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「100年視野に働き甲斐ある会社めざす」5期連続で増収増益の平和堂=夏原平和社長

滋賀県を拠点に、近畿、北陸、東海地方で店舗展開する平和堂。商勢圏の競争は激化するが「全員参加型経営」をめざした施策が徐々に実を結び、ここ数年、増収増益の好調を続ける。2017年には創業60周年を迎え、さらに100周年を視野に、一体感のある企業風土の醸成にも取り組む。今後の事業展望について、夏原平和社長に聞いた。

「全員参加型経営」を志向

夏原 平和 なつはら・ひらかず 1944年9月15日、滋賀県彦根市生まれ。 68年、同志社大学法学部卒業、平和堂入社。
70年、取締役。75年専務取締役。
83年、取締役副社長。
89年、代表取締役社長。

──ここ数年、平和堂の業績は順調に推移しています。

夏平 そうですね。2016年2月期第3四半期の連結経営成績は、営業収益3206億500万円(対前年同期比4.9%増)、営業利益102億7700万円(同7.8%増)、経常利益108億8600万円(同7.9%増)でした。

 その後も同様の水準で推移、通期の公表値は営業収益4410億円(同5.2%増)、営業利益154億円(同9.0%増)、経常利益159億円(同3.5%増)で、いずれも過去最高となる見込みです。

──達成すれば12年2月期以来、5期連続の増収増益となりますが、上り調子を続けられる要因をどう分析しますか。

夏平 当社が商売の方針として重視しているのは、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」を要素とする近江商人の商売の心得「三方よし」です。当社もこれにならい「お客様の満足」「従業員の幸せ」「地域への貢献」を重要な方針としています。

 そのため数年来、力を入れてきたのは正社員のほか、パートタイマーも含む「全員参加型経営」です。経営に参加するというと難しく聞こえますが、小売業として、お客さまに満足していただける品揃えや売場づくりを、皆で考えるということです。そういった施策を10年頃から継続して行っており、徐々に成果として表れてきたのではないかと感じています。

──確かに最近の店舗は、以前に比べ商品や売場が少しずつ変わってきているように思います。

夏平 当社の商勢圏は競合する有力な食品スーパー(SM)が増えるほか、ディスカウントストア(DS)、ドラッグストア、コンビニエンスストアといった業態を超えた戦いが激しさを増しています。これに対し、単に価格面で対抗するのではなく、楽しさや驚きを感じられる店づくりを実践しています。当社の店舗は「はずむ心のお買い物♪」をキャッチフレーズとしていますが、それを具現化する魅力的な商品、サービス、売場を従業員が全員で考え、工夫しているのです。

地場野菜が対前期比200%超増

「全員参加型経営」をめざし、平和堂が力を入れる「ピカピカ実現活動」。年2回、優秀 事例を発表する大会を開催している
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──ところで、「全員参加型経営」を実践するための施策とはどのようなものでしょうか。

夏平 「ピカピカ実現活動」というプログラムで、10年上期にスタートしました。店舗の部門単位のチームが売場や商品、サービスを改善するため、目標を立て、独自の取り組みを行う内容です。11年度からは表彰制度を導入、優秀事例を発表する大会を年2回、開催しています。

 昨年10月に開いた上期全社発表会で、最優秀発表賞の第1位となったのは、「フレンドマート安土店」の「ありがとうといわれ隊」による、「店舗の魅力UPで、お客様をワクワクさせる店づくり」をテーマにした発表でした。子育て世代のお客さまの数と足元商圏のシェアアップ、上期のお客さまの数40万人を目標に、さまざまな取り組みを行いました。

 子育て世代に対しては、お客さま参加型イベントとして父の日にお父さんの似顔絵を募集しました。また、JAと連携した「とうもろこし収穫体験」を実施したりしています。一方、お客さまの満足度を上げるための取り組みは、独自の感謝祭を開催するほか、カブトムシやクワガタムシをプレゼントするといった内容です。これらにより、30歳代のお客さまの数は対前期比7.1%増、同じく30歳代の売上高は同18.4%増、上期のお客さまの数は同5.5%増となりました。1次、2次商圏シェアとも昨年比で5ポイント近く拡大しました。

 第2位は、「フレンドマート・G 宇治市役所前店」の「ワクワク・ドキドキが止まらない!! 楽しさあふれる花売場、地場野菜コーナーに!!」で、地場野菜コーナーや花鉢の売上高拡大をめざしました。

 地場野菜では品質や大きさに特徴があるタケノコやキャベツのほか、「白ゴーヤ」など珍しい商品も取り扱い、特徴や食べ方をPOPで訴求しました。花鉢は、母の日のコーナーを特設したり、均一セールを行ったりしました。これにより、地場野菜は、対前期比216.9%増、花鉢の売上高は対前期比23.9%増、SM営業部でトップの成績を残しました。

──発表会場の雰囲気はどのようなものなのですか?

夏平 各チームともユニフォームや発表時の演出も工夫しており、会場は大いに盛り上がります。発表者だけでなく各店からの応援者も多く、毎回、1000人以上の参加者があります。職場の結束力が強まるという副産物的な効果も生まれています。

 

大会には毎回、1000人以上が参加。各店からの応援者も多く、会場は大いなる盛り上がりを見せる

 

ハレの日に期待される店

──店づくりが変化し始めたのはいつ頃からですか。

夏平 12年8月の「フレンドマート大津京店」(滋賀県大津市)、13年8月の「平和堂グリーンプラザ店」(愛知県名古屋市)あたりからです。新店のたびに、それまでの取り組みをさらに進化させた品揃え、売場づくりを行うといった、好循環が生まれるようになりました。

 従来の店から一皮むけたなと実感したのは14年4月、大阪市内にオープンした近隣型ショッピングセンターの「フレンドタウン深江橋」です。核店舗には直営のSM「フレンドマート深江橋店」が入っているほか、ファッションをはじめとする物販、飲食、サービス関連のテナントが多数入る商業施設です。

──深江橋店はどのような店だったのですか。

夏平 SMでは青果部門で地場産商品を充実させるほか、個食や簡便商品を多数品揃えしました。カラーコントロールにも配慮しながら、高質な雰囲気を演出。鮮魚では対面コーナーを導入し、直送鮮魚を扱うなど鮮度を追求。担当者が常に売場に立ち、料理提案をするなど売り方も工夫しました。総菜は、素材やできたてにこだわった商品を拡大、都市部の即食ニーズに応えました。

 実はこの深江橋店は、大通りから少し入った場所にある目立たない立地で、最初は苦戦しました。売場面積は1983㎡と当社のSMとしては大型で、しばらくはロスも多く出していたのですが、店長が、粘り強く当初の売場を維持したことで徐々にお客さまからの支持を獲得、売上も順調に伸びた経緯があります。

──昨年あたりの新店からは、次々と新しいチャレンジも見受けられます。昨年7月、石川県金沢市に開業した「アルプラフーズマーケット大河端店」では、従来にないコーナーを積極的に展開していました。

夏平 大河端店は、商圏内に有力な競合店が多く、とくにDS型のSMも点在する流通激戦区にあります。これに対し、当社では価値訴求型の商品を充実させたほか、新たな売場も積極的に取り入れ、差異化を図りました。

 青果部門では対面コーナーを取り入れ、カットフルーツのほか、フレッシュジュースを提供。総菜部門では、できたてのポップコーンを販売する「ポップコーンファクトリー」を導入しました。

 とくに力を入れたのは酒類売場です。約100坪を確保し、石川県産の地酒やワインを充実させました。

 競争の激しい場所だけに、今もノウハウ構築に向け模索中ですが、年末、お正月はかなり売れました。鮮魚、精肉といった生鮮食品のほか、もっとも動きがあったのは日本酒で、予算を大幅に超える売上高で推移しました。

──平和堂の特徴を地道に伝えることで、ハレの日に期待される店として認知されたのですね。

夏平 店をよくするため、オープン後も皆でアイデアを出し合い改善に努めています。さらに支持を得られる店になるよう、全員参加の店舗運営をめざしています。

 


左: 年々、品揃え、店づくりの手法を進化させている。14年4月オープンの「フレンドタウン深江橋」(大阪府大阪市)は、夏原社長いわく「一皮むけた店舗」だ
右: 新店のたびに新たな売場づくりにチャレンジしている。15年7月オープンの「アルプラフーズマーケット大河端」には、100坪の酒類売場を設け、地酒やワインを充実させた

 

改装で業績が大幅伸長

──本拠の近畿圏以外の出店が増えていますが、今後の出店政策を教えてください。

夏平 重点エリアと位置付けているのは、関西では大阪府と京都府の京阪エリア、東海では愛知県です。いずれも競争は激しいのですが、当社の出店余地はまだ多いと見ています。

──愛知県以東も視野に入れているのでしょうか。

夏平 今は考えていません。愛知県といっても広く、当面は県内の各地でドミナント出店を進める方針です。昨年は、新たに春日井市へ進出、5月に「平和堂春日井宮町店」、11月に「平和堂春日井庄名店」の2店をオープンしました。12月には、名古屋市内に「平和堂ビバモール名古屋南店」が開業、これで愛知県内の店舗は16店、うち名古屋市内は5店となりました。

──新店の一方、近年は既存店改装にも力を入れていますね。

夏平 マーケットや競争環境は常に変化しており、全店舗のなかで優先順位をつけ、順次、計画を進めています。原則として5年経過すれば「小改装」、10年で「大改装」する方針です。16年2月度は13店のリニューアルを手掛けましたが、今後は年間20店を目標に、新店で成功した要素を既存店へも波及させ、競争力強化を図っていきます。

──リニューアルすれば業績はかなり改善するものですか。

夏平 古い店のなかには、大きく売上高を伸ばすケースも珍しくありません。最近では1995年オープンの「平和堂うぬま店」(岐阜県各務原市)を2015年10月に改装オープンしました。青果部門では、バナナやりんごといった特定の品種の品揃えを充実させる「マルシェ」コーナーを導入したほか、鮮魚部門では、産直鮮魚を充実、また「魚屋の寿司」を新たに販売するなどしました。近くに競合店が多い立地ですが、売上高は対前期比25~30%増と好調に推移しています。

 同様に「平和堂和わ邇に店」(滋賀県大津市)も、同年11月の改装後は同10~15%増となっています。他の店も、改装後は2桁以上の伸長率を示す店も多く、手応えを感じています。

──最新の品揃え、売場づくりにより競争力が強化されるのですね。

夏平 新しい要素を取り入れるだけでは不十分です。やはり店で働く従業員の意欲や姿勢も変化しなければ成果に結びつかず、ここでも「ピカピカ実現活動」は有効です。他店の成功事例を見聞きすることにより、ベテラン従業員も意識が変わるようです。今後も、既存店改装に加え、従業員の意欲を喚起する取り組みを続けることで、店舗網を強化する計画です。

 

左: 愛知県春日井市の2号店となる「平和堂春日井庄名店」。青果部門では、産地にこだわった商品を充実させるほか、カラーコントロールも意識し、高質な買物空間をつくっている
右: 春日井庄名店の鮮魚部門には対面コーナーを導入、丸魚を充実させ、にぎわい感のある売場をつくっている

トータルで提案できるGMS

──総合スーパー(GMS)が不振といわれています。平和堂は大型店「アル・プラザ」はじめ多くのGMSを展開していますが、活性化のための考え方、施策を教えてください。

夏平 かつて当社はGMSを中心に店舗網を広げましたが、現在はSMを主力とする出店政策に転換しています。とはいえ、16年2月期第3四半期末時点では、147店のうち65店がGMSです。現在、GMS活性化に向け実施しているのは、会員カード「HOPカード」を通じて得られた販売データの活用です。かつてはどの店もほぼ同じ品揃えをしていましたが、データ分析に基づきマーケットやお客さまの買い物動向に合わせた商品構成へと切り替えようとしています。接客にも力を入れ、付加価値商品を伝える取り組みも強化しています。例えば布団は、社員やパートタイマーがメーカーの工場を見学するなどし、商品知識を十分に持ったうえでお客さまと接することで、高質な商品がよく売れている店もあります。

 今後、GMSのモデル店づくりも計画しています。「アル・プラザ」タイプの店舗で衣料品や住居関連売場を大きく見直し、新たな品揃え、売り方にチャレンジします。なんとか結果に結びつけ、既存店にも波及できればと考えています。

──GMSは改善すべき点ばかりではなく、独自の魅力、競争力もありそうです。

夏平 その通りです。たとえば、1店舗当たりの食品の売上をみますと、SMは最大でも30億円ほどですが、GMSの場合は40億~50億円を売る店もあります。今年の節分では恵方巻の販売が1万本を超えたのは4店ありましたが、いずれもGMSの「アル・プラザ」でした。食品だけでなく、衣料や住居関連商品も扱っているため、それらをトータルで提案できるのがGMSの強みです。いずれにせよ食品で集客したお客さまにいかに非食品の売場へ立ち寄ってもらえるようにするかが大きなテーマです。

宿泊施設を備える新本部

──さて、平和堂の創業は1957年で、来年には還暦の60周年を迎えます。

夏平 57年3月1日、滋賀県の城下町、彦根市で「靴とカバンの店・平和堂」として創業、来年は記念すべき年となります。実は、昨年1月、さらなる将来を見越し、「100年企業」をめざす方針を発表、新たな取り組みをスタートさせています。その一環で制定したのは、「平和堂グループ憲章」です。具体的には「全従業員の物心両面の幸福(しあわせ)を追求するとともに、お客さまと地域社会に貢献しつづける企業となる」というものです。

 社員にとり、会社は人生の時間をもっとも多くかける場所で、皆、人生と生活の質を向上させようと努力しています。これを受け、当社では社員の「物心両面の幸福」の追求が大切だと考え、昨年は人事制度を見直したほか、人間力を磨く勉強会の開催、改装時の店舗後方施設(社員食堂、トイレ)の改修などを実施しました。

──新本部の建設も進んでいます。

夏平 年内には完成、来年3月1日の創業記念日までには、本部機能をすべて移転する計画です。実はこの事業は、60周年だけでなくさらなる将来も視野に入れています。計画をスタートさせたのは2014年ですが、その年に新卒入社した社員が、定年の65歳となる2057年、当社は100周年を迎えます。その時も、働き甲斐のある、健全な会社であるための象徴という思いも新本部に込めています。新本部は、50年以上の耐久性を持つ3階建て施設で、他部門と情報共有しやすいよう1フロアを広くとりました。さらに新本部には、「100年企業」をめざすため、従来にない機能も付加します。そのひとつは研修センターで、従業員教育、各種会議も開きます。

 宿泊施設を併設するのも、新本部の大きな特徴のひとつ。ツインルームを17室備え、一度に30人以上が泊まれます。会議の後、ゆっくりとコミュニケーションを図る場があることで、よりお互いを理解できるようにもなるはずです。「100年企業」になるためには、何より社員が一体感を持ち仕事をすることが大事だと考えているのです。

──創業100周年を視野に、多くの取り組み、プロジェクトが進行しています。

夏平 14年12月には「経営者育成塾」も開講しました。私が塾長となり、「会社の理念」「創業者の思い」を伝えるほか、外部講師を招き、「先哲に学ぶ生き方」をテーマに講演してもらうなど、次代の平和堂を担う人材を育成しようとしています。流通業界の競争は激化していますが、常に長期的な視点を持ち、全従業員が働き甲斐を持てる企業でありつづけられるよう、今後も努力を続けていきます。