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創業50周年に向け、中期経営計画をスタート=フジ 尾崎英雄 社長

顧客に近づき、多様な事業で市場を深耕する

四国・中国エリアで事業を展開するフジ(愛媛県)は、2016年2月期を初年度とする3カ年の「中期経営計画」をスタートさせた。同社の商勢圏において人口減少・少子高齢化が進行するなか、「中四国くらし密着ドミナント」を掲げ、多様な事業でマーケットを深耕する考えだ。今後の成長戦略を尾崎英雄社長に聞いた。

生鮮食品・総菜 上期から好調続く

フジ 代表取締役社長
尾崎英雄(おざき・ひでお)
1951年8月生まれ、64歳。76年フジ入社。2001年取締役四国開発部長。03年取締役執行役員開発担当、05年取締役常務執行役員フジグラン事業本部長。06年5月代表取締役専務執行役員店舗運営事業本部長を経て、06年7月より現職

──2016年2月期も後半に入りました。上期(3?8月)決算では営業収益1581億100万円(対前期比1.7%増)、営業利益33億3000万円(同56.8%増)と好調でした。

尾崎 上期に引き続いて下期も好調に推移しています。昨年4月の消費税率引き上げから1年半以上が経過したことで「痛税感」も和らぎ、消費がかなり戻ってきたという感触を持っています。好調を牽引しているのは食品で、なかでも総菜の伸びが顕著です。青果・鮮魚・精肉の生鮮3品で、半調理品など加工度を上げた商品も好調です。低迷していた加工食品は少し上向いてきましたが、目標を超えるというのは難しい状況です。

 一方、衣料品や住居関連品は依然として厳しい状況が続いています。とくに衣料品は、新たな商品の提案に力を入れていますが、まったく新しい商品を探してくるのは難しい。そこで、近年は着回しが利くベーシックな商品や実用衣料のウエートを高めた商品構成にしています。ベビー関連の商品は、少子化が進行していても、品揃えを強化するとよく売れます。衣料品は、需要を見ながら品揃えにメリハリをつける工夫をしています。

──15年度から、3カ年の新しい中期経営計画をスタートさせました。ポイントは何ですか。

尾崎 中期経営計画の最終年度となる18年2月期に、当社は創業50周年を迎えます。そのときに、「将来を楽しみにされる会社」にすることが目標です。

 当社の経営ビジョンは「中四国くらし密着ドミナント」です。中期経営計画では「成長し続ける企業へ 50周年、さらに未来へ」をテーマに掲げ、創業100年も視野に入れた事業展開を考えています。基本戦略に据えるのは、「『フジブランド』による価値創造と既存事業の再構築」「中四国におけるドミナント深耕のための事業拡大」「コスト構造改革と人と組織の活力化による経営基盤の強化」の3つです。

──具体的な数値目標を教えてください。

尾崎 最終年度の18年2月期の計画は、営業収益3260億円(15年2月期比4.5%増)、営業利益93億円(同74.9%増)、経常利益100億円(同67.9%増)です。消費税率10%への再増税が17年4月に控えています。来年、再来年と着実に業績を上げていきたいと考えています。

出店は大型SCではなくSM・NSCが中心

──どのようにして目標を達成しますか。

尾崎 これまでのビジネスの延長線上に目標達成はないと考えています。当社は、総合スーパー(GMS)を展開していますが、リストラクチャリング(事業の再構築)に取り組み、利益を確保したいと考えています。

──先ごろ、大手GMSが店舗を閉鎖することを発表しました。店舗閉鎖も考えているのですか。

尾崎 現段階では考えていません。小売業は生活を支えるビジネスであり、赤字を理由に安易に「やめます」とは言いにくい。あらゆる努力をすることで利益を出したいと思っていますし、最低でも損益トントン、本部費用をまかなえるくらいには回復させたいと考えています。

──GMS再構築のために具体的には、どのような手を打ちますか。

尾崎 衣料品を中心に、お客さまのニーズへ十分応えられていない商品については専門店に入ってもらい、直営部分を縮小しながら、全体の売場を再構築します。これまで、テコ入れしていない店舗は総じて対前年比10%減と苦戦していますが、改装により活性化した店舗は計画どおりの営業成績をあげています。

 昨年7月には、大規模ショッピングセンター(SC)の旗艦店「エミフルMASAKI」(愛媛県伊予郡松前町)をリニューアルしました。専門店は全体の8割にあたる約160店をテコ入れしたほか、約60店を入れ替え、話題性の高いショップも数多く誘致しました。改装オープン後、専門店は堅調に推移しています。

──今後の出店についてはどのように考えていますか。

尾崎 食品スーパー(SM)、もしくはSMを核店舗とするNSC(近隣型ショッピングセンター)を中心に出店を進めます。われわれのSMの標準フォーマットは、売場面積500坪ですが、重点エリアとする愛媛県松山市や広島市を中心とする都市部では、300坪以下の小型店も出していきたいと考えています。

──大型SCは出店しますか。

尾崎 それはありません。大きな集客装置をつくり、遠方から来ていただくというビジネスで成長をめざすのは難しい時代です。当社が事業を展開する、高齢化、人口減少が進むエリアでは、むしろお客さまに近づき、寄り添いながら暮らしを支えるビジネスに徹する必要があります。ですから、日々の「食」を提供するSMを中心に展開する考えです。15年度は、4月に「フジ三島店」、7月に「フジ八幡浜店」をオープンしました。いずれも、既存店から建て替えたSMで、高齢者にも配慮した店づくりをしており、計画どおりに好調に推移しています。

今年5月から移動販売を開始

──「お客さまに近づく」というのは、SMを積極出店するということですか。

尾崎 それだけではありません。商圏人口が十分でなかったり、適地が見つからなかったりといった場合、われわれのほうからお客さまに近づいていくことを考えています。今年5月11日から、移動SM「おまかせくん」をスタートしました。本部に隣接する「フジグラン松山」を拠点に、食品をはじめ生活に必要な商品をお届けする移動販売です。

 松山市の伊台地区、道後地区、湯の山地区、五明地区を、現在2台の専用車両が週2回訪問しています。冷蔵設備を整え、青果・鮮魚・精肉といった生鮮食品も販売しています。購入商品1個につき、出張販売手数料は10円をいただいています。1車両当たりの品揃えは約350アイテムで、弁当など別注にも応えています。今後、さらにもう1台を増やして、訪問エリアを拡大する予定です。

──移動販売は松山市以外での展開も計画していますか。

尾崎 まずは、松山エリアで採算ベースに乗せたうえで、ほかのエリアにも広げていければと考えています。ただし、このサービスの根本にあるのは、家の近くに店がなく、食品や日用雑貨の購入が困難ないわゆる「買物弱者」への対応です。すべてのエリアで利益を上げようとするのではなく、全体として採算に合わせるという考えで買物弱者をサポートしていきたいと思っています。

──移動販売のほか、「フジカタログ注文サービス『おまかせJP便』」も提供しています。

尾崎 日本郵便四国支社との提携により行っているサービスです。会員が自宅の郵便受箱など指定の場所に注文書を入れておくと、郵便配達員がそれを回収して、近くの店舗から商品を届けるというものです。これも買物弱者への対応策の1つで、12年10月から徳島県でスタートしました。12年11月に高知県、翌13年5月には香川県、14年9月には愛媛県でもサービスを開始しています。配達できないエリアもありますが、徐々に広げているところです。

 カタログ注文サービスだけでなく、ネットスーパーの「おまかせくん」にも力を入れています。生鮮食品を含む食品、日用品など幅広く扱っており、利用者は確実に増えています。今年2月からは、グループのドラッグストア、レデイ薬局(愛媛県/三橋信也社長)との連携により、医薬品の提供も可能になりました。

 こうした店舗以外のサービスも充実させ、各地域の暮らしを支える役割を果たしていきたいと思っています。

ユニー、イズミヤとの3社協業は変わらず

──流通業界では合従連衡の動きが活発化しています。イズミヤ(大阪府/四條晴也社長)は昨年、エイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府/鈴木篤社長)傘下となり、ユニーグループ・ホールディングス(愛知県/佐古則男社長)はファミリーマート(東京都/中山勇社長)との経営統合に向けた話し合いを進めています。ユニー、イズミヤ、フジの3社の提携関係に変化はありますか。

尾崎 担当者レベルでは、今のところ混乱はなく、従来どおりの活動をしています。ユニー、イズミヤ、フジに加え、サークルKサンクスで販売するプライベートブランド(PB)「スタイルワン」「プライムワン」は、アイテム数を増やしながら品揃えを強化しているところです。今後も同様の活動を続ける考えで、PBの共同開発以外にも、人事、テナント、建設などの分野で情報交換を行っており、これをコスト削減という相乗効果につなげていきたいと考えています。

 われわれを取り巻く経営環境は急速に変化しており、3社の協業はいずれ曲がり角を迎える可能性もないわけではありません。イズミヤさん、ユニーさんは実際に大きな決断をされたわけですし、今後、何が起こるかは誰も予想がつかないというのが本当のところです。ですから、あらゆる事態を想定した準備だけはしておく必要があります。

──昨年、愛媛県のSMから事業を譲り受けしました。

尾崎 昨年9月から、地元のSM企業、エービーシーさんの5店舗を、当社グループのフジマート四国(愛媛県/永井信章社長)の店舗として営業しています。今後、このようなケースが増えることも十分に考えられます。ただ、傘下に収めた企業を、フジの“色”に染めてしまうのは本意ではありません。SMというビジネスは、地域のお客さまに支えられて成り立つ事業ですから、M&A(合併・買収)は相手企業のよさを残したうえで進めていければと思います。

──SM以外では、フジグループのドラッグストア企業、レデイ薬局(愛媛県/三橋信也社長)に対し、ツルハホールディングス(北海道/堀川政司社長)と共同でTOB(株式公開買い付け)を実施しました。

尾崎 15年2月期、レディ薬局の売上高は約500億円(単体)で、この規模では将来生き残っていくのが難しいとの判断です。そこで資本を入れてもらい、ツルハさんの店づくりのもと事業拡大します。12月から新体制がスタートする運びです。

おいしい食べ方を積極的に提案

──ここ数年、「エフ・マルシェ」を冠する店舗を出店してきました。

尾崎 12年11月に「エフ・マルシェ古川店」(愛媛県松山市)、14年4月には「瀬戸内海響市場 エフ・マルシェ」(同)をオープンしました。前者は、おもに青果物、後者は海産物を扱う、生鮮食品に特化したSMの新フォーマットです。地域の産業やお客さまと、より密接に関わりながら地産地消・地域交流を促進することが目的で、生産者や産地と連携、鮮度の高い商品を提供しているのが特徴です。

 現在2店舗を営業していますが、同様の店を増やす計画はありません。すでに生産者とのつながりができてきましたので、そのノウハウを生かし、今後はSMの店内に1つのコーナーとして組み込みたいと考えています。

──産地との連携を強めた生鮮食品は、他店との差別化策にもなりますね。

尾崎 とくに当社は、中・四国エリアで事業展開するリージョナル・チェーンですから、愛媛県の商品を広島県で販売する、あるいはその逆といったように、各地の「食」を相互に紹介できます。単に珍しい商品を販売するというだけでなく、食文化を広げられるのが当社の強みです。これにより、お客さまの満足度を上げて、結果的に他社との差別化につなげていきたいと考えています。

 中期経営計画では、SM事業のビジョンとして「食生活提案型SM」を掲げ、おいしい食べ方や楽しい場面をお客さまに想起してもらえるような売り方をめざしています。

 じつは最近、夏に浴衣がよく売れるのですが、調べると各地で地域の祭りを復活させる動きがあることがわかりました。つまり、生活でそういう場面があるからニーズが生まれる。「食」についても、積極的にライフスタイルを提案することで、お客さまからの支持を獲得したいと考えています。