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ChatGPTの衝撃!アパレルに起こす「接客大革命」と競争優位性への影響とは

今、最もメディアを賑わせているのはChatGPT(チャットジーピーティ)である。米新興の研究開発企業OpenAIが2022年11月に公開した対話型AIで、従来のものより高い精度で人と会話ができるという。私は「ふーん、技術は進化しているからな」という程度に思っていたのだが、私のチームのAI担当の人間が、「凄い技術がこの1ヶ月で登場しましたよ」と興奮気味で叫んでいたので、重い腰を起こして使ってみたところ、驚きで腰が抜けそうになった。今回はこのChatGPTがアパレルビジネスにどんな変革を起こすのかを解説したい。

stockcam/istock

現代貨幣理論からアパレルの在庫問題まで、驚愕の回答

 この手の技術が期待通りの結果を出した経験が無かったこともあり、最初は簡単な質問からはじめた。

 そこで、「日本が持つ課題は何か?」と聞いてみた。ChatGPTは、少子高齢化、インフレや円安など、ちょっとした経済アナリスト(学者ではない)が、解説するレベルの課題を書き連ね、私は目を疑った。

 次に、私が今一番勉強している「現代貨幣理論(MMT)が持つ誤りを教えてほしい」と、かなり難解な設問を入力した。そこで出てきた回答は、インフレや貨幣価値の下落による信用低下など、現時点では満点といえるものだった。設問が「誤りを教えて欲しい」だっただけに理論の誤りにハイライトされた内容だった一方で、その正しさの可能性についても言及しており、公平性を保っていたことに驚愕した。しかも、きわめて自然な日本語で回答されているのである。

 私は“必死”になって、今度は「日本のアパレル企業の課題は何か?」と問うた。するとChatGPTは、人口減少による市場の縮小や、セールによる価格競争による潰し合いなど、5つの論点を上げ、それらについて詳しく解説してくれた。さすがに「生産過剰、政府のゾンビ企業救済」など、私個人の見解に関する領域にまでは踏み込むことはなかったが、この領域の素人が初期にもってくる仮説としては及第点を与えられる内容だった。

 次に、私はアパレルの在庫問題について聞いてみた。英語ならいざ知らず、言語文法も全く異なる日本語の教師データを考えると、ここまでマニアックなテーマの回答はさすがに難しいだろうと考えたからだ。しかし、なんと「セールによる売価変更」「売れ筋商品とのクロス販売によるクロスセル」や「バッタ屋への転売」などの解決策が次々とでてくる。ここまでくると、今、インフレ状態になっている経営コンサルのマネジャー以下の人材のレベルは超えていることになる。彼らはもはや不要になると言っても間違いない。



日本人の「49%」の仕事が奪われるどころではない衝撃

XH4D/istock

 2015年に、野村総研とオックスフォード大学が、AIがあたえるインパクトについて衝撃的なレポートを発表したのを覚えているだろうか。日本人の実に49%はAIに仕事を奪われる、というものだった。

 しかし、このChatGPTの衝撃を鑑みると「49%どころではない」ことがわかる。様々な技術を組み合わせれば、私の感覚値では80%以上の人間は不要になるのではないだろうか。リスキリングなど、「学び直し」が盛んではあるもの、少なくとも、MMT (現代貨幣理論)からアパレル産業の在庫問題までディスカッションできる人材はアパレル業界には皆無だろうと思う。

 私がMMTにこだわるのには理由がある。それは、服が売れない理由をデザインや需要予測の責任だと思い、バブル時代からなんら変わらぬ仕事のやり方を続けているからだ。今、服が売れないのは過剰供給も大きな要因だが、これとて国民の所得が倍になれば多くは解決する可能性もある。MMTを主張する学者は、その財源はインフレターゲット以内であれば貨幣を市中にばらまいても構わないと説明する。いわゆる国のP/Lであるプライマリーバランスこそが諸悪の根源であるという主張だ。服が売れない理由を、ここまで大きなマクロの視点で考えている人が何人いるのかということだ。分析すればするほど、解決策はMMTに落ち着くのである。

 もちろん、ChatGPTはMMTとアパレルの課題を紐つけるほどの知性はまだ持ち合わせていない。ただ、これも時間の問題で、調達インフレと販売デフレのサンドイッチ現象に悩まされている産業は経済政策との連関性にまで遡らなければ、「はい、海外にいって稼いでください、日本はダメです」という無責任な提言でおわってしまうことになる(私もその一人だった)AIがここまで驚愕の進化を遂げると、人間の知性レベルはマクロ経済と業務オペレーションの連関性まで見える分析力が必要となり、感覚的には日本人の80%以上が職を失うといっても、私はなんら違和感を感じない。

機械は考えていない! では人間は考えているのか?

 私は自分のチームの技術者とディスカッションを繰り返した。彼は、印象的なことを言った。「機械は考えていないのです。機械に組み込まれた数式(アルゴリズム)に従って答えをだしているのです」と。しかし、数多くの企業コンサルティングを行ってきた経験からいって、果たして「考える」ことで出されるアウトプットと、「数式」からだされるアウトプットのどこに違いがあるのだろうかと考えた。

 人間は考え、判断をするというが、私の知る限りほとんどのビジネスパーソンは自らジャッジをすることができない。それは度胸かもしれないし、論理性から生み出される精度かもしれなければ、再現可能なメソドロジーの知識、脳を使ったトレーニングの回数かもしれない。いずれにせよ、私は高度なアルゴリズムから生み出されるアウトプットの裏に「生身の思考」があるかないかにそれほど重要な意味を見いだせないのである。いわゆるメタバースの本質を私はここに見いだすのである。

 

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Chat GPTはアパレル業界の接客を激変させる!

Galeanu Mihai/istock

 さて、大事なことは「こうした技術がアパレル産業をどのように変えるのか」という視点である。

 まず、幾多の秀才が、コンサルタント、あるいは投資家の立場でアパレル産業にはいり自滅する様を幾度も見てきた。彼らは、アパレル産業の表面しか知らないため、総合スーパー(GMS)や食品スーパーの衣料品版だろう、ぐらいにしか思っていないのだろう。だから彼らは「どうせやるならかっこよい方が良い」と考えがちなのだが、アパレル産業が、他の小売業と決定的に違うのは、「良いもの」の定義が非常に難しい点だ。例えば、「コスパ」(良さと価格の二軸で競争優位に立つこと)勝負で行く場合、価格という数字は嘘をつかないが、「良さ」というのが非常に曖昧で難しい。

 例えば、それは「ブランド」や「デザイン」「機能性」だったりする。そうしたなかで、アパレル産業において、ChatGPTが破壊力を十分に発揮するのは「接客」だろう。一方、ChatGPTは確かに凄い技術だが、例えば倫理的にNGな表現まで制御できないため、知的レベルが低い意味不明の人の会話でも、その文脈と目的をとらえて返事ができるため、大げんかになる可能性もあると複数のメディアが指摘している。

 これについては、私のチームのAI担当が、「すでに技術サイドではパラメータのチューニングによって過学習(AIの学習を制御する)技術は当たり前になっており、また、儒教、イスラム、リベラル、保守など、様々な思考から生まれるアウトプットをパラメータ化することは可能になっている」と説明する。いわゆるメディアが報道するスピード以上に技術進化のスピードは速いのだ。

会話の領域でシンギュラリティはすでに来ている

 こうした技術の進化が人間の思考に届かないのは、どういう場合だろうか。いわゆるインプットとアウトプットが連続して連なる一連の思考をリニア思考と呼ぶなら、ゼロからイチを生み出す、クリエーションの世界をノンリニア思考と呼び、古くは仮説思考やゼロベース思考などといわれていた。

 ではこの「ノンリニア思考」はまだAIにはできないのかというとそんなことはない。私の過去の論考を読んでいただければ分かるが、すでに、AIは、画像生成と呼ばれる技術で、ヒットの要因をいくつかつまみだし、それを合成して全く新しい(今まで世にだされていない)デザインを生み出すことができる。これは、ノンリニアなプロセスに他ならない。プロセス制御するPLMでさえ、すったもんだして一社もまともに動かせていない状況下で、これだけ高度な技術を使いこなせるのかという疑問がのこる。

 人間が生み出す「ゼロ→イチ」のクリエーションは、必ず何かしらの経験則によって生み出されるのか、あるいは、全くゼロから生まれることも可能なのかは古くから議論されていたが、どんなに腕の立つクリエーターでも、その思考の源泉は、いわゆる経験則から生まれるとみるなら、技術はすでにそこに到達しているのである。いわゆるバズワードでいうなら、会話という領域においてはすでに技術の世界では「シンギュラリティはすでに来ている」という。

ささげ業務やウェブ接客が自動化される

 そうなると、ウェブの世界のリッチコンテンツ化、単なる写真が動画に、動画がユーザー側が自由にコーディネートできるインタラクティブな世界へ、そして、自分のアバターに着せ替えて、最後にメタバースに到達するという進化の過程を経るとするなら、すでにWEBによる接客、および、ささげ業務の消滅と、すべての掲載される写真の動画化が実現可能となっているのだ。

 例えば、ユニクロのウェブページをみれば、すでに写真は動画化されて、ウェブの中で音をだしたり、動いたりしている。しかし、それは4色あるうちの代表的な色だけで、その他の色のコーディネートや動画を見ることができない。おそらく、同社は現在も「ささげ業務」をやっているものと想像されるが、今は、人間がやらなくても、少数のピースさえあればAIが自動でモデルの表情から生地感までを合成写真で、しかも、極めて安価につくることができる。

 産業界は、3D CADを念仏のように疑いもなく使っているが、あの3Dモデルは酷く、また、前回述べたようにデザイナーの思考と逆(パターンを読み込んで商品イメージをつくる。デザイナーは商品からパターンを変化させる)で、まったく生産性の向上に寄与していない。こんなものは使う意味は無いし、必ず商品デザインからパターンを自動生成する3Dモデルが登場するだろう。それまで、ハサミでパターンをつくり基礎を学んでおくべきだ。

 このように、ウェブの中で服が様々な服とコーディネートでき、ARによって裏も表も見ることができ、モデルに着させて着用感を見ることも可能だ。一方、裏側ではこうした消費者の動きを拾って、どのコーディネートが最も売れるか、どの写真が消費者に刺さるのかということを学習し、ウエブはますます魅力的になる。さらに、こうした消費者の動きから調達量を再算出することもできる。こうした作業がすべて自動で、しかも、極めてローコストで実現が可能なのだ。

Chat GPTは打ち出の小槌か?

 講演で、デジタルについて話すと必ずでてくるのが「ボタンをおせば、売れる商品がパッとでてくる技術はないのか?」である。答えは、イエスでありノーだ。

 まず、このように、裏側にさしたる戦略もなく楽をしようと考えている人は、まっさきにリストラされるだろう。また、システムから抽出される「売れ筋商品」も、例えば、ユニクロが似たような商品を半額の値段でだせば一発で消費者はそちらにながれてゆく。つまり、こうした技術が完全に奏功するとしたら、社会主義のような計画経済か、日本においては自社が唯一のプレーヤーであることが条件になる。「売れる商品がパッと出てくる技術」は自社だけが持てるものではないからだ。

 すでに、水面下ではファンドによる中小アパレル企業の買収が盛んに行われており、先進的なアパレル企業も緩やかに人員を減らして行きながら、M&Aで成長を目指している。限られたパイを奪い合う戦いの果てには、相手を自社グループに組み込む資金力や資金調達力が勝敗を決することになる。

 「売れる商品は?」などと、矮小化された視点で、技術屋さんと盛り上がっていては競争には一生勝てないことを知るべきだろう。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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