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店長含め外国人スタッフ比率2割 もうやんカレー、スマホ&LINE活用の多国籍人材育成術とは?

都内を中心に人気カレー店「もうやんカレー」を12店舗展開するもうやんカレー(東京都/辻智太郎社長)。店内では多くの外国人スタッフが働き、外国籍比率はなんと20%。国籍で賃金・昇給の差をつけることなく、さまざまな人材が働きやすく、労働を通じて成長しやすい環境をつくっている。デジタルを活用した、もうやんカレー流人材育成術を紹介しよう。

社員・アルバイト総勢50人中10人が外国籍

「体に良いカレー」をポリシーに、厳選した香味野菜と果物をエクストラバージンオイルのみで約72時間かけてじっくり炒め、煮込んだソースが人気の「もうやんカレー」。25種類以上のオリジナルのスパイスが使われ、約2週間の熟成期間を経て完成する。

代表取締役社長の辻智太郎氏は「カレーのソースをつくる食材の原価は、他店のカレーの少なくとも3倍にはなっている」と語るこだわりの逸品だ。

1号店は1997年、辻社長が25歳の時に新宿にオープンした。現在は新宿、渋谷、新橋、池袋、赤坂、横浜などに12店舗を構える。正社員10人、アルバイト40人。50人のうち外国籍はネパール、タイ、台湾で10人。外国人は10年ほど前から雇い、今はネパール人の店長もいる。

「国籍、年齢、性別で仕事の内容、賃金、昇給などの処遇に差をつけることはしていない。その人の働きに応じて評価している。ただし、言葉には注意をしている。言葉が通じない場合があると、店の仕事が進んでいかなくなる。意思疎通がきちんとできるような環境は力を入れて作ってきた」。(辻氏)

動画を使うと、外国人がより深く理解する

もうやんカレーが自社で作成したカレーのつくり方動画

その1つが、デジタルを活用した人材教育だ。「動画」は、例えば店舗のレジやバックオフィスのパソコンの使い方をコンパクトデジカメ(現在はスマートフォン)で撮影、編集し、社員やアルバイトが視聴できるようにしてきた。ソースの作り方やテーブルにスプーンやフォークを並べる際の注意事項をテーマにした動画もある。

時間は、数分間から10分を超えるものまで多様だ。その数は、100本以上。一時期、日本語や英語のやりとりをする際、微妙なニュアンスまでは意思疎通が十分に図れない外国人スタッフが勤務していた時があった。そのようなアルバイトのことも考慮し、辻氏や各店舗の店長が手分けをして作ってきたものだ。

「例えば、ソースの作り方の動画を見ると仕事を早く覚えるようになる。その達成レべルも自分たちがイメージしたとおりになっている。一人前に早くなってくれると、カレーの値段も抑えることができて、お客さんに喜んでいただける」(辻氏)

作り方のコツは、撮影する側が大切なところをよく心得て、そこを中心にまとめることだという。編集する時にも同じことが言える。視聴後「ここがポイントで、このようにするとできる」とすぐにわかるようにするのが、ポリシーだ。辻氏は動画編集ソフトを使い、独自で学んだ。

この10年ほどで動画は、社員やアルバイトがLINE(ライン)で見ることもできる。英語や日本語に慣れていない外国人には、ラインでの動画を通じての教育効果が大きいようだ。

            

静止画を使った教育が有効な場合も

 撮影や編集には一定の時間がかかることもあり、静止画(画像)を使う場合もある。例えば、辻氏が各店舗を回る際にテーブルの上のコップやスプーンの置き方に気がつくと、その場で撮影し、画像を全員に送る。情報を共有することで育成のレベルを底上げする。画像の下には、「ここが間違い!」などと簡潔に書く。外国人が読むことを意識し、英語で書く。

「日本語で書く場合もあるが、微妙な言い回しにすると外国人に意味が正しく伝わらないことがあった。それで画像を貼り付け、簡潔な英文を書くようにした。そのころから、英語のほうが全員に正確に伝わりやすいと思った。読むことができない日本人は編集ソフトを使っている」(辻氏)

今は、日本語や英語に流ちょうな外国人ばかりとなり、画像を使った教育指導は以前よりは少なくなりつつある。現在は、辻氏を中心とした店長など経営幹部のメンバー間でも使う機会が多い。例えば、厨房の機械に不具合がある時、その店の店長が撮影し、辻氏に送り、テキスト(文字)のやりとりで相談する。辻氏も画像を新たに撮影するなどして回答している。このやりとりは、内容にもよるが、アルバイトも観ることができるようにすることもある。これも、全員の育成レベルを底上げするための試みだ。

 

辻氏は、YouTubeの自身のチャンネル「もうやんカレー社長 辻」でソースの作り方などを公開している。「回転釜 野菜ペースト」「もうやんカレーの作り方大釜編」でくわしく紹介されている。いずれも、辻氏が撮影、編集をしたものだ。

飲食店や小売業の場合、スタッフの国籍や年齢、性別は実に多様だ。人手不足が深刻であるだけに、ほかの業界よりもバラエティに富んでいるのかもしれない。言葉の問題にぶつかる機会も多いのだろう。もうやんカレーの取り組みは、その意味での参考になるのだと思う。