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負けない商品のつくり方 「もうやんカレー」に学ぶ、“つぶれない店”をつくるポイント

1997年、カレー店激戦区の新宿で誕生し、現在は渋谷、新橋、横浜などに12店舗を構える「もうやんカレー」(東京都)。脱サラし、25歳でもうやんカレーを創業した社長の辻智太郎氏は学生の頃から、生き残る中小企業について考え抜いてきたという。飲食店の場合、その1つの術が他店や家庭で作ることができない味を作り、独自路線を歩むことだった。「他社の商品に負けずに、売れ続ける商品の作り方」について、辻社長に話を聞いた。

― 飲食店の経営は継続させるのが相当に難しい、と言われます。もうやんカレーは25年近くになりますね。

辻 1号店を開店した1997年、新宿にカレーのお店は少なくとも50店舗ありました。2021年11月の今、そのうちで残っているのは3分の1ぐらいです。おいしいカレーを作るのは当然として、売れるため・生き残るためにはそれ以上のものが必要なのです。ただ単においしい、というよりも「これは家や他の店では食べられない。だからあのお店に行きたい」と思っていただけるものを作らないといけない。もうやんカレーでは、それしか作りません。

 ただし、このようなものを作るのには時間や労力がかかります。ボツにしたのもたくさんあります。その繰り返しで、「もうやんカレーに行かないと食べることができない味」にするのです。今、カレーソースの味はバージョン9。1からスタートし、状況に応じてどんどん改良してきました。

 コロナ禍で多くの店が閉店・廃業しました。生き残っているお店は、本当にお客さんに求められている店なのだと思います。もうやんカレーは、このフィルターを通過するために創業時からいろんなことを試みてきました。大切なのは、お客さんが欲しいものをきちんととらえて、それを提供できること。創業時からそれに徹してきましたし、これからもそうありたいと思っています。

― カレーソースの秘訣は?

辻 創業時から、カレーソースには徹底して力を入れてきました。YouTubeでカレーソースを作っているところを映した動画をアップロードしていますが、大事な部分は撮影していません。都内にいくつかある「秘密工場」で私が基本的には一人で作り、それを各店舗に車で運び、カレーライスにしています。

 カレーソースは大量の野菜や果物を70時間以上炒め、煮込み続けます。25種類以上のオリジナルのスパイスを使い、約2週間の熟成期間を経て完成します。この作業には膨大な時間やエネルギーが必要で、ほとんどの店の経営者や料理人はこんなことはまずしない、採算が合いません。しかし、他がしないからこそ、私たちはするのです。これだけの野菜と果物を限られた時間やコストで集めるのも、たぶん難しいでしょうね。

 現在に至るまで、いろいろな食品メーカーなどから「一緒にもうやんカレー(のレトルトカレー)を作り、販売したい」と誘われました。しかし、大量の野菜や果物を煮込んで、70時間以上かけてカレーソースを作っているのを知ると諦めてしまわれるケースが多いのです。

― なぜ、野菜や果物に目をつけたのですか?

辻 両親が自然食品の店を都内で経営していて、子どもの頃から野菜や果物をたくさん食べてきました。会社員だった頃、会社の寮でカレーを作ることになった時です。みんなにも健康になってもらいたいから、野菜や果物を大量に入れ、時間をかけて丁寧に煮込んだカレーを作りました。食べてくれた人の多くが「とてもおいしい」と言ってくれ、店を始めてもある程度はお客さんが来てくれるのかな、と感じました。少なくとも、挑戦する意味はあると思うようになったのです

 飲食店の経営にリスクがあるのは、もちろん心得ていました。3000万円前後を金融機関から借り入れスタートしたのですが、毎月40~50万円のペースで返済を続けないと経営が成り立たない。例えば60万円の利益で、50万円が返済で消えると、残り10万円。これで家族を養うのは難しいですよね。だから事業や返済の計画は念入りに考えました。
計画で最も大切なのは、「お客さんを優先して考える」こと。そして、もうやんカレーにしか作れない味にすること。他のお店と違わないといけない。創業期には、ここまで大量の野菜や果物を煮込んでいるカレーのお店は全国でも数件しかなかったこともあって、開店して早いうちから、お昼は大勢のお客さんが来てくれました(後編に続く)。

もうやんカレー 辻智太郎社長