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かつや堅調・からやま好調で鮮明になったコロナに勝った外食チェーンの共通項 

アークランドサービスホールディングス(HD)がさきごろ発表した2020年12月期決算(通期)は、売上高386億3400万円(対前期比15.9%増)、営業利益45億3800万円(同1.2%増)、経常利益48億6800万円(同7.3%増)と増収増益を達成、新型コロナの影響を意に介さず想定の数字をクリアし、2007年の上場来の好調をキープした。当期純利益は前期を大幅に上回る減損損失を計上したことから同7%減となる23億6600万円だった。とんかつチェーン『かつや』がけん引したが、第2の柱に位置付けるからあげ専門店の『からやま』も前年比で大きく伸長し、安定感が出始めている。

コロナ禍でも堅調だったかつや

かつやがけん引した好業績

 新型コロナの影響も意に介さず好調をキープしたアークランドサービスHD。けん引したのはとんかつファーストフードチェーンの『かつや』とから揚げ専門店の「からやま」だ。かつやは1000円~1500円が標準だったとんかつの価格帯を一気に500円~700円帯に引き下げ、特注のオートフライヤーによる調理効率化でスタッフの質に左右されない上質な揚げを実現。創業当初に想定していた「とんかつ業態の野家」の地位を不動のものにしている。

 ちなみに、経済産業省の商業統計によるとファーストフード業態は、<客単価700円未満、料理提供時間3分未満、セルフ・サービス方式を導入しているもの>と定義されている。かつやのオートフライヤーによる調理時間は、当初3分を超えていたが、いまは改良が重ねられ、3分以内で極上の揚げを実現。名実ともにとんかつに特化したファーストフード業態に進化を遂げている。

 「安い・うまい・はやい」を備え、そのポジションを開拓したかつやにとって、不況は必ずしも脅威とならない。ファーストフードはむしろ不況時こそ真骨頂を発揮する。それでもコロナ禍では、苦戦を強いられるファーストフード業態もあった。新型コロナはそれほど想定不能の事態で、すさまじい猛威だった。

なにが外食チェーンの明暗を分けたのか

 明暗を分けたのは、主軸のメニューだ。ハンバーガー、ピザ、牛丼、カレー、そば、うどん、とんかつ…。多様なメニューがひしめくファーストフード業態の中でも苦戦を強いられたのは、ビジネスパーソンのランチ需要と相関の高いチェーン。在宅勤務の拡大で、オフィス街での需要が激減したのである。現に、不況に強いハズの牛丼チェーンの多くが、コロナ禍では低迷を強いられた

 連動して肝になったのは、ファミリー需要だ。ステイホームが常態となったコロナ禍では、テイクアウト需要が増大。同時に、自宅へのデリバリーも拡がった。そうなるとファミリー世帯の食事はどうしても子ども中心のメニューにならざるを得ない。ハンバーガーやピザ、そしてとんかつが、宅配需要の多くを取り込んだのは、ある意味で当然の結果ともいえる。同社の2020年のテイクアウト比率は55%。数字にもその状況が如実に現れている。

図表 アークランドサービスHDカテゴリー別業績(20年12月期、出典:同社決算説明資料)

 店舗の9割が郊外ということもかつやにとって追い風となった。上記のビジネス需要のダメージを地理的に最小限に抑制できたからだ。くわえて第2の柱と位置付けるから揚げ専門店の「からやま」の躍進も同じ文脈に位置づけることができる。「からやま」の売上高は84億円を突破し、対前期比で17.8%増となり、同社の構成比においても21.8%を占めるに至っている。一方でアークランドサービスHDでは、『マンゴツリーカフェ』を展開するミールワークス(20年3月子会社化)や『岡むら屋』を展開するアークダイニングなど、「首都圏を中心に展開している各子会社は苦戦した」とも話している。

18万件のプレスリリースでもっともアクセスされた「かつや」のすごさ

 こうしてみると、同社がコロナ禍でも失速しなかった要因に特別なものは見当たらない。ここまで挙げた要因はファーストフド業態の王道を追求していれば、常識といえる施策だからだ。では、かつやは、なぜ売上を落とさなかったのか。それは、同社の巧みな“仕掛け”にある。

 かつやでは100円クーポンが有名だ。一回の利用ごとに必ずもらえるこのクーポンは、最大で約2ヶ月有効で、もともと安い同社のとんかつメニューをより安く食せるとあって、多くのリピートにつながっており、その割合は7割前後ともいわれている。コロナ禍では特にこの“100円”が消費者の恵みとなった。

 キャンペーン施策も実に巧みだ。「お客様感謝祭」と銘打った割安メニューやボリューム満点の「全力飯弁当」「唐揚げ1キロ」といった食欲をそそる企画を年に1214回実施するなど、同社は「お客様が望むものに順応させた企画」をタイムリーに連発。そのキャンペーンも、デリバリに限定せず、店舗のみの対応メニューを織り交ぜるなど、単なるお得だけで終わらせない工夫をちりばめている。

 こうした消費者に刺さりやすい企画をメディアを使い、積極的に発信。潜在需要の喚起につなげた。2020年はプレスリリース配信のアクセスランキング(1~11月)で、18万件中アークランドサービスHDが年間1位を獲得。興味を持たれなければ見向きもされないプレスリリースの特性を考えると、いかに顧客ニーズに順応した情報発信ができていたかを裏付ける結果といえる。ちなみに、同ランキングの2位、3位はマスク関連。同社は話題でもコロナを打ち負かしたことになる。

勝ち組外食チェーンに「不思議の勝ちなし」

 アークランドサービスHDは、2021年度の計画では売上高440億円(対前期13.9%増)、経常利益50億円(同2.7%増)、当期純利益28億円(同18.3%増)を見込む。安い・うまい・はやいに加え、多様なニーズに対応する柔軟性と情報発信力・企画力でライバルに差をつけ、ファーストフード市場を快走する同社にとって、クリアするのはそれほど難しくない数字だろう。

からやまは第2の柱としてコロナ禍を背景に急成長している

 今後の懸念は、好調の原動力がかつや偏重になっていることくらいだが、第2の柱と位置付けるからやまの出店拡大、パスタやそばなど6業態のテスト出店、冷食事業の拡充、ネット注文全店導入によるテイクアウトのさらなる利便性向上など、絶対エースに頼らない体制の整備にも余念はない。特に、2020年の好調を下支えした冷凍とんかつや冷凍メンチカツなどの冷食事業は、海外の日本食レストラン等への販路開拓の武器にもなるだけに、“隠れエース”に成長する可能性も秘める。

 コロナが猛威を奮った2020年の外食チェーンの決算もおおむね出揃った感がある。勝ち組と負け組の明暗が分かれたが、その境目になにがあったのか。間違いなく言えることは、前者は例外なく顧客ファーストを徹底していたということだ。常に顧客を第一に考える。だからどんな状況になっても柔軟に対応できる――。

 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉があるが、外食チェーンにおいては、少なくとも「不思議の勝ちはない」といえるのかもしれない。