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業績堅調なケンタッキーフライドチキン、「テイクアウト専門店」注力で狙う、新たな鉱脈とは?

コロナ禍のテイクアウト需要の高まりを受けて好業績を収めている日本ケンタッキー・フライド・チキン(神奈川県/判治孝之社長、以下日本KFC)。2021年度3月期決算では、ケンタッキーフライドチキン(以下KFC)チェーン売上高が過去最高の1440億円(対前年同期比11.8%)を記録した。そんなKFCが新たな一手として出店を進める「テイクアウト専門店」について、同社経営企画部兼広報CSR部部長の丸山昌俊氏に話を聞いた。

テイクアウト専門店のビーンズ戸田公園店(埼玉県戸田市)

日本KFCが新たに展開する「テイクアウト専門店」

 コロナ禍でのテイクアウト需要を受け、一時期はその売上のほとんどがテイクアウトとなった時期もあるという日本KFC。もともとKFCはコロナ前からテイクアウト利用の比率が高く、売上の約7割をテイクアウトが占めていた背景を持つ。「この背景を受けて、もっと戦略的にテイクアウト専門店を拡大しようとしていた矢先に感染が拡大した」と丸山氏は語る。

 現在、客席を持たない「テイクアウト専門店」は全国で12店舗。ただし、このうちの9店舗目までは、通常の店舗フォーマットで出店したかったものの、十分な客席スペースが確保できなかったなどの理由で、結果としてテイクアウト専門店になったものだ。この流れに変化があったのが、2019年11月にオープンした、10店舗目となるテイクアウト専門店「ヨークフーズ新宿富久店(東京都新宿区、以下新宿富久店)」だ。

 新宿富久店は、結果としてのテイクアウト専門店ではなく、戦略的に出店されたテイクアウト専門店第一号。全国に1138店舗(21年3月期末)を展開するKFCでは当時、通常フォーマットでの出店が難しいような都市部の面積の狭い物件への出店が課題となっていた。そこで、フォーマットの最適化を行い、より効率的なテイクアウトに特化した店舗を作る、という明確な目的のもとに出店されたのが新宿富久店だ。新宿富久店の好調を受けて、ビーンズ戸田公園店(埼玉県戸田市)、中野五差路店(東京都中野区)をテイクアウト専門店としてさらにオープンした。

テイクアウトだからこそ必要な動線の工夫

 テイクアウト専門店で行った具体的な施策としてはまず、動線の工夫がある。KFCに限らず、テイクアウト比率の高い店舗ではよく見かける光景だが、注文前のお客と受け取りを待っているお客が入り混じり、人の流れが滞ることがある。これはお客・スタッフ双方にとって不便を生むため、新たに出店したテイクアウト専門店では動線を整理し、スムーズな購入ができるようにした。

 この工夫は、コロナ禍でテイクアウト比率が高まっている通常店にも取り入れていく予定だ。ウーバーイーツなどの代行デリバリー導入店舗ではすでに、配達員が商品を受け取るための専用の入口や、受け取りロッカーを設けたところもある。動線の整理はごく基本的な施策ともいえるが、KFCのようにテイクアウト比率の高いチェーンでは、効率化や店舗滞在時間の短縮、不必要な接触を防ぐ感染防止など、何重にも効力を発揮している。

 また、中野五差路店では、省力化に加えて非接触ニーズへの対応として、無人レジを導入した。これも通常店への導入をテスト中で、テイクアウト専門店はKFC全体のよりよい店づくりの試金石としても役立っていそうだ。

なぜKFCはコロナ禍で絶大な強さを発揮したか?

 コロナ禍の影響を強く受けた21年度3月期を振り返り、丸山氏は「テイクアウトの需要急増に、即座に対応できるノウハウを持っていたことが強さの秘訣」と語る。売上増の要因は客数そのものが増加したことや、テイクアウトで1人あたりの購入金額が増えたことなどが挙げられるが、これらを支えたのはもともとのテイクアウト利用が多かったことで培われたノウハウと、洗練されたオペレーションだ。

 それまでイートイン(店内喫食)利用がメインだった飲食店では、テイクアウトの導入や、テイクアウト注文が急に増えたことによってオペレーションの構築がうまくいかず、チャンスを逃したケースも少なくない。その点KFCは、クリスマスなどの注文殺到にも耐えうる強靭なオペレーションで苦難を乗り越えてきた。

 また、「KFCはテイクアウト」という世間のイメージもコロナ禍での顧客取り込みに一役買った。持ち帰って家族で食べるもの、イベント時にみんなで食べるもの、というイメージは、コロナ禍で「外食ができない→自宅で食事として皆で食べたい→KFC」という連想を呼び起こしやすかったのではないかという。

デリバリー導入店を約3倍へ 今後のテイクアウト・デリバリー戦略

 ここのところようやくイートイン利用も回復してきたものの、「コロナ前の水準にはまだ至っていない」(丸山氏)という日本KFC。これを受けて、日本KFCはテイクアウトおよびデリバリーの強化に今後も注力する。21年5月末現在、デリバリー対応店舗は自社デリバリーとウーバーイーツなどの代行デリバリーを合わせて全国で374店舗。コロナ禍以前は200店舗強の導入数だったことを考えると、この1年急ピッチでデリバリーの整備を行ってきたといえるが、これを23年期末までに600店舗程度まで増やすという。

日本ケンタッキー・フライド・チキン 経営企画部兼広報CSR部部長 丸山昌俊氏

 テイクアウト専門店も積極的に出店をめざす。全国で1138店舗(21年3月末時点)を展開するKFCだが、それでも地方などからは「食べたいが遠くて行けない」という声が寄せられることがあるという。都市部での小型フォーマットとしてのテイクアウト専門店だけでなく、地方でもニーズのあるところに低コストで出店しニーズを充足するという役割もテイクアウト専門店にはある。テイクアウト専門店の新たな出店予定はすでに数店舗あり、いわゆる“駅ナカ”のような立地や、ショッピングセンターの敷地内などを検討中だ。

 丸山氏は、「どのような時代の変化があってもKFCとして、手づくり調理やおいしさなど変えてはならないこともある。ただし、それ以外の利便性や利用のしやすさなどについては、これからも創意工夫しながら積極的にチャレンジしていきたい」と語った。コロナ禍でゲームチェンジが起こった外食業界。KFCはその知見とノウハウをもとに、アフターコロナの世界でも成長をめざす。