策を講じていく方針だ。