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売らずにコト消費の場づくりへシフトするマルイの戦略とは フィンテックが収益の柱へ

丸井グループ(東京都/青井浩社長)は2026年3月期を最終年度とする5か年の中期経営計画を発表した。コロナ禍で小売とくに都心部に人を集客することで売上を上げるビジネスが大きな影響を受けるなか、丸井グループはフィンテックを軸としたまったく新しいビジネスモデルづくりに邁進、百貨店業態と比べたコロナ禍の影響を最小限に抑えた。今後さらに激変する同社のビジネスモデルの行方をまとめた。

減益も影響は最小限

 丸井グループは5月に2021年3月期の決算を発表。売上収益は2208億3200万円(前年同期比10.8%減)、営業利益は153億1000万円(63.5%減)、経常利益は146億700万円(63.9%減)、親会社に帰属する当期利益23億2700万円(90.8%減)だった。

 グループの総取扱高は2兆9192億円(1%増)。第4四半期に利息返還損失引当金繰入額を194億円追加計上したことなどにより、営業利益は153億1000万円(63.5%減)となり12期ぶりの減益。休業した店舗の固定費については、臨時性のある費用と判断し73億円を販管費などから特別損失へ振替えた。

 また、雇用調整助成金収入を営業外収益に6億円、特別利益に9億円を計上。さらに特別損失に上記の固定費などを「感染症関連費用」として77億円計上したことなどにより、当期利益は23億円(91%減)となり、10期ぶりの減益となった。

 減益は回避出来なかったが、百貨店業態と一線を画す戦略で、コロナ禍でも致命的な影響を受けなかった同社。コロナ前から消化仕入れ型からテナントの定期借家に基づく賃料収入へのシフトを進め、フィンテック事業でもクレジットカードによる家賃支払いサービスを強化するなど、環境変化に左右されづらいビジネスモデルへの切り替えを積極推進してきたことが、キズを浅くした格好だ。

5年計画で独自のビジネスモデルをさらに追求

 もっとも、そのルーツを辿れば、家具の割賦販売に行く着く同社。その遺伝子には貸付けから利益を得る才覚が植えこまれており、そもそも百貨店と同列で語ること自体ナンセンスといっていいのかもしれない。

 それでも2021年3月期は営業利益が12期ぶりに減益。小売事業は2期連続、フィンテック事業についても9期ぶりの減益となった。

 決算発表の場で公開された中期経営計画(中計)では、変化に強い独自のビジネスモデルをさらに追求。独自の進化を遂げた“百貨店”からの完全変態を遂げ、5年後の26年3月期にエポスカードの取扱高5.3兆円、フィンテック事業での営業利益530億円を見据えることなどが明かされた(21年3月期の取扱高2.6兆円、フィンテック事業営業利益203億円)。

 同社社長の青井浩氏が2022年3月期~2026年3月期の5ヵ年計画として掲げた新中計では、「店舗とフィンテックを通じてオンラインとオフラインを融合するプラットフォーマーを目指す」「将来世代との共創を通じて、社会課題の解決と収益を両立」「新規事業、共創投資への無形投資を進めることで、知識創造型の企業に進化」といった言葉が述べられた。

マルイ流のオンーオフラインの融合の狙い

 「オンラインとオフラインを融合するプラットフォーマーをめざす」。これは、単にオンラインの店舗をオフラインに進出させるという意味でなく、「プラットフォーマーをめざす」ということが肝となる。

 それはつまり、ECを展開する企業に対し、よりサービスを知ってもらうことを主軸にした体験を軸としたリアル空間を提供し、互いの企業価値を高めていくということだ。

 実際、オンラインで多くの利用者を持つメルカリやSparty、FABRIC TOKYOらとタッグを組み、リアルの場でそのブランド理解を深めるなど、さらなる成長への顧客との接点づくりに貢献。マルイ各店舗の立地の良さと相まって、まさに「共創」の言葉通り、互いのメリットを活かしながら、成果を生み出している。

 さらにオンラインとオフラインをイベントでつなぐことにも力を入れ、アニメ事業や新規事業のイベントを積極開催。「売らない百貨店」でありながら、「人が来る百貨店」として、さまざまなイベントを仕掛け、その存在感を増している。

「共創」で得る最大の果実とは

 「共創」という側面では、同社にとって賃料収入があるものの、その最大の狙いはフィンテック事業への波及効果だ。

 かつては人気アパレルブランドを好立地で販売し、収入が潤沢でない若者にクレジットカードをその場で発行する戦略で一時代を築いた同社。時代は大きく変わり、いまやそもそも若者の来店率自体が低下している。この2年はコロナによる営業自粛もダメージとなった。

 オンライン消費の浸透で購買スタイルも変化し、同社にとってオフラインでのカード加入が喫緊の課題となる中、「イベント集客」は強力なフックにもなる。同社のエポスカードは、エヴァンゲリオン、ゴジラなどキャラクターを活用したものが数種用意され、一般カードの3~15倍もの利用額を誇る。

 イベントの開催は、そうしたカード会員を来店させる動機付けにもなる。

 これら施策により、新規カード会員の増加を推進する一方で、今年4月、カード自体も非接触型決済に対応させるなど機能を向上。5年後に取扱高ベースで2倍以上をめざす体制を着々と整備している。

図表1 エポスカード取扱高の見通し

百貨店の異端児が突き進む先にあるもの

 フィンテック事業が同社の収益の軸として強固になる中、同社の実態にフォーカスすれば、もはや「百貨店」の面影はほとんどないといえる。実質は、好立地の箱を提供する集客力のある空間をキラーコンテンツとするマーケティング支援型のフィンテック企業といってもいいのかもしれない。

 百貨店にとって、好立地の立派な店舗は強力な資産に違いない。だが、購買スタイルの変化や買い物に対する意識変化が進む中にあっては、立地の良さを小売のためと考えることが必ずしも最適解とはいえない。

 人が集まりやすい場所に「空間」を所有していることにフォーカスし、その利用価値を最大化する。フィンテック事業をその横串とし、多様な企業と共創しながら、新しい価値を生み出していく――。同社が突き進むその先にある姿は、百貨店が生き残るためのひとつの解といえそうだが、参考にするならその前に業界の常識を一度リセットする必要がありそうだ。