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焼肉のファストフード化戦略とは?一人焼肉推奨店「焼肉ライク」躍進の秘訣を有村壮央社長に聞く

焼肉が一人で手軽に、安価で食べられることで話題を呼んだ一人焼肉推奨店「焼肉ライク」(東京都)。第一号店のオープンから3年が経過した今、コロナ禍においても積極出店を続ける焼肉ライクの経営戦略はどのようなものか。焼肉ライク社長の有村壮央氏に話を聞いた。

コロナ禍でも強さを見せた一人焼肉推奨店

 焼肉ライクは、18年8月、東京・新橋に第一号店を出店して以降、現在(21年9月)全国69店舗まで勢力を拡大している。

 一人焼肉推奨店としての特徴的な店内の様子は以下の通りだ。二人席を備えている店舗もあるものの、中心となるのは左右を仕切りで区切った一人客向けの客席。ブースともいえる一人用の客席内には、注文用のタッチパネル、一人用ロースター、水やタレ、箸などを備え、必要なものはすべてセルフサービスで手の届くところに配置してある。
もともと換気の強い焼肉店で、店員や他のお客との接触も最小限というコロナ禍にうってつけの業態ともいえる焼肉ライク。だが、第一号店のオープンが18年ということからもわかる通り、最初からコロナ禍を想定して開発されたわけではない。「焼肉をより気軽に、自由に楽しめるような業態」(有村社長)をめざして立ち上げたいわば「焼肉のファストフード」が、図らずもコロナ禍でのニーズに見事に刺さった格好だ。

 最もコロナ禍の影響が大きかった20年4〜5月こそ、売上が前年比で60%程度まで減少したものの、その後は順調に回復。同年12月には同100%を超える水準になった。さらに、21年は毎月複数店舗を新たに出店するなど積極的な動きを続けており、そのいずれもが好調に推移しているという。コロナ禍でも勢いを見せる一人焼肉推奨店はどのようにして生まれたのか。その経緯をみていこう。

大反響を呼んだ第一号店

 もともと、焼肉業界はマーケットが大きい一方で一人では利用しにくい、という問題点を抱えていた。ある調査によると、「好きな外食は何か?」への回答で「焼肉」が2位を獲得する一方で、「一人では利用しづらい業態」でも焼肉は2位だったという。焼肉ライクがめざした「1000円前後の安価で、一人で入りやすく、パッと20分で食べられる気軽さ」は、結論として需要に合致したわけだが、「本当に需要があるのかどうか、やってみないとわからないところは大きかった」とも有村社長は話す。その理由は、ハレの外食のイメージが強い焼肉が、普段使いを前提とした業態とマッチするのか、というところにあった。

 しかし、そんな不安も抱えつつオープンした新橋店へのリアクションは想像以上だった。客層は当初想像していた通り、近隣に勤めるサラリーマンやOLが多くを占めたが、意外だったのは新橋というオフィス街にありながら土日も満遍なくお客が押し寄せることだった。オープン当時には話題性から人が集まった側面もあったと考えられるが、その後も老若男女問わず幅広い年齢層の利用があることがわかった。
とくに意外だったのが女性客の多さだ。一人焼肉という業態に敷居の高さを感じると思われたが、多い店舗では女性客の割合は4割に達する。最初は二人で来店し、システムを理解したら一人で来店するようになる、という女性ならではの特徴があることも判明した。

 焼肉には「高級な肉をゆっくり味わいたい」という需要がある一方で、安価・スピーディ・一人利用というファストフード的需要もあったのだ。その需要を焼肉ライクが掘り当てた格好だ。

出店戦略の軸は「ファストフード」であること

 立地の面でも、焼肉ライクは通常の焼肉店と考え方を異にする。他チェーン系の焼肉店では、ロードサイドや飲食店が集まる雑居ビルなどに出店しているケースが多いが、焼肉ライクはどうだろうか。

 焼肉ライクが出店戦略の軸に据えるのは、「ファストフードであること」だ。同じファストフード業態である大手ハンバーガーチェーンなどが出店するような、通行量の多い道路に面した立地をとにかくねらうのだ。ただし、こういった立地はその分賃料も高い。コロナ禍で賃料が下がったという背景もあるが、好立地への出店を続けられる一番の秘訣は客単価にあるという。焼肉ライクは焼肉店としては格安の価格設定だが、牛丼など他のファストフード店と比べれば客単価は1.5〜2倍になる。ポイントは、それでも「焼肉にしては安い」と感じてもらいやすいことだ。低価格と好立地の集客力で高い売上を作り、賃料の高い場所でも採算が取れることが焼肉ライクの強みになっている。

写真は「メガ盛り!!セット」。300gのボリュームで税込1200円(※画像はイメージです)

 さらに、焼肉は「お客が自分で肉を焼く」という特性上、人件費や調理スペースを他の飲食業態よりも抑えやすい。とくに焼肉ライクでは、前述の通り徹底したセルフサービスによる省人化を行っている。人件費を抑えることで、ある程度原価にコストをかけることが可能になり、お客の満足度をより高めることができる仕組みだ。

チルド流通を可能にする回転の速さ

 それでは肉へのこだわりについてもみていこう。焼肉ライクでメインで使用している肉は冷凍ではなくチルド肉だ。冷凍に比べ、チルド肉の方が味は保たれやすいものの、当然日持ちや品質管理の面で手間がかかる。実はここでも、焼肉ライクという業態の特性が関係してくる。

 有村社長によると、「とにかく回転率を高めることが、フレッシュな肉を常に提供できる体制のカギ」だという。前述の通り、焼肉ライクは20分で食べられる焼肉が当初からのコンセプトでもあり、世間に受けた要素の一つでもある。良い立地で集客をあげ、お客の求めるスピーディさがより新鮮でおいしい肉の提供につながる。「おいしかった」と感じてもらえればリピートしやすい業態でもあり、それが店舗の採算を長く支えることにもなるという好循環がそこにはある。

 さらにファーストフードとして、話題を創出する新たな挑戦も忘れない。期間限定で生ラムを使った「ひとりジンギスカン」や、大豆を使用したフェイクミートなどのメニューも販売。「面白いな、と思ってもらえるエンターテインメントとして焼肉を昇華させていきたい」と有村社長は話す。

一人向け業態の未来と焼肉ライクの今後は?

焼肉ライク社長 有村壮央氏

 一人向け業態の今後について有村社長は、「(一人向け業態が増えることは)社会の流れとして抗えない。次に何が出てくるかはわからないが、今後も必ず出てくるしその需要もある」と語る。コロナ禍以前には、「一人で外食なんて恥ずかしい」「敷居が高い」という意見も根強かったが、コロナ禍でそのハードルが下がったことは明白だ。焼肉ライクのように「一人向け」と明確に打ち出している外食チェーンはまだ多くないものの、今後増加していくとみてよいだろう。

 焼肉ライクは今後全国への出店をさらに拡大すると同時に、ロードサイド店の出店にもさらに注力する構えだ。さらに、繁華街だけでなくもう少し人口の少ない立地でも成立するよう、更なる省人化も推し進める。コロナ禍で需要が高まったものの、人的リソースを消費しがちなデリバリーやテイクアウトについても、弁当に使用する肉を自動で焼く「自動焼き器」の導入などで省人化との両立をはかり、新たな顧客開拓につなげている。

 「焼肉のファストフードという意味では日本一をめざしたい。さらに、焼肉ライクを日本を代表するトップブランドに成長させたい」と有村社長はインタビューを締めくくった。