ソフトブレーン・フィールド(東京都/木名瀬博社長)は、全国に約80万人の協力モニターを擁し、日本初のレシートによる購買証明付き・購買理由データベース「マルチプルID-POS購買理由データPoint of Buy(ポイント・オブ・バイ:以下、POBデータ)」を有している。月間1100万枚のレシートを収集し、リアル消費者購買データベースとしては国内最大級の規模となる(提携サイト含める)。
このPOBデータと協力モニター(以下、POB会員)へのアンケート調査を活用すれば、消費者から見た小売りチェーンの実態を明らかにすることができる。本連載では毎回、業界で関心の高いテーマを設定して独自調査を実施し、その結果をレポートする。
新型コロナウイルス感染拡大下では、感染防止の観点からまとめ買いニーズが高まり、食品スーパーの客数は減少。各社は客単価の増加によって業績を伸ばした。そうしたなか客数を伸ばし続けているチェーンが、埼玉・群馬を中心に店舗展開するベルク(埼玉県/原島一誠社長)だ。連載第4回目の今回は、店舗間競争が激化するなか、なぜベルクは客数を増やすことができるのか。その理由に迫った。すると、同社の巧みな販促策が明らかになったーーー。
ベルクの強さは「安い」
「ポイントやお得なサービス」
まずは、主な有力チェーンと比較した「ベルク」の強さについて調査した。図表1は、「ベルク」「ヤオコー」「オーケー」「ライフ」をメーン利用すると回答した人に、その理由を尋ねた結果をまとめたものだ。(複数回答)。
その結果、「ベルク」はほかの3チェーンと比較して、とくに以下の理由をあげる人が多かった。
・ポイントやお得なサービス(ベルク28.2%、参考:他3チェーン平均18.9%)
・安いから(ベルク25.6%、参考:ヤオコー9.6%)
ベルクのポイントプログラムは、現金払いの場合は税抜100円で1ポイント(pt)を付与、キャッシュレス決済払いの場合は同200円で1ptを提供し、500pt貯まると「500円分のベルクの買物券」と交換する仕組みで、一般的な食品スーパーよりもポイント付与率が高い。
さらに低価格を訴求する販促企画を積極的に実施しているのも特徴だ。毎日夕方16時以降から「夕市」を行うほか、「均一セール」「酒・紙製品ポイント3倍デー」などの企画を、それぞれ月に複数回実施。また「今月のおっ得!」と呼ぶ、購入するとポイントが増額になる商品を月替わりで用意している。そして、これらの企画をチラシのほか、スマホアプリやSNSなどを活用して宣伝する。
このようにベルクは、価格自体が低価格であることに加えて、独自のポイントプログラムや販促活動がさらにお得感をお客に与えており、これがベルクの強みになっていると考えれられる。
購入率が高いのは「青果」「畜産」部門
次に、ベルクが支持を得ている商品カテゴリーを調べた。図表2は、「ベルク」「イオン」「オーケー」「ヤオコー」の購入レシート全体のカテゴリー別レシート出現率(購入率)を表したものだ。
2020年の結果を購入率の高い順にみていこう。
まず、ベルクはほかの3チェーンと比較して、「農産」が57.4%と最も高く、3チェーンの平均42.3%を15.1ptも上回る。
「野菜の価格が安定して安い」「種類が豊富」「近隣農家の野菜が手に入る」など、野菜の価格・品質を評価する声が多くあがっており、ベルクが顧客を獲得しているのは青果部門の競争力の高さも大きな理由の1つと言えそうだ。
畜産部門を支える意外な商品
もう1つ注目したいのはベルクの「畜産」の購入率だ。2020年は33.6%で、イオン、ヤオコーよりも高く、精肉を強みとするオーケーの32.7%ともその差はわずかである。
この「畜産」をさらに品目別でみると、ベルクとオーケーはいずれも「豚肉」の購入率が高い点で共通している(ベルク37%、オーケー33%)。この結果から2社のように畜産部門で高い支持を得るためには、豚肉の品揃えや提案が重要な要素になっているとも考えられそうだ。
もう1つベルクの「畜産」の購入率が高い理由に、同カテゴリー内に含まれる「卵」(主にパック入り鶏卵)の存在がある。
ベルクでは、この「卵」の購入率が30%と豚肉に次いで高い。一般的に食品スーパーの「畜産」カテゴリー占める卵の購入率は2割程度であり、ベルクが突出していることがわかる。
購入個数と金額を伸ばす
巧みな「卵」の特売
実はこの「卵」は、ベルクの客数・客単価を伸ばす役割を担っている商材の1つでもある。
ベルクは、毎週日曜と水曜に、卵の特売を実施している。特徴的なのは、単に低価格で販売するのではなく、卵を除いて1000円以上購入した場合に、1家族につき1パック(10個入り)限定で、税抜99円で販売していることだ。定期的な来店を促し、さらに客単価も向上させる巧みな取り組みと言える。
この販促の効果はレシートに如実に表れている。図表3は2021年2月~4月における、「ベルク」のレシート1枚あたり(1回の買物あたり)の曜日別平均購入個数と金額を表したものだ。
結果を見ると、卵の特売を実施している水曜と日曜に購入個数と金額を伸ばすことに成功していることがわかる。
とくに、通常では客足が落ち込みやすい「水曜」についても、平均購入金額が1277円、購入個数が7.6個となり、週末の「土曜」(それぞれ1235円、6.6個)よりも高い結果となっている。
若年層、高齢者の
双方の利用を獲得!
最後にコロナ禍での利用者層の変化について見ていこう。図表4はコロナ感染拡大前の2019年と、2020年の4チェーンの年代別利用者(男女計)をまとめたものだ。
ベルクの客層の変化に注目すると、「~30代」が20.9%→23.6%(2.7pt増)、「60代以上」が11.8%→12.9%(1.1pt増)となり、若年層とシニア層の双方の利用を伸ばすことができている。
前述した販促策においてベルクは、シニア層が根強く利用するチラシを打つ一方で、最近では「乃木坂46」や「日向坂46」「SKE48」などの人気アイドルグループとコラボレーションした販促策を展開して話題を集めるなど、若年層を開拓する施策にも注力している。それぞれの世代に合ったアプローチが幅広い層の来店を創出していると想定され、こうした点もベルクの客数が伸び続ける要因の1つになっていると言えそうだ。
【調査概要】
調査対象:全国のPOB会員アンケートモニター 3692人
調査日時:2021年5月14日~16日
調査方法:Web媒体「レシートで貯める」インターネットリサーチ
調査機関:ソフトブレーン・フィールド
【データ詳細】
【執筆者】
山室直経(やまむろ・なおつね)
神奈川大学経営工学科卒業。パソコンメーカーを経て、米リサーチ会社にてコンサルティング業務を学ぶ。その後、大手家電量販店子会社のパソコンメーカーで経営企画室に従事。計数管理とERP導入による業務改善などのプロジェクトを経験した後、2012年3月ソフトブレーン・フィールド入社、消費者購買データ事業の新規立ち上げを行う。
現在はデータを軸とした事業開発と当社の基幹システムのDX戦略を担う