前回は、迷惑行為を含むカスタマーハラスメントの抑止やリスクヘッジに有効な5つの対応策について解説をした。本稿では盗撮や駐車場での犯罪、反社チェックなど、小売店における犯罪リスク軽減のための5つの対策について紹介したい。
① プライバシーを侵害する盗撮のリスクと対策
まず、お客さまや従業員のプライバシーを侵害する「盗撮」のリスクについて解説していく。最近も盗撮に関するニュースが多く報道されているが、小売店舗は不特定多数の人物が出入りできるため、盗撮等の不埒な目的で入店される可能性は常に存在している。
最近では、盗撮用の偽装カメラも精巧で一見カメラとは分からないようなものが多数流通しており、インターネット上では容易に入手できることから、以前にも増して、盗撮のリスクは高まっている。
一方で、店舗運営の現場やイベント運営の現場に赴くと、盗撮に対するリスクの認識がかなり低いと感じる。筆者は多くの企業で店舗やイベント会場のリスク対策のチェックやアドバイスを行っているが、たとえば、エスカレーターや階段のほか、トイレ、ベンチ周辺など、従来から盗撮されやすい場所に対する警戒や注意喚起は、あまりなされていない。イベント開催時の撮影についても、ほぼ無警戒である。
リアル店舗・小売店にとしては、お客さまや従業員のプライバシーにかかわる盗撮に対するリスク認識を高め、その対策を強化していくのが望ましい。たとえば、保安警備員や施設警備員を導入している場合は、従来の万引き、不審者対応のみならず、滞留者の滞留時間や場所・動作などを注視して、盗撮行為やその予兆を発見するように努めてもらう。また、周辺の盗撮リスクが高い場所には注意喚起の掲示を行う、そのような場所を重点的に警戒してもらうなどの対応も依頼しておくことが望ましい。
また、従業員に対しては防犯に関する研修を正しく行い、そのなかで盗撮に関する対策についてもレクチャーしておくことが肝要だ。
トイレ清掃はクリンリネスの観点のみならず、盗撮カメラや不審者の有無もチェックする目的で行っていることを周知して、チェックポイントを示しておくなどの対策も重要である。漫然とトイレ清掃、トイレチェックをするのではなく、通常時とのちょっとした違いがないかを注視しながら、清掃作業を進めることが求められる。また、外部の事業者に清掃業務を委託する場合は、清掃業者(作業員)の風評チェックや身分確認、作業実施時間やルールの遵守要請なども、重要な対策といえる。
従業員の更衣室や休憩室についても同様である。モノが雑然と置かれていれば、そこに盗撮カメラを隠しやすい。だからこそ、整理・整頓をして、違和感を発見しやすくなるようにしておくことも重要である。
② 駐車場における犯罪リスクにも注意を
次に駐車場における犯罪リスクについても触れておきたい。駐車場内の駐車車両に関する対策は、各社さまざまである。一般的には利用者以外の不正駐車や、車内熱中症などの体調不良者の注視のほか、ハザードランプがついたままの車両所有者への放送は、比較的多くの企業が行っていると思われる。しかし、駐車場にはさまざまな犯罪リスクが潜んでいることも忘れてはならない。
たとえば、利用者同士の衝突事故や車上荒らしだけではなく、駐車場に停車中のクルマをねらった強盗事件や詐欺事件も発生している。ここでいう詐欺事件とは、たとえば、実際には車に接触をしていないのに、降車時や乗車時にドアが車にぶつかったと因縁をつけて、修理代を騙しとるような事案である。
そのほか、駐車場を薬物の売買の場として利用されるリスクもある。実際に、過去には地方の高速道路のパーキングエリアなどで薬物の売買が行われていたケースもある。大型の店舗や商業施設では、大きな駐車場を併設しているケースも少なくない。その分、死角や暗い場所も多く、どれが誰の車かは一見して分からないため、複数人が車に乗っていたり、荷物の積み込みを装って複数人が集まっていても、違和感を覚えづらい。これが逆に薬物売買には格好の場所として利用されるリスクを生むことになる。
駐車場には、事故でもない限り警察車両が立ち入るケースはあまりなく、薬物の売買に大きな駐車場は選ばれやすい。そのほかにも、前述した盗撮リスクも駐車場に潜んでその映像を確認していたり、ナンパや尾行による性犯罪などを目的として来場者を物色して追尾しようとしていたりするケースもある。
店舗側は、このような大型駐車場の犯罪場所化のリスクを踏まえて、定期的に巡回するとともに、車内に人がいる場合には、積極的に声がけを行うのが望ましい。
長時間の駐車車両にずっと人が乗っている場合などは、警察に相談して、警察官による職務質問をしてもらうなど、駐車場の管理体制も強化しておくといいだろう。
「ここまで警戒か必要なのか」と疑問を感じる方もいるかもしれないが、各種の犯罪目的で駐車場に人が集まれば、それだけ店舗の犯罪リスクや店舗利用者の犯罪被害のリスクが高まってしまう。その上、SNSなどによる各種の情報発信により、その状況を放置している企業への風評リスクにも発展していくことを看過してはならない。
③出店者やテナントには反社チェックを
テナントや、屋台形式の店舗が入居する際に気をつけなければいけないのは、反社会勢力(以下、反社)でないかどうかのチェックだ。 実際にあったケースを紹介しよう。あるスーパーマーケットの駐車場内に長年にわたり出店した焼き鳥店のオーナーが、実は前科のある暴力団員であり、たまたま警察官が店舗を訪れた際に発覚した。そのほかにも、店内に出店していた携帯アクセサリーの屋台が、実際は暴力団関係者により運営されていたというケースがあった。
こうした事態を防ぐために、短期の場合も含め、店舗に出店・入居する企業やオーナーに対してきちんと反社チェックをしていくべきだ。案外実施している企業は少ないのではないだろうか。
反社チェックを十分せず、先述したような出店を許すと、そこでの収益が暴力団組織に上納され、暴力団の活動を助長・支援しているかたちになることに注意しなければならない。暴力団の資金活動に間接的に関与して、暴力団の活動を助長していることになってしまうからだ。そうした場合、各都道府県で制定されている暴力団排除条例に抵触する可能性があり、コンプライアンス上のリスクを抱えてしまう。
暴力団と癒着して事業活動を行っていた企業や反社会的勢力が実質的に経営していた企業や、反社会的勢力に乗っ取られた企業などは、銀行からの取引停止といった事態を招き、倒産に追い込まれたケースも過去には相当数ある。そのことを忘れてはならない。
大手の小売事業者やコンビニエンスストア事業者は、企業が提供する反社データベースを使用し、反社チェックを積極的に行い、反社リスクに対する備えをしている。現在、こうした反社チェックは必須であることを改めて認識して欲しい。
④ロス要因を明確化し、収益低下リスクを避ける
「ロス要因の不透明化」による収益低下リスクにも気をつけたい。とくに小売店においては、店舗で発生するロスは大部分が万引き(窃盗)によるものと整理されやすい。
確かにレジ袋の有料化によるマイバッグ持参の定着や、セルフレジの導入により万引きのリスクが増加し、それによるロスも増えていることも確かである。また、食品の廃棄ロスが一定数生じることも確かである。
しかし、筆者が所属する企業において、店舗のロス監査を行うと、万引きロスや廃棄ロスで処理していたものが実際には、内部不正によるものであったり、商品管理の不備によるロスであったりすることも少なくない。
また、食品の廃棄ロスとして処理していたものが、実際は内部関係者の横流しによるものであったりすることもままあることだ。
ロスの発生要因はさまざまであるため、まずはロス発生要因の精査・分析を行うべきだ。原因が不明にもかかわらず、万引きや廃棄ロスとしていては、効率的なロス低減対策は行えず、ピントのずれたロス対策費用を必要以上に支出し、利益を低下させてしまう。
たとえば、万引きによるロスが実際に多いのであれば商品陳列や販売方法の改善、保安警備員の導入により、そのロスの低減を図れる。しかし、実際は万引きによるロスではないのに、保安警備員を増やしても、コストばかりかかってロス率の低減にはつながらない。
ロス発生要因の精査・分析は、店舗のロス要因の種類を把握し、実際に店舗を実査してその現状をチェックするといいだろう。こうすることでロス要因に関する詳細な分析が可能となる。ロス要因を詳細に分析できれば、真のロスがどのような原因で生じていて、どの対策を強化・改善すべきなのかも明確になるため、効果的なロス対策が可能となり、ロス対策を通じたロス率の低減と利益の向上が実現できる。
ロスの発生要因を実態に即して詳細に精査・分析した企業のケースでは、詳細なロス要因の分析とそれを踏まえた適切な対策の実施により、数千万~数億円の利益改善に繋がっている。
小売店においては、今一度、ロスの要因を万引きや食品ロスと曖昧化・包括化することなく、詳細に分析・精査してみることをおすすめしたい。より多角的な分析を行うことで、今までのロス対策が適切なアプローチであったのかを分析することも重要だ。ロス対策のための費用が、実際はロスを生んでいたという皮肉な状況を生まない為にも、ロス要因の詳細な精査・分析は欠かせない。
⑤日ごろから従業員の防犯研修・訓練を
最後に強盗などの防犯対策の重要性について解説していく。昨今、高額品や、クレジットカードなどの換金性の高い商品をねらった強盗事件が多発している。営業時間中に行うケースも目立っており、状況によっては従業員が負傷・受傷したり、お客が巻き込まれたりするリスクもある。
いざ、強盗や暴漢が来た際の対応は、頭で対応要領はわかっていても、咄嗟に動けるものではない。完全に不意を突かれれば、不測の怪我もしてしまう場合がある。店舗の防犯は警備会社まかせにするのではなく、従業員が研修・訓練を通じて、咄嗟の場合でも判断・対応できるように準備しておく必要がある。警備員が臨場するまでにはおおよそ犯罪は終わっている場合も少なくない、警備会社を導入しているだけでは従業員やお客への被害を防ぎきれない。
危険性があるなかで、従業員は自分自身やお客を守るためにどうするべきか、研修・訓練を通じて、咄嗟の場合でも判断・対応できるように準備しておく必要がある。防犯対策は、店舗の安全管理対策の基本中の基本である。警備員や機械まかせでは、命に関わる事態を招きかねないリスクがあることを正しく認識し、日ごろから従業員の防犯意識、対応力の強化、警察との連携体制の強化などに注力しておくことが重要である。
以上、5つのリスクについて、簡単に対策も含めて解説してきた。ぜひ本稿を参考にリスクヘッジに努めていただきたい。