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IKEA渋谷店リニューアルで体現!イケアが「法人向け」を強化する周到な狙いとは

イケア・ジャパン(千葉県/ペトラ・ファーレ社長、以下:イケア)は、4月25日、IKEA渋谷店をリニューアルオープンした。リニューアルのポイントは、同店5階に、同社の都心型店舗としては初めて、様々な中小企業のオフィスづくりをサポートするインテリアプラニングサービス「IKEA for Business」を開設した点だ。

IKEA渋谷店に新設された「インテリアデザインサービス」

「IKEA for Business」を渋谷店5階に集約!在宅勤務やリノベーション需要に対応

 イケアは2020年2月、IKEA渋谷店とは別に、渋谷道玄坂に法人向け家具のディスプレイ販売を行うスタジオ型店舗の「IKEA for Businessビジネスプラニングスタジオ」をオープンしていた。同店は、家具展示のみの店舗で、その日に買って持ち帰ることはできず、クレジットカードで決済し後日配送するかたちだけだった。イケアとしても、同店は、オフィスや小売店舗、飲食店などの法人に向けて内装のトータルコーディネートの相談を受ける「インテリアプラニングサービス(予約制・有料)」をメーンに提供する店、との位置付けだった。

 同社は10年10月より法人向けの家具販売事業を始めており、22年4月現在、全体の売上高のうち法人向けサービスが占める割合は約10%。道玄坂への出店は、同事業のさらなる売上の拡大を見込んだものだった。

 しかし、オープン間もない20年4月にコロナが直撃。在宅勤務が広がりを見せ、ビジネスプラニングスタジオにも「在宅勤務用のデスクが見たい」「デスク周りに設置する小物が見たい」という問い合わせが相次ぐなど、お客のニーズも変化してきたという。

IKEA渋谷Deputy Manager(副店長)で22年4月までIKEA for Businessのマーケットマネージャーを務めていた菊池武嗣氏も「コロナ禍で、法人のお客さまから『フリーアドレスのオフィスに変えたい』『オフィスを、より社員が交流し易い雰囲気のつくりにしたい』という新たなご要望をいただくようになった」と話す。

 今回のリニューアルは、在宅ワークおよびコロナ禍に合わせたオフィスのあり方を模索する法人需要の高まりを受け、より広い売場で(IKEA渋谷の売場面積は1~7階計約4800㎡、IKEA for Businessは455㎡)で法人向け商品を展開しようとしたのがきっかけだ。

実際に、同店5階、エレベーター付近には、在宅勤務を想定したデスクや椅子などの展示が並び、モニタースタンドなどのデスクスペースを充実させる商品群を展開する。向かって左に進むと、オフィスで使用することを想定したデスク類や、テレビ会議の際に便利な防音機能付きのスタンドなどを販売していた。

在宅勤務用のデスク周りに配置する小物類も展開

 同階の左奥に進むと、「IKEA for Business」のプラニングスペースが見える。この場所で、法人のお客に対してインテリアのコンサルティングサービスを行う。また、同スペースでは、都心型店舗では初めてキッチン関連の家具販売も展開する。キッチン扉や引き出しなどを、パーツからカスタマイズできるサービスで、美容室や飲食店、不動産会社などの店舗ビジネスを行う事業者に支持されているという。

新設されたキッチンのプラニングスタジオ

 「イケアはキッチンの施工業者と専属契約を結んでいて、好きな色や様々なスタイルの部品をカスタマイズして選び、イメージしたままのキッチンを実現できる『キッチンプラニングサービス』は人気が高い。イケアの得意とするデザイン性の高さと、専門業者の技術を掛け合わせた同サービスは、法人向け家具販売を行う他社でもあまり見られない」(菊池氏)

都心型店舗は「イケアを知ってもらう」店舗

 イケアは郊外の大型店をメーンに事業を展開していたが、ECの拡大や若者の車離れなど、消費者の行動様式が変わる中、20年に都心型店舗の出店を開始した。現在3店舗ある都心型店舗(渋谷店、原宿店、新宿店)では、様々なチャネルからの買物を想定したオムニチャネル戦略に則った運営を目指している。

 郊外の大型店と比較すると取り扱い商品数に限りがあり、車での来店も少ない都心型店舗では、イケアの商品を知ってもらう「ショールーム」としての機能を重要視している。つまり、店舗で見て気に入った商品を配送サービスの利用やECサイト「IKEAオンラインストア」で買物するなど、様々なチャネルを用意しているのだ。

 お客の買物動向の変化は、コロナ禍でより加速し、ECで買物する人が急増したのは周知の通りだ。そして、そのトレンドは、法人向け家具販売にも当てはまるという。菊池氏によると、法人のお客に対するインテリアプラニングサポートも多いときでは約7割が、オンラインでの相談だったそうだ。しかし、キッチン家具を揃えたり、オフィスの内装をリノベーションしたりする際にかかる費用は決して安くはない。そのため、「キッチンやオフィスのデザインの大枠をオンラインで決め、最終的に購入を決める際に実物を店舗で確認する」という買物行動が急増しているのだ。

 渋谷店で、キッチンのパーツや、オフィス用の衝立などを豊富に展示するのも、そうしたニーズに対応するためだという。「対面での相談に抵抗を感じるお客さまや、相談時間を短縮したいお客さまにとっては、リモートでのプラニングはメリットが大きく、利用件数も増えている。さまざまな買物チャネルの中から、お客さまにとって一番利便性の高いものを選んでいただきたい」(菊池氏)

会員数250%増!「IKEA BUSINESS NETWORK」

 イケアは、21年7月、従来「IKEA for Business」の名前で2010年から行なっていた法人向けの会員サービスを「IKEA BUSINESS NETWORK(入会費・年会費無料)」に改称し新たな特典を追加。会員にならずとも、法人向け家具を購入することはできるが、会員になるとインテリアプラニングサービスの割引が適用されるサービスになっている。

 そんな「IKEA BUSINESS NETWORK」だが、21年9月~22年3月の期間、前年同時期に比べて約250%会員数が伸長したという。好調の理由を、菊池氏は「インテリアプラニングサービスの割引が大きい」と話す。同社が用意するインテリアデザインのプロが『経営者がオフィスの環境において本質的に変えたいポイント』を聞き出し、たとえば『デスクではなく玄関のデザインを変えてみるのがよいのでは』など細やかな提案ができる点が、人気を博しているのだという。

 IKEA渋谷店ではリニューアルを機に、法人向けのサービスを拡充していく考えだ。「当社がターゲットにする50人以下の中小企業のビジネスオーナーは、渋谷に多く存在する。コロナ禍で、オフィスの家具需要が大きく変化する中、様々な方にご来店いただき、良いオフィス空間の構築のお手伝いをしたい」(同)

IKEA渋谷店、副店長の菊池武嗣氏