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無印良品の一部となる三菱商事ファッションとユニクロ:Cの成功が意味することとは

今回は、三菱商事ファッションが事業分割し、衣料品製造販売事業を無印良品を展開する良品計画が引き継ぐことを表明したことが何を意味するか。その国内市場の大きな地殻変動が、実は「ユニクロ:C」が大いに市場を獲得する理由になる、つまりこの2つは全く関係していないようで、アパレルビジネスの近未来では関係しているのだということを解説したい。

無印良品の一部となる三菱商事ファッション

(i-stock/Robert Way)

 私は前回の寄稿で、商社のOEMは限界を超えており、意地でもOEMにへばりついている中高年達がハッピーリタイヤまでなんとか粘ろうとしている様を断じた。

 時を同じくして、三菱商事ファッションが事業分割し、衣料品製造販売事業を無印良品を展開する良品計画が引き継ぐことを表明した。良品計画が引き継ぐ部門の売上高は328億円である。

 今回の件はどう読めばよいのか、順を追って解説していきたい。

 さて、三菱商事は実に面白い会社である。

 『ブランドで競争する技術』(ダイヤモンド社)を10年前に上梓したとき、私は「商社の付加価値はトレードになく、やがて戦略コンサルタント業界との競合となる」と持論を展開していた。当時、別の大手商社に呼ばれ、商社の行く末に関して上記のような未来像を講演したとき、大阪、東京、中国三拠点を結ぶ衛星中継でその大手商社に、「投資や問題解決など全くイメージが付かない。コンサルが考える机上の空論だ」とふくろ叩きにあった。私の書籍に賛同してくれたのは三菱商事一社だったように思う。

 実は、アパレルが商社のOEM機能を取り込む動きは早くから始まっている。古くは、ワールドが「常駐型ビジネス」といって、自社に商社専用の席を設けて自社の生産部のような役割をアウトソーシングしていた。また、最近の事例で言えば、オンワード樫山とサンマリノというニット製造工場を持つ専門商社の関係が、今回の無印良品と三菱商事ファッションの関係に似ている。

 商社機能の取り込みの意図はどこにあるのか。戦略的思考が弱い組織は、ほんの数パーセントの商社マージンを抜くためだというが、需要が安定している生鮮食品と違い、売れ行きが読めないファッション商品は、オフ率との関係で調達原価率は全くことなる(詳細は、私の二作目「生き残るアパレル死ぬアパレルの4KPI参照」)。私はむしろアパレルの無駄な売価変更と低いEC化率による販管費率の相対的高止まりにこそ問題があると指摘し続けてきた。

 オンワードとサンマリノのケースで言えば、機能別組織であるオンワードとのダブルコストを避けるためもさることながら、商社しか持ち得ないものづくりや国際物流のノウハウの内製化こそがその狙いなのだ。したがって、サンマリノという商社とオンワードの関係がますます深くなり、人的交流が盛んに行われている。

 このように、産業衰退期になると、重複コストや組織スピードを上げるために垂直統合が進むわけだが、今回の三菱商事ファッションと良品計画の大型営業譲渡はその一つと見るべきだろう。

ザ・勝ち組商社、三菱商事の口癖とは

 

 それとは真逆なのが三菱商事だ。三菱商事の人の話を聞くと、決まった口癖に出くわす。それは、「それは商社がやる仕事ですか?」だ。商社マンという、おそらく世界でも類を見ない知能集団、ビジネスのプロフェッショナルの高給を維持するためのエコノミクスから出てくる言葉である。むろん、何段もレベルが低い相手からの一方的な命令に従う屈辱もあるだろう。

 よく誤解している人がいるが、伊藤忠商事しかり、三菱商事しかりと、中間流通のなかのごくわずかな勝ち組は、収益のほとんどは製造委託事業、いわゆるOEMから得ていない。伊藤忠はブランドビジネスから、そして、三菱商事は投資事業から得ている。

 私は財閥系商社の経理部の中に潜入したことがあるが、社員一人ひとりがPLBSCFを持ち、財務部は為替リスクさえ持っている。全ての在庫は個人に紐付き、在庫管理、与信管理、売り掛け管理という商社三種の神器といわれるリスクヘッジ手法は、時に専門家以上の能力を持っていた。

 このレベルの仕事と生産性が達成できなければ全社員に手厚い報酬を生涯にわたり約束することなどできないからだ。これは、人員数にあわせてアメーバのように課が雨後の竹の子のようにでき、「Better than nothing」を理由に「足し算思考」で、部や課ができる低レベルの商社とはレベルが違う。

 当時から、三菱商事は「想定競合先は戦略コンサル会社」と位置づけ、「自分たちは顧客の課題解決をすることで高い生産性を上げる」と社内に発破を掛けていた。だから私の書籍を読み同社出身のOBやファンドから何度も声がかかった。その意味で、私は三菱商事生活産業部門には大変お世話になった。

「商社機能の内製化」本当の意味とは

 私自身がオーガナイズした商社とアパレルの統合戦略もある。それは、以前紹介した「デジタルSPA」もさることながら、仕入構造改革といって、自社調達にこだわりをもっていた三越伊勢丹を垂直統合させる戦略だ。私は精緻な分析を行い、商社の行く末と百貨店グループの「いとへん」のMDに占める総割合を試算し、今の商社の無数に亘る営業活動のほとんどを捨てても、百貨店グループ全体の仕事のいとへんの仕事をダイレクトに受け取ることで、百貨店からみた仕入れ価格とリードタイムで約30%のコストダウンを実現することが理論値としてでてきたのである。

  戦略思考が高い企業や組織は、「選択と集中」がみごとだ。特に「意思決定の要諦は捨てること」だ。逆に、捨てることができないから決めることもできないのが足し算思考の悪いところだ。

 私は20年も前から「商社はいつか外される、ならば、外される側で粘るより外す側に立ち、外された側は違うビジネスをすればよい」と思っていたし今もその考えは変わらない。だから、OEM以外の提案も幾つもやってきたし、国レベルの話に発展したものもある。どうにもならねば、自分が商社に転職し、内部から変えようかとも思い某商社の会長に直談判してこともある。

idealistock/istock

  しかし、結末はいつも同じで、知らない間にどこかのコンサルが入って、グチャグチャにして元(改革前のカオス状態)に戻す。最初は怒りに打ち震えたときもあったが、自分が責任をとらないのがコンサルなのだから文句を言っても仕方ない。経済の仕組みは見えざる神の手にまかせ、正しさは歴史に証明してもらうしかない。だから三菱の人と話をしたとき、「オールドエコノミーの人と付き合うよりもスタートアップをビジネスにする方が商社としての醍醐味がある」と教えてもらったこともある。

 また、10%の粗利しかとれない事業より、売上を半分にしてでも50%の粗利をとるのが成熟時代の付加価値だと三菱の商社マン達はよくいっていた。

 さて、これにより、財閥系三商社の伝統的繊維産業は隅に追いやられてしまったことになる。三井は私の出自である日鉄物産と合併し、今でもOEMをやっている。住商は蝶理という専門商社に繊維子会社を事業譲渡した。そして、今回の三菱商事ファッションだ。

財閥三商社のOEM撤退は、非財閥三商社に影響を与える、そしてユニクロ:C

  今回、良品計画の社長は柳井正氏の右腕とファーストリテイリング時代に評された堂前宣夫氏であり、日本を代表するサプライチェーンの第一人者だ。日経新聞によれば、良品計画の社長を引き受けるにあたり、知りすぎた人材ということで柳井氏との仲を懸念する論調が掲載されていたが、実はすでに99%以上がオフショア生産となっている衣料品などどうでもよいし、アジアの公司は仕向国渡しが常識になっていることも書いた。それより商社機能の内製化の本領が発揮されるのは食品である。

 コンサルの私としては、特に加工食品など、グローバル貿易に自由度がない各国の戦略物資である食材をどのように振り回すのかに興味があった。特に、松井忠三元社長の食通ぶりは桁違いで、また、無印良品の真骨頂は加工食品にある。衣料品などどうでもよいし、ユニクロに勝つことは難しい。しかも、無印といえば米国と欧州は三菱商事が大株主で、米国はすでに破綻した。この「商社のIn house」の真の意味と影響は、私のような小物がいくら叫んでも誰も聞きはしないが、天下の商事がやれば「右向け右」で、一気に商社のOEM撤退が進みアパレル側が、商品作りはできなくなる危険性がある。

  一方で、死んでもOEMにしがみつく専門商社もいる。彼らは彼らで残存者利益を得て、有利な事業を展開してゆく可能性はあるかもしれない。いずれにせよ、「商社は繊維から」という神話はこの出来事を契機になくなってゆき、仕入先を絞り上げてきたアパレルは、大きなしっぺ返しを食らうことになるだろう。

 そうしたなかでミドルマンの存在を許さない欧米のアパレルや中華圏の工場のようにデジタル武装をしてD2Cで日本市場に攻め入ってくる企業は、さらに混沌とする日本の中間価格帯と呼ばれるあるのかないのかわからないセグメントにはいってくるだろう。

 その1つがファーストリテイリングの「ユニクロ:C」なのだ。そもそもファーストリテイリングのように潤沢な資金を持ち、自由に欲しい人材を自由に獲得できる企業は、はじめてここでSPA (製販統合)化によるメリットを享受し、職にあぶれた商社マンの中で有能な人材を高給で引き抜き生産部門の人間を総入れ替えするだろう。このように、大きく影響を受けるのは、三菱でも無印でもなく、「その他アパレル」でなのだ。

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時代の流れをここまで読んでいた!それがユニクロ:C

 ユニクロ:Cの上代は高い。さすがの私も昔のようにクレジットカードを妻に渡して「好きなモノを買え」とはいえない価格になってしまった。カシミヤなど、部分的に出ていたが、なんとケーブル編みでリンキングの部分は縫製ではない。つまり、手作業でつくっているのだ。やや縮絨(しゅくじゅう:製品を編み縦後に洗うことでカシミヤ独特のぬめり感を出す)が弱く、ごわついたところはあるが、そこは値段を考えればお約束というものだ。

  ワンピースは素晴らしいの一言で、マッシュスタイルホールディングスの主要ブランドに似た縫製やダーツの仕込みなど手がはいっており、シルエットもマーメイドでとても綺麗で万人向けを狙ったものではない。やはり着てもらうと本質がよくわかる。ただ、同店舗にゆく道すがら2人に「ユニばれ」したので、そこをどう考えるかということはあろう。なにせ、でかい業態なので、「ユニかぶり」がおきても不思議ではない。

  さて、そうした懸念はあるも、私は、ファーストリテイリングはここまで将来を読んでいたとみている。委託先がどんどんなくなってあたふたしているアパレル企業を横目で見ながら、「ユニクロはベーシックで、ファッションは俺たちだ」と未だにうそぶいているアパレルに絨毯爆撃を仕掛けるなら今だと考えたのだろう。また、数年前の「直貿化宣言」により、自社調達がスタンダードになっているいまの低いコスト構造によって、一気にアジアのドミナント化を狙いにゆくというわけだ。私が再三「今、最大のリスクは何もしないことだ」という意味がお分かりだろうか。 

 素材についても、技術者から見て完璧でないからといって、中途半端な素材でも巧みなマーケティングによって圧勝するのが今のユニクロだ。それによって多くのアパレルは、例えば「ポリエステル再生繊維」のような真にサーキュラーとはいえない素材に根こそぎ市場を奪われ、もはやスペースはないという状況になるだろう。

 当時(今から10年以上前になるが)コンサルという仕事に限界を感じた私は、ファーストリテイリングへの転職を考えていた。面接会場で、「君が考える我が社のビジョンを語ってくれ」と面接官(当時の重役)に問われ、「御社の強さは圧倒的。やがて世界一になるでしょう。しかし、クラス一の優等生は常に他の生徒の模範でならねばならない。そこで、私は御社こそ eファッション(当時は、エコロジーや人権対応のついては、すべてに eをつけることが主流だった)で、米国型の行き過ぎたキャピタリズムの弊害を解決し地球規模で人類を新たな幸せに誘う道程を示すべき」と述べた。そして「そんなものでメシが食えるか」と一笑に付された。私は、「カシミヤが成功したのだから夏にシルクを出せばよい」と(半ば適当に)、発言のアングルを変えたところその重役は「シルクはよい(売れる)かもしれないな」と言ったが、結局面接で落とされた。

 今、同じことを聞かれても同じように答えるだろうし、同社は「もうけられない話」にはのってこないのかもしれない。いや、ひょっとしたらいまは全く違う言葉が返ってくるかもしれないが、いまとなっては無意味な禅問答だ。

  さらに、柳井氏の事業会社ユニクロの社長交代も、ユニクロの「より大きく」というリニアな柳井イズムに自らブレーキを掛けるために行われたと考えると、すべてが綺麗につながってくる。

*本稿はすべて私個人の仮定における初期仮説であり、数店舗の店を見ただけのもので、なんのファクトによるものでもない。これで、ユニクロ:Cの全体像を世界の潮流の中のリポジショニングという観点から見れば見えない景色も見えてくるというものだ。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は自費で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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