広島県に本部を置き、中国、四国、九州エリアで店舗展開するイズミ。商勢圏では人口減少、さらに業態の枠を超えた競争が激化するなか、新たな店づくり、品揃えにより競争力の強化を図っている。1兆円企業を目標に掲げる同社は、どのようにしてその目標を達成しようとしているのか。山西泰明社長に戦略を聞いた。
「いいものを安く」精肉部門の強化が成功
──2017年度(18年2月期)も終盤戦に入っていますが、上半期(3~8月)の業績をどう振り返りますか。
山西 上半期は営業収益3595億円(対前年同期比4.5%増)、営業利益171億円(同0.9%減)と増収減益でした。昨年は4月に発生した熊本地震のあとに特需がありましたから、今上半期はその反動もあり、既存店売上高は前年実績を割り込む結果となりました。次年度は巻き返そうと気を引き締めているところです。
──現在の経営環境をどのように認識していますか。
山西 非常に厳しいと感じています。当社が事業を展開する中国、四国、九州では、少子高齢化によって、全国水準よりも速いペースで人口減少が進行しています。小売企業間の競争も激化しており、なかでも食品小売市場では、食品スーパー(SM)に加え、ディスカウントストアやドラッグストアなどの存在感も増しています。さらに、こうしたリアル店舗だけでなく、「Amazon.co.jp(アマゾン)」や「楽天市場」といったEC(ネット通販)も脅威となるとみています。
──イズミは過去10年近く既存店を伸ばし続け、好業績を挙げてきました。
山西 「お客様のために尽くす」という行動指針のもと、購買頻度の高い商品は価格訴求する一方、当社が得意とするこだわり商品や高質商品により競合他社との差別化を図っています。ここ数年は、「いいものを安く」という方針に基づく政策によって成果をあげてきました。
たとえば、食品で強化したのが精肉部門です。絶対的な安さを追求するのではなく、高質商品を思い切った値頃価格で販売しています。牛、豚とも一頭買いすることで多様な部位を品揃えし、牛肉では最高ランクである5等級の国産和牛も扱っています。この取り組みによって、いいものを少量ずつ食べたいというシニア層を中心としたお客さまの支持を獲得し、4年前に13%前後だった食品における精肉部門の売上高構成比は18%台にまで拡大しています。鮮魚部門の売上高は維持したまま、精肉を伸ばせたことは大きな成果で、既存店の売上伸長に貢献してきました。
「ゆめタウン廿日市」の成功、三世代が楽しめるSCを拡大
──ショッピングセンター(SC)「ゆめタウン」では三世代をキーワードに打ち出しています。
山西 景気の見通しが不透明な状況にあって、購入代金を支払う人だけを想定した店では購買に限りがあります。ですから、子供がねだり、親が商品を選び、そしておじいちゃんやおばあちゃんがお金を出すといったように、三世代が一緒に来て楽しめるような品揃え、売場、テナントの構成を工夫することが重要になってきているのです。
14年に「ゆめタウン広島」(広島県広島市)を大幅にリニューアルしたとき、初めて三世代のお客さまに来ていただけるような店づくりにチャレンジしました。これがお客さまから大変好評で、客数、売上高が大きく伸び、確かな手応えを感じました。これを受け、「ゆめタウン筑紫野」(福岡県筑紫野市)をはじめ、売上高上位店を含む10店を改装してきました。
──三世代が楽しめる店づくりというのは具体的にはどんなことですか。
山西 たとえば、小学校入学を前にランドセルを買い求めに来られた家族連れをイメージするとわかりやすいでしょう。私もそうですが、孫のために購入代金を提供するだけでなく、一緒に店へ行き、息子夫婦、そして孫のうれしそうな表情を見ると幸せな気持ちになるものです。そうした楽しさを体験し、共有していただきたいのです。モノだけでなくコトの提供もめざすのが当社の店づくりです。
当初は、既存店の改装を通じてこうした店づくりに取り組んできましたが、新規出店でチャレンジしたのが15年6月に開業した「ゆめタウン廿日市」です。オープン後、お客さまからの反響は大きく、売上高、来店客数は今も伸長しています。
大手広告代理店が定期的に実施するアンケート調査によると、当社の店に対し「親しみやすい」「買物がしやすい」というイメージを持つ消費者が多いという結果が出ています。ほかのSC(ショッピングセンター)と比較してこの傾向は顕著に表れています。今後もお客さまの期待に応えられるように努力を続けたいと思います。
新型SC「レクト」を開業、年間2000のイベント企画
──今年4月、従来とは異なるスタイルのSC「レクト」(広島県広島市)をオープンしました。
山西 これまで当社のSCには「ゆめタウン」を冠してきましたが、まったく新しいSCを志向しようと、レクトという新ブランドで出しました。レクトはSCのメーンテーマである「Living(住)」、「Eating(食)」、「Culture(知)」と、「Town・Time(街・時)」の頭文字を組み合わせており、選ぶ楽しさを表す「SELECT」にもかけています。「第3の居場所(サードプレイス)」をコンセプトとし、新たなライフスタイルを積極的に提案することで、「毎日、行きたくなる。わざわざ行きたくなる」SCをめざしています。
メーンテーマのうち、「知」はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(東京都/増田宗昭社長、以下、CCC)の書店「広島T-SITE」、「食」はイズミの食品スーパー「youme食品館」、そして「住」はカインズ(埼玉県/土屋裕雅社長)の「カインズ広島LECT店」が担当しています。これら3つのキーテナントを中心に合計150の専門店を誘致しました。
ドミナント出店を進めていくと、どうしてもカニバリゼーション(共食い)が起きます。レクトを出すにあたって、まず考えたのは自社競合しない店です。新たな顧客層の獲得も大きな目標にしました。新しいスタイルのSCを出すことにより、これまで利用されてこなかったお客さまに来ていただこうと考えたのです。
──どのようにライフスタイルを提案していますか。
山西 レクトで力を入れるものの1つにイベントがあり、年間約2000もの企画を予定しています。たとえばCCCさんの「広島T-SITE」の店内はキッチンを備えており、そこで料理教室や「食」に関する催し物を開いています。それをきっかけに当社の「youme食品館」に足を運んでいただければと期待しています。またカインズさんでも、住まいに関するさまざまな催し物を行っています。各種のイベントを通じて、日常の生活に楽しさ、新たな発見を感じてもらえればと考えています。
──開業後、来店客の反応はいかがですか。
山西 連日多くのお客さまに来店していただいています。体験を通じた新たなライフスタイル提案は、リアル店舗が得意とするところですし、今後もこの取り組みを継続するとともに、実際の商品の購入へとつなげていく技術を磨いていきたいと考えています。
初の中期経営計画、営業利益率6%をめざす
──19年2月期を初年度とする3カ年の中期経営計画を発表しました。
山西 これまで当社は毎年、その事業年度の重点施策を確実にやりきるという経営方針であったため、中期経営計画を立てたことはありませんでした。しかし、複数年度にわたる課題解決や改革、そして中長期的な目標に向かって行動することの必要性を感じ、初めて中期経営計画を策定するに至りました。
当社は数年前から1兆円企業をめざすと公言してきましたが、それを達成する前段階として3カ年計画の最終年度である21年2月期に営業収益9000億円、営業利益率6%を達成する目標を掲げました。ほかにもROA(総資産利益率)9%超、ROE(自己資本利益率)13%以上など、目標となる経営指標を設定し、事業を推進していく方針です。こうした目標をクリアしたあと、23年2月期に営業収益1兆円をめざす考えですので、トータルでは5カ年にわたる計画となります。
流通業界はさらなる競争激化が予想されます。当社のDNAである「革新・挑戦・スピード」を生かし、営業収益1兆円を達成し、企業価値の向上を図りたいと考えています。
──どのようにして目標を達成する考えですか。
山西 イズミとゆめブランドの価値を高めることによって、「日本一の高質リージョナル総合スーパーを目指す」を経営ビジョンに掲げています。それを踏まえた成長戦略として3年間に40店舗を新規出店します。「ゆめタウン」のほか、当社のSMを中心とする近隣型SCも出します。さらにレクトでの成功事例や運営ノウハウを活用した新しい大型店舗の開発も検討します。これらの店舗を含めて年平均200億円超を投じる考えです。
──成長戦略では「M&A(合併・買収)の積極推進」も重要テーマとして掲げています。
山西 今後、少子高齢化による消費マーケットの縮小や後継者問題から経営を維持することが難しくなる中小のSMが増えると思われます。
そんななかで、志を同じくし経営をともにできる企業があればと考えています。中小のSM企業だけでなく、全国チェーンとの提携も想定しています。すでに有力企業が展開していた店舗を譲り受け、居抜き出店したケースもあり、こうした方法で店舗網を拡充していきたいと考えています。
リアル店舗の強みは接客、テクノロジーを積極活用へ
──小売業界では、GMSや百貨店の苦戦が続いています。
山西 苦戦のおもな原因は、品揃えや売場面積が標準化されていないことにあると考えています。店舗規模や品揃えを、地域のニーズに対して柔軟に応えられる長所はあるものの、SMのようにドミナント出店できないため、経費率が30%超と高コストにあるのが現状です。
その対策の1つとして、4~5年前からトヨタの改善手法を取り入れた業務改善に取り組んでいます。店舗の後方作業やオペレーションを効率化することによりコスト削減を図っています。効果は出ていますが、まだ道半ばです。やはり自動車の製造業と小売業では作業プロセスに違う面もあるため、トヨタの手法をうまく解釈しながら、魅力ある当社流のGMSを追求したいと考えています。
──ネット消費が拡大しています。どう対応しますか。
山西 重要なのは、リアル店舗ならではの店づくりを追求することだと思っています。品揃え、売場の工夫はもちろんですが、これから強化する必要があるのは接客でしょう。来店されたお客さまと最後に接するのがレジです。そこでどう対応するかは非常に重要です。そこで精算時にテクノロジーを活用して、お客さまの顔認証や購買履歴を組み合わせて接客をするといった、リアル店舗としての強みを追求できればと思っています。