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ハイブリッド3PLに販売物流プラットフォームの構築…高騰する物流費への正しい対応方法とは

物流費の高騰が止まらない。国土交通省が2020年に発表した資料によれば「87.9%の企業が運送会社から値上げ要請を受け、その要請に対し95.4%が要請に応じている」(国土交通省「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃の告示について」)。この状況は改善することはなく、さらに「物流の2024年問題」を控え、逼迫していくことは必至だ。
小売業の売上高に対するコストの内訳を見ると、物流費は3番目に高く、依然その水準は高止まりしている。物流コスト比率の高い業種は製造業、中でもプラスチック・ゴム製造業者、その他日用雑貨等卸売業が高い。売上高総額が前年比2%減の一方で、物流コスト総額は3%以上上昇している。なお、アパレルビジネスでは、売上に占める物流費の割合は通常5%程度である。今回は、高騰する物流費に対して、どのように対応すべきか、その問題の根本と解決策を提示したい。

Phiwath Jittamas/istock

物流コストの何が上昇しているのか?

 ひとえに物流コストと言っても、多岐にわたる物流業務のどこがコストアップ要因になっているのかを知るために、物流コストを分解して考えていきたい。

 物流コストの内訳はおもに「輸送費」と「荷役費」である。そこに「保管費」「包装費」「物流管理費(人件費)が加わる。そのうち全体の5~6割を占めるのが「輸送費」である。

  この「輸送費」の上昇は運送会社のドライバー不足が極めて深刻化していることが大きく関係している。3Kならぬ4K「キツい・汚い・危険・稼げない」とまで言われることもあり、若い人材が減る一方、ドライバーの高齢化が進んでいる。このままドライバーのなり手が増えない状況が続くと、「輸送費」の増大だけでなく、運送業界で倒産が相次ぎ、物流崩壊になりかねない。

  一方、出荷元のアパレルは「このまま物流費の高騰が続けば、従来と同じサービスを同じ価格でお客さまに届けることは不可能になる」と説明している。物流業者、出荷業者ともに切実で差し迫った大問題だと認識しているわけだ。



やっても意味がない 物流の対処療法とその理由

 ここで、問題解決が不慣れな人間が陥る対処療法を紹介しよう。

①梱包の見直し

「出荷数量が増えれば梱包材の数が増えコストを圧迫する。封筒・段ボール・テープ・緩衝材などのコストも積み上がると膨大になるため、ある程度の頑丈さを担保した上で簡易なものに見直すべき」

 →このような針の穴に糸を通すような努力には敬意を表したいが、これがすべて成功したとしてどれだけの原価低減になり、物流業界の人材流出を止めることができるのだろうか?おおよそ、このような些末なコスト削減をする人は、数字を書かない。

②運送会社の料金見直し

「運送会社からの要請に大半の企業はやむなしとして応じているが、そのサービス内容にまで踏み込んで検討しているだろうか。大口契約での割引や同じ宛先への割引など、交渉次第で割引に応じる運送会社もあるはずだ」

→これは、可能性はあるとは思うが、バルクプライスは商社のどこでもすでに実施していることだ。もう少し商社などの国内出荷を研究すべきだ。

③チャーター便の利用

「特定地域宛の場合、複数の依頼主の荷物をまとめて運送(混載便)するが、その場合混載便を利用するよりチャーター便を利用したほうが得策である」

→複数の荷主をまとめることは、最難関である。過去、こうした取り組みはあちこちで試みられ、私もTSI、ストライプインターナショナルの社長に共同配送を提案し、彼らも一度は「やろう」ということになったが、結局話はまとまらず、この構想は壊れてしまった。

 ④アウトソーシングする

「自社で工夫しても、業務への圧迫もあり必ずしも良い結果をもたらすとは限らない。思い切ってアウトソーシングした方が結果的にコスト削減につながる場合も少なくない。その際、物流業務に関わるノウハウを知る人材を残しつつ、一部を外部に任せるのがのぞましい」

→これが奏功するのは、「社内に物流がわかる人材が豊富にいて、3PL(物流業務の第3者への委託)にするとコストが下がる」ことが明確なときだけだ。これらの改革は企業の中でよく見るが、ほとんどの企業は成果をあげることができていない。理由は人材流出、増える荷物に人材が追いつかない、からである。ここを直さねば、いかなるコスト削減も、「お腹が痛いと便秘で医者に飛び込んだ患者に、ろくに問診もせず、盲腸の手術をするようなもの」である。

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物流問題を解決する一連の手法

imaginima/istock

 ちなみに、3PLに切り替えた某有力セレクトショップ企業は、フェデックス・エクスプレスの倉庫にアウトソーシング。増え続ける余剰在庫が別棟の荷物置き場まで満たんになり、増設しなければ余剰在庫の置き場がない、という状況のようだ。

 この状況を鑑みて私が提案するのは「ハイブリッド3PL」である。ハイブリッド3PLとは、自前の倉庫と3PL先をハイブリッドで使うものだ。パフォーマンスや余剰在庫の置き場も決め、仮にこれ以上置けなくなった場合は、ファミリーセールで叩き売るか、マルイやオンワードなどの企業に助けてもらい、一気に在庫を売り切ってしまう。

 さらに、物流の人件費を大きく上げることで、人の流出をとめ、流入を増やす。その人件費は3PL業者の人件費よりもちょっと高い程度にしておくことが大事だ。

 次に、経営トップは、仲の良い企業と販売物流のプラットフォームをつくり、積載率をあげてゆくとともに、オンワードの真空プレスなどを使い、ハンガー納品で必要な1品あたりの物量を最小化していく。今、販売物流の積載率が40%程度といわれているので、これが最大化されるとともに、これまでよりも高密度で商品を積載することができる。

 さらに販売物流の中でもラストマイル物流に関しては以下の取り組みを提案する。消費者に対して、必ず①近くのコンビニに送る、②XX日のXX時であれば、自宅に送るの二択にし、XX日に受け取ることができなければ再配達料を徴収することを明記する。これで再配達に関する諸問題は解決する。 

いずれにせよ、人材の問題が最もクリティカルなのだから、

  1. 人材の報酬を上げる
  2. 人材配送の歩留まりをゼロにする。ルールを破る人からはペナルティをもらう

でよいはずだ。

  ただ、今後ECがますます拡大する(EC化率は中国は60%、日本は20%以下)なか、物流問題はどんどん難しくなっていく。僭越ながら、的を得ていない改革など、なんの効果もない。将来は、無人自動車による配送、ドローンによる配送など、今までとは全く違う配送と、外国人に大量にワーキングビザを発行し、この手の仕事を任せる日もくるだろう。物流だけは、残念ながらメタバースの世界が入り込む余地はないのだ。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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