メニュー

ビジネスモデルを根本的に変える=西友兼ウォルマートジャパンCEO

西友(東京都)の業績が好調だ。同社によると、2014年度の既存店売上高は対前年度比4.3%増、営業利益は同25%増で、6年連続増収増益を達成した。店舗だけでなく、EC(ネット通販)・ネットスーパーの「SEIYUドットコム」も好調で、売上高を同53%増と大きく伸ばした。業績好調の要因と成長戦略をスティーブ・デイカスCEO(最高経営責任者)に聞いた。

6年連続増収増益 4つの重点戦略

──2014年度を振り返っていかがでしたか。

西友CEO兼ウォルマート・ジャパン・ホールディングスCEO スティーブ・デイカス Steve Dacus 1960年生まれ。サンディエゴ州立大学卒業。2007年8月ウォルマート・ストアーズ入社、国際部門の商品本部、マーケティング本部などを統括。09年2月ウォルマートグループのサムズ・クラブ(会員制ホールセールクラブ)へ異動、テクノロジー&エンターテイメント部門のGMM(ゼネラル・マーチャンダイズ・マネジャー)に就任。10年4月西友執行役員EVP(エグゼクティブ・バイス・プレジデント)最高執行責任者(COO)兼ウォルマート・ジャパン・ホールディングス執行役員EVP・COOに就任。11年6月20日から現職。米国公認会計士。

デイカス 既存店売上高が対前年度比4.3%増、営業利益が同25%増で、6年連続の増収増益を達成できました。15年度に入ってからも好調を持続しています。

 好調の背景には、4つの柱からなる戦略があります。

 1つめは、EDLP(エブリデイ・ロープライス)とプライスリーダーシップの確立です。同業他社の価格戦略はほとんどがハイ・ローです。その最安値とわれわれの通常の販売価格を比較すると、われわれのほうに13年平均で3.9%、14年平均で4.1%の価格優位性がありました。さらに、ウォルマートカード会員向けの割引率を昨年、それまでの1%から3%に引き上げた結果、カード会員にとっては同業他社との価格差は約7%になりました。これが、売上が伸びた大きな理由の1つです。

 2つめは、EDLC(エブリデイ・ローコスト)と生産性の向上です。12年頃から畜産に導入し始めた自動補充システムによって、店舗の従業員が行っていた発注作業がなくなり、人時生産性の向上に寄与しました。また昨年、「OSA(オーサ)」(オン・シェルフ・アベイラビリティ)という、ウォルマートが自社開発したシステムも導入しました。顧客、商品、店舗などに関する膨大なメタデータ(データについての情報)を一定のアルゴリズム(計算手順)を使って、「売れるはずの商品が売れていない」などの状態があれば、アラートを出してくれます。従来、目視で売場点検を行っていましたが、オーサの活用によって、欠品をなくし、機会ロスを減らすことにつながっています。このほか、水光熱費の削減などを含めてさまざまなコスト削減の取り組みによって、生産性を向上し、コストを引き下げ、価格引き下げに再投資することができました。

 3つめは、商品の品質と鮮度の改善です。昨年、「ど生鮮。」というプロジェクトを開始しました。これは、生鮮食品のサプライチェーン全体で品質と鮮度を改善していく取り組みです。この取り組みにより、鮮度に対するお客さまの評価は過去最高のスコアを記録しました。生鮮の売上も8%伸びました。総菜についても、鮮度と品質の向上に取り組んだ結果、売上高が5%以上伸びました。総菜は15年度も2ケタ増を続けています。総菜子会社の若菜(埼玉県)は素晴らしい実績をあげており、中村真紀社長率いる経営チームのもとより強固な体制を構築することができました。

 4つめは、快適で便利な買物体験の提供です。お客さまの買物行動やニーズは変化しています。それに対応しなければなりません。EC・ネットスーパーの「SEIYUドットコム」の14年度の売上は同53%増と大きく伸びました。お客さまの買物体験を改善するさまざまな変更を行ったことが功を奏しました。取り扱い商品も拡張し3万アイテムを揃えています。今年は、英アズダで行っている、ネットスーパー専用の配送センターのダークストアを開始します。一方、店舗においては、改装した「ひばりが丘団地店」「東川口店」で、総菜やデザートを拡大したほか、お客さまの利便性を向上するため、必要な食品のみを短時間で購入できるように出入口を新たに設けました。その結果、両店の売上は改装前に比べて2ケタ伸びています。今後の改装でも、食品売場での買物体験を改善していきたいと考えています。

40店舗を改装し30店舗を閉鎖へ

──東川口店は快適さと利便性が具現化されています。

デイカス 東川口店は、利便性や楽しさなどお客さまのさまざまなニーズに応えることができました。店舗の生産性を上げていく最初の一歩となりました。比較的低コストでリモデルした店舗ですが、まだまだ改善の余地はあります。同じリモデルであっても、もっと低コストで効率的にできることはあります。それができれば、同じ投資額でたくさんのリモデルが可能になります。ひばりが丘団地店と東川口店で、お客さまの満足度調査のスコアを見ると、他店に比べて高く、改装について評価してくださっていることは非常によかったと思っています。

──改装投資については、どのようなプロセスを経て意思決定していますか。

デイカス 不動産部と商品本部で話し合い、陳列棚の台数やカテゴリー別の売上目標値、全体の売上目標などについてすべて合意したうえで、REC(リアル・エステート・コミティ)に諮ります。改装に関するガイドラインをもとに、RECで改装の方向性を議論して承認していきます。RECには、シニアマネジメントが参加して全員の合意を得ます。

──意思決定の際の重要な指標はROI(投資収益率)ですか。

デイカス 最初に考えなくてはいけないことは、改装によっていかにお客さまに満足してもらうかということです。それをおざなりにして、財務計画だけ立ててもよい結果は生まれないでしょう。もちろん、ROIは非常に重要な指標です。ROIをはじめいくつかの指標には一定の基準値を設けて、それに基づいて改装計画を立てています。規律をもった投資を実施し、EDLCを徹底しています。

 過去十数年、日本の小売市場規模は横ばいです。売場面積は増えていますから、坪効率は低下しています。これは、収益性、生産性、効率性、さらには株主へのリターンが損なわれてきたということを意味します。業界全体がこれから変わっていかざるをえないでしょう。

──今年度、改装を計画している40店舗は、ひばりが丘団地店、もしくは東川口店のかたちに変えていくのですか。

デイカス 全体としてはその方向ですが、店舗年齢や店舗の形が異なりますから、店舗の特性に合わせて、できるところから実施したいと考えています。

──一方で、約30店舗を閉鎖することを発表しました。

デイカス 閉鎖を発表した店舗のほとんどは、商圏の人口が減少しています。店舗によっては、10年以上もの間、テコ入れを図ってきましたが、再生を果たすことはできませんでした。商圏の潜在成長性がポジティブではないことから、閉鎖したほうがマイナスを止めることができると考えました。ただ、30店舗を閉鎖するとはいっても、全体の売上へのインパクトは、数%内に収まる見通しです。

──店舗閉鎖の意思決定は難しかったのではありませんか。

デイカス 小売業にとって、店舗閉鎖がなぜ難しいかというと、あきらめたくないという気持ちが強いからです。ウォルマートに限らず、ほかの小売業もそうだと思いますが、店舗閉鎖は負けを認めたということを意味するのでしょう。

 たしかに、店舗閉鎖には負けを認めるという感情があるかもしれませんが、市場が変われば、われわれも変わらなければなりません。商圏人口が減少してきた店舗は、人口の増えているところに移していく必要があります。幸い、われわれのほとんどの大型店は関東にあり、人口は減少していません。店舗閉鎖は負けを意味するのではなく、ビジネスの再編成にしかすぎません。

 とはいえ、店舗を閉める決定を下すのは、苦渋の決断です。そこは、規律をもって断行していかなくてはなりません。EDLP、EDLCを重視する企業にとっては、これは非常に重要です。どこかの店舗で収益があがらないからといって、そのぶんをほかの店舗の収益で補うことはできません。その店舗の収益は、必ず価格引き下げの原資にしなければいけないからです。そう考えると、全店が等しく利益を上げていく状況をつくっていかなくてはならないのです。非常に厳しい意思決定でしたが、必要なことでした。未来にどうするかを考えたときに、どこかの時点で過去を切り離さなくてはなりません。

オンラインに成長機会 店舗とつなぎ、シナジー創出へ

──今年1月に実施したPB(プライベートブランド)とNB(ナショナルブランド)の食べ比べ「横綱チャレンジ」のねらいは何ですか。

デイカス 横綱チャレンジは、PBの「みなさまのお墨付き」と有名メーカー商品を、ブランド名・商品名を伏せた状態で試食し、各商品を6段階(「とても美味しい」「美味しい」「やや美味しい」「あまり美味しくない」「美味しくない」「とても美味しくない」)で、お客さまに評価していただきました。東京・名古屋・大阪の3地域の約650人を対象に、第三者機関が行った公正で客観的な調査です。結果は3勝2敗3分けでした。みなさまのお墨付きが、品質や味でNBと同レベルかもしくはそれより高いレベルであることを証明できました。

 横綱チャレンジに対するNBメーカーの反応は好意的でした。西友全体が成長していますから、PBの販売数量が増えたからといって、それがNBの販売低下につながるわけではありません。PBに絶対に負けないという自信もあったでしょうし、自社商品の今後の開発に対するヒントをつかめるかもしれないという考えもあったでしょう。PBのほとんどはNBメーカーが製造しています。そのPBへの評価を知ることにおいてもメリットがあったと思います。そういう意味ではウィンウィンの取り組みになりました。

 「みなさまのお墨付き」「きほんのき」の14年度の売上は非常に好調で、対前年度比28%増でした。PBは今後も継続的に拡大を図っていきます。今年末までに全体で900品目まで引き上げる計画です。

──円安が続き、デフレも終息しつつあります。西友にとっては追い風ですね。

デイカス 日本は今、インフレ的な状況を必要としています。デフレはあってはならないと思います。われわれロープライスリーダーとしては、インフレ環境は追い風となります。

 われわれはEDLCの組織です。どうすれば生産性をあげられるかということをつねに考えていますし、そのノウハウを体得しています。インフレの状況は、そうしたわれわれの能力が最も発揮しやすいのです。

──成長戦略について、どのように考えていますか。

デイカス これから数年の間に、日本の小売環境は大きく変化していくでしょう。最終的にどういうかたちで落ち着くかはわかりませんが、その変化の一翼を担いたいと思っています。

 われわれ小売業は、ビジネスモデル自体を、あるいは成長戦略自体を根本的に考え直していくときに来ています。というのも、日本の経済、そしてお客さまの消費行動が大きく変わってきているからです。今、われわれが直面している変化は、世界の中でも先取りをして経験している変化です。何年後かには、世界が日本と同じような変化に直面していくと思います。

 「新規出店は何店舗を計画しているか」と聞かれることがありますが、10年前ならこの質問も適切かもしれません。しかし今は、新店を何店舗オープンするかというのは、それほど重要なことではありません。ビジネス規模という観点から考えても、新店の数がそれを表しているかというと、そうではなくなってきています。出店は大切ですが、売上を成長させていくためのチャネルの1つにすぎません。

 オンラインには大きな成長機会があります。われわれはオンラインの売上を5割以上伸ばしましたが、オンラインへの投資負担は、店舗出店の場合に比べて軽い。オンラインと新規出店は、ビジネス拡大の2つの異なる手法にすぎませんが、この2つの手法は投資収益の観点からビジネスモデルが異なります。ですから、いかにこの2つのチャネルのバランスをとっていくかが戦略上重要になってきます。これまでのように、新店をたくさん出すことが成功の方程式になるとは思えません。

 これからは全体的な観点をより大事にしていく必要があるのです。オンラインのビジネスと店舗のビジネスをつなげることでシナジーが期待できます。小売業は、オンラインと店舗で、お客さまにとって最も利便性が高いポイントがどこなのかを注意深く探していかなくてはなりません。

 われわれの役割は、お客さまが欲しいと思う商品を揃え、それをお客さまのもとに届けるということにつきます。それを、オンラインと店舗のビジネスでどう実現するかということになります。主軸に置かなければいけないのは商品であって、商品力がなければ、どのようなチャネルを使ったとしても、われわれの役割は果たせないでしょう。