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日酒販2021年3月期決算、コロナ禍で減収減益 今後の酒類消費の回復に向けた施策は?

酒卸大手の日本酒類販売(東京都/田中正昭社長:以下、日酒販)は、2021年3月期決算を発表した。連結売上高は5200億9300万円(対前期比7.2%減)、営業利益は14億6800万円(同53.9%減)、経常利益は21億1600万円(同44.5%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は11億6800万円(同53.9%減)の減収減益。単体ベースでは、売上高4951億7600万円(同6.5%減)、営業利益17億3400万円(同41.5%減)、経常利益は22億600万円(同36.2%減)、当期純利益14億2200万円(同38.3%減)の減収減益と厳しいものだった。この詳細について、同社幹部の談話にて振り返りたい。

日酒販が2021年6月から発売を開始した台湾産RTD「カバラン バー カクテル ハイボール」と「カバラン バー カクテル ジントニック」

コロナ禍で厳しい一年に 外呑みマーケットの新たな需要を掘り起こす

––田中正昭社長談(文責:千田)

 新型コロナウイルスの世界的蔓延は日酒販にとって負の影響が大きく、売上・利益ともに厳しい1年となった。この間、3回にわたって緊急事態宣言が発出されたが、飲食店の休業や時短営業により、とくに「業務用」市場が大きな打撃を受けた。日酒販は酒類の売上が約8割を占め、業態別では「業務用」「二次卸」で売上の約3割弱を構成する。主軸である「業務用」は対前年比324億円の減少を喫し、「二次卸」も同118億円の減少となった。

 一方、在宅ワークやテレワークが定着したことで家呑みシフトが起こり、チェーンストアの売上高は伸びた。具体的には、「スーパー」が同130億円、「ドラッグストア」が同23億円、「DS」で同41億円の売り上げを積み増した。また、「ネット通販」も同34億円増加した。しかしながら、「業務用」の落ち込みを埋め合わせするまでには至らなかった。

日本酒類販売 田中正昭社長

 利益については、物流コストの見直しや全般的な経費の圧縮や削減に努めたが、結果として減益になった。

 2021年4月からの3度目の緊急事態宣言では、外食産業で酒類提供禁止という措置が取られたこともあり、「業務用」市場は昨年以上に停滞している。家庭用も昨年ほどの勢いがないので販売環境は厳しさを増す一方だ。今後、ワクチン接種の進展により、需要回復は進むものとみているが、在宅勤務やテレワーク拡大による働き方や消費者の行動パターンが激変しており、ワクチン接種終了後においても酒類・食品市場を取り巻く環境が以前のような状態に戻るとは考えられない。「家呑みが定着した消費者が果たして今後どの程度、外呑みに回帰するか?」などの予測分析を踏まえ、外呑みマーケットの新たな需要を掘り起こすことが課題ととらえている。

 さらに働き方改革をめぐる環境に目を向けると、テレワークやウェブ会議、オンライン商談などの活用。書類のペーパーレス化など、業務効率化は一気に加速し、働き方・業務プロセスなどの変化は業界全体でも進んでいる。幸いなことに日酒販は、このような課題に以前から取り組んできていたこともあってこの潮流に間に合い、それぞれにうまく対応しているという自負がある。前期の販売環境は厳しかったが、社内では社員が一丸になり、DX(デジタルトランスフォーメーション)による経費削減や業務効率化に当たっており、アフターコロナに備えている状況だ。

 日酒販としてはこの苦境を乗り切り、まずはコロナ前の業容の確保に当たる。その後、さらなる成長に向け、今年度は重要な年度になると位置付けている。

家呑み需要で「RTD」は2桁成長を達成

––倉本隆副社長 流通統括本部長(同)

 カテゴリー別の動向は、まず「麦酒」は業務用商材である生樽と瓶を中心にした落ち込みが大きく、オフ系の新商品や酒税改正後の家庭用の増加はあったものの、売上は722億3600万円(対前期比21.6%減)で199億円の減少となった。

 また「業務用」不振の影響により、「ウイスキー」の売上は同10.9%減、「ワイン」は同15.1%減だった。「和酒」も同様で「清酒」の売上は251億円(同9.6%減)で「焼酎甲類」は168億円(同12.5%減)、「焼酎乙類」は846億円(同4.9%減)となった。一方、「RTD」は家庭用の需要の伸長と他カテゴリーからの流入が続き2桁成長を達成した。「清酒」については業務用を中心に販売していた蔵元の商品を家庭で飲んでいただこうということで、小売店頭での販売を始めた。

 コロナ禍のなかで「飲酒=悪」というネガティブなイメージが連日にわたって報道されたこともあり、消費者の飲酒に対するイメージ悪化につながらないか危惧している。今年度の市場は前年以上に厳しいと感じている。日酒販でも2021年の4月と5月は前年の売り上げを上回ってはいるが、2019年の実績には届いてない。業務用の4月の売り上げは2020年の2倍以上になったが、それでも2019年比では60%弱の達成率である。6月は緊急事態宣言エリアでの酒類提供の禁止要請の影響を大きく受け、昨年以上の売り上げ減少になるなど、当初の状況とは大きく環境が変わった。

 今後はワクチンの接種により秋以降の需要の回復を見込んでいるが、感染力が強い変異株に置き換わっているという報道もあり、予断を許さない状況にある。この1年はコロナ禍によって消費者の生活様式が変化せざるを得なかった。この生活様式は、すべては元に戻らないと考えている。多様化し変化するコロナ後のニューノーマルに対応するために我々が変わらなければならない。こうした先行きの不透明な現状を踏まえて、今期についてもローコストオペレーションによるコスト削減と消費者の変化に対応することを進めていきたい。

量から質への転換、付加価値の提案が課題

––村上浩二営業本部長(同)

 今期の主な営業施策は新たな需要への対応ということで、ひとつにはきめ細かな業態別対応の推進、もうひとつは付加価値商品の提案力強化していきたい。もともと日酒販の業態戦略は、取引拡大に合わせて「業務用」「二次卸」「CVS(コンビニエンスストア)」「スーパー」「DS」「ドラッグストア」「ホームセンター」「ネット通販(EC)」など、各業態の専門部署をそれぞれ設置し、業態に即した対応をできるようにしてきた。また、そこでのノウハウを蓄積できる体制となっている。コロナ禍での新しい需要の奪取にむけてそれぞれ、きめ細かな業態別対応をいっそう推進していく。

 なかでもコロナ禍によって購買形態が大きく変化しているが、宅配通販需要の高まりなどECへの注目度が上がる結果となっている。日酒販は以前からEC市場を取り込んできたが、ECに必要な卸機能は日進月歩でグレードアップが求められている。その変化のスピードについていけるように、今期も人員の増強、品揃えや提案力の強化。物流機能の見直しといった課題に取り組みたい。

 また、発足から2年が経過した流通統括本部ではあるが、各地区に配置した流通統括所属の営業マンが各エリアのニーズに対応した個別の提案において成果をあげつつある。流通統括本部指導の下、部署または量販チェーンをまたぐ横断的施策や企画を実施しているからだ。そして今期の得意先編成の見直しにより、流通第7本部を新設、得意先の需要やニーズに柔軟に対応できる環境になった。外食需要の蒸発という苦境にある「業務用」においては、当社の強みである商品調達力や供給力、物流機能を積極的に活用してもらう提案をすることで回復の後押しをしたい。このようなきめ細かい業態別対応を推進する部門として営業企画部内にマーケティング課を新設した。市場動向に注視しながら、お客への提案充実を図っていきたい。

 いま、市場には逆風が吹いている。酒類流通における大事な課題は、量から質への転換、付加価値提案だと考えている。昨今、低アルコール化や脱アルコール化などの傾向が進み、麦酒の糖質オフのような健康志向商品の拡大が続いている。また社会の課題という意味では、「業務用」シェアの高かった地酒、本格焼酎、日本産ワインといった生産者はコロナ禍のダメージが深刻だ。このような国内メーカーの商品に卸として市場への橋渡しをおこない、消費を応援することが当社の役割だと考えている。

 付加価値商品提案強化については、この度営業本部内に商品開発部を設置した。ソリューション営業の実践のため、オリジナル商品や企業留め型商品の開発、アソート企画、オリジナルギフトの開発推進を行っていく。卸ならではの目利き力で価値をプラスして、お酒を楽しんでもらうための提案に磨きをかけること。酒のプロフェッショナルとして、このような変革に対応したいと考えている。簡単にいえば、日酒販は酒のコーディネーターというところに活路を見出すべく活動していきたい。

 商品施策については、酒類の消費志向が多様化するなかにあって「和酒」は低迷傾向にあるが、我々卸にとって利益の柱である本格焼酎や地酒を含む「清酒」の拡売は継続して注力していく。「清酒」については、地酒メーカー12社と倶楽部「蔵」を設立してから14年目を迎えた。そのクラブ「蔵」の“四季の酒企画”では年間販売数量10万本を目指しており、いまのところ順調に推移している。また本格焼酎においては、20代30代の若年層に親しみをもって購入、飲酒体験をしてもらえるようにメーカーと連携し、すそ野を広げる活動をしていきたい。

田苑金ラベルハイボールは好調。焼酎乙類のRTDにこだわる

 商品開発については、昨年の「田苑金ラベルハイボール」に続き、今年の5月には販売チャネル限定ではあるが本格焼酎ハイボールを3種類の販売を開始した。当社の企画発売する焼酎ハイボールは焼酎と炭酸水のみの使用で、焼酎乙類企画にこだわっている。糖類や酸味料を加えたリキュールやスピリッツではなく、あくまでも乙類企画で出していきたい。本格焼酎を気軽に楽しむというコンセプト、さらにはプリン体や糖質、香料がゼロという健康志向のニーズにも対応した商品にこだわりたい。今後も酒卸ならではの企画と新たなニーズに対応できる商品の開発に努めたい。

 そして、もうひとつの収益の大きな柱であるのが当社のエージェント洋酒だ。今期からスペインのカバ「Codorniu」(コドルニュー)、台湾のシングルモルト「カバランバー」の新規RTDの発売を6月、7月から開始した。家庭用、業務用ともに提案できるラインアップをさらに充実させていきたい。

 

【商品別売上(単体)】

 

 

 

合計:4951億7600万円(同6.5%減)

【チャネル別売上(単体)】

合計:4951億176億円(同6.5%減)