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「ワンカップ®大関」発売60周年!大関、長部訓子社長が語る 、今期のマーケティング戦略

「ワンカップ®大関」が発売60周年の節目を迎えた大関。食の多様化に伴い日本酒離れが加速するなか、日本酒メーカーとしてどのような施策を打つのか。長部訓子社長に日本酒業界の市場環境と今期のマーケティング戦略をきいた。

日本酒の新たな飲み方積極的に提案!

──直近の日本酒業界を取り巻く環境をどのように見ていますか?

長部 ロシア・ウクライナ情勢をはじめとした外的要因に基づく昨今の物価高を背景に、政府はさまざまな対策を行っていますが日銀による利上げ決定後、為替や株式相場に大きな動きが見られ、生活者にとっても不安定な状態が続いています。われわれ、酒造メーカーも物流や原材料コストの増加が直接商品の価格に影響するため、消費とのバランスを考えながら慎重にビジネスを進める必要があると考えています。

 一方、コロナ禍が明けたことでインバウンド需要についてはコロナ前の水準を超え、好調に推移しています。来年は大阪・関西万博も控えていることから、関西方面への訪日観光客の増加が見込まれ、当社にとっても追い風になることを期待しています。

大関 代表取締役社長 長部 訓子(おさべ・くにこ)
1957年生まれ。88年ロングエステート(現大関エステート)取締役就任、95年イージーネット入社、2003年同社取締役就任。同年大関社外監査役、15年取締役経営企画担当。16年代表取締役専務を経て、17年代表取締役社長就任(現任)

──厚生労働省が公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」について、どのような対応を考えていますか?

長部 このガイドラインによって、日本酒に限らずアルコール飲料全体の飲まれ方にある程度影響があると考えています。

 日本酒業界では製配販3層からなる「日本酒需要創造会議」が今春発足し、炭酸割りによる「日本酒ハイボール」など、新たな飲み方提案を積極的に仕掛けています。メーカー各社も低アルコール商品の開発に力を入れており、当社としても飲み方提案含め、幅広い年代の方に日本酒のおいしさを知って頂くきっかけづくりを今一度考える必要があると思っています。

──家庭用の日本酒の消費動向についてはいかがですか?

長部 新型コロナウイルスが5類に移行したことで、外飲みを含めた消費者のライフスタイルはコロナ以前に戻りつつあるものの、昨今の物価高の影響もありコストパフォーマンスを考え、家飲みを選択する消費者も一定数残ると思っています。容量別でみると中小容量瓶商材が好調で、香り系やフルーティな味わいの吟醸、大吟醸がライト層やトライアル層に好まれているようです。依然好調なパック酒などの経済酒は、最需要期である冬場に向け、さらにマーケティングを強化していきます。

人と人をつなぐ「ワンカップ®大関」

──大関の商品群の中で好調なブランドは何でしょう。

長部 基幹ブランド「のものも」が、家飲み需要の増加に伴いとくに好調です。2021年秋のリニューアルでは、食事に合わせやすい味わいに仕上げ、パッケージも「国産米100%使用」や「大関」のロゴを大きく配置しメーカーのブランド感を訴求するデザインに一新しました。このリニューアルで「『のものも』があらためて大関の商品である」という認知が広がり、手に取ってくださる方が増えたとみています。

──大関は環境に配慮した日本酒づくりにも注力しています。

長部 はい。当社はSDGsの観点から、兵庫県産のGLOBAL G.A.P.認証取得の山田錦を使用した「Number:純米大吟醸原酒」や西宮市で発見された新種の「今津紅寒桜」から採取した桜花酵母を使用した「桜路 純米大吟醸」、JA全農「ニッポンエール」への参画など、地域活性化や社会福祉への貢献に力を入れています。

 また流通向けの商材として国産有機米100%、業界初となる有機JAS認証取得のオーガニック日本酒「#J」があります。同品の原料となる有機米は化学肥料を一切使用せず、環境への負荷をできる限り軽減した栽培方法で生産し、製造工程においても厳格な審査基準をクリアしています。これまでは720㎖瓶詰のみでの展開でしたが、今春、飲み切りサイズのアルミ缶100㎖をラインアップに加え、オーガニック日本酒市場の裾野を広げていきたいです。

──2024年は「ワンカップ」が発売60周年を迎えました。

長部 ありがとうございます。「ワンカップ」は当社のアイコンともいえる存在であり、60周年は「通過点」と考えています。

 これまで「ワンカップ」はG1を制した名馬をラベルにした「G-One Cup」をはじめ、人気アニメや大相撲とのコラボレーション、LGBTQのシンボル6色レインボーをあしらった「ワンカップレインボー」などさまざまな企画を展開してきました。また当社のオンラインショップではオリジナルラベルのワンカップがつくれる「THE ONLY ONE CUP」のサービスも提供し、好評を得ています。

 「ワンカップ」は日本酒の常識を変えたイノベーティブな商品であり、今後も遊び心のある企画を通じ、ブランドの魅力を伝えていきます。

──60周年に合わせ、どんなプロモーションを行いますか?

長部 まず定番の「上撰ワンカップ180㎖」は周年ロゴと「ご愛顧感謝」のメッセージを入れた商品を9月末より出荷、姉妹品である「上撰ワンカップコンパクト」も新容器・新デザインにリニューアルします。さらに東海道新幹線60周年とワンカップ60周年によるタイアップ企画として、車両貸し切りイベントを予定しており、話題になるよう図るほか「ワンカップ」60周年バージョンのラジオCMを制作し放送しています。さらにLOFT渋谷店・銀座店で開催される「ロフコト雑貨店」内の「カップ酒」特集に参画し、「ワンカップ」をはじめとし、コラボ商品などを展開、若年層への認知を図ります。

──今後、「ワンカップ」をどのようなブランドにしていきたいですか?

長部 今年入った新入社員が面接で、「『ワンカップ』を生んだ大関は素晴らしい」と言ってくれたんです。その理由を聞くと、「瓶に入った日本酒は量が多すぎるけれど、『ワンカップ』ならば飲み切りサイズで友人との会話も弾むから」と。若い方でもこうした感覚を持ってくれていることがとても嬉しかったですね。

 先ほど「60周年は通過点」といいましたが、人と人をつなぐコミュニケーションツールという「ワンカップ」ならではのポテンシャルを問い続けながら、ゆくゆくは100周年をめざし成長していきたいですね。

魁(さきがけ)の精神を持ち常にチャレンジし続ける

──24年は「ワンカップ」以外にも、「多聞」100周年、「大関 甘酒」50周年とロングセラーブランドの周年が続きます。

長部 そうですね。04年から大関が商標を引き継いだ清酒「多聞」は24年に発売100周年を迎えました。とくに北海道で圧倒的なシェアを持つブランドです。

 100周年を迎えるにあたって民謡歌手のKAZUMIさん、ナレーションに人気アナウンサーの明石英一郎さんを起用し、過去のCMを再現した「酒は多聞」新CMソングを北海道地区限定で放映しています。また、明石さんがパーソナリティを務める人気ラジオ番組でのCM提供や店頭での販促も強化し、「多聞」の魅力を訴求していきます。

 「大関 甘酒」は軽量かつリサイクルしやすい新容器の「大関 甘酒カートカン」を発売しました。容器の素材には間伐材を使用した紙を使用しており、収益の一部は緑の募金として森林整備に活用されます。

──家庭用の日本酒市場を盛り上げるため、小売業とどう取り組んでいきますか?

長部 人口が減少するなか、流通業界も競争が激化しており、日本酒売場についても価格訴求だけではなく、他社にはないオリジナリティのある商品を求める声が増えたように感じます。当社も全国に向けて一斉発売する商品だけではなく、流通業と協力し小ロットでもこだわりの商品を開発する環境づくりも準備しています。

──最後にトップとしてのミッションを。

長部 国内の需要が頭打ちのなか、日本酒業界も大関としても過渡期に来てると感じています。しかしコロナが明けたことでインバウンドも回復し、海外の方が日本の食と日本酒に触れていただく機会が増えました。ここが突破口となり、ワインのように日本酒が世界の食卓に広がっていけば嬉しいですね。明日には歴史となる今日、何ができるかを常に考えながら、魁の精神で新しいことにチャレンジし続けていきたいと考えています。