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コロナ禍で好調のワークマン・オイシックスから見た「小売の未来」

コロナ禍で好調のワークマン、オイシックスでは、「小売の未来」をどのように見ているのか?10月20日に開催されたイー・ロジットの物流戦略セミナー第2部では、同社代表取締役角井亮一氏、ワークマン 専務取締役土屋哲雄氏、オイシックス・ラ・大地 執行役員奥谷孝司氏の3氏による鼎談が行われた。題して「小売の未来」。その内容を3つの視点からまとめた。

出席者
角井亮一氏(イー・ロジット 社長)
土屋哲雄氏(ワークマン 専務取締役)
奥谷孝司氏(オイシックス・ラ・大地 執行役員)

i-stock/Erikona

ワークマン、オイシックス コロナ禍で好調な理由

角井 ワークマンの2021年3月期第2四半期累計(20年4~9月)は、既存店売上高前年同期比18.6%増、客数18.5%増でした。また、「#ワークマン女子」を出店した10月は既存店売上高同34.5%増、客数26.9%増と好調を持続しています。また、オイシックス・ラ・大地(以下オイシックス)も、宅配事業の定期会員数の増加により、21年3月期の業績予想を大幅に上方修正しています(前回予想に対し売上高15.4%増、営業利益66.7%増)。コロナ禍でこの2社が業績を伸ばせているのはなぜでしょうか。

土屋 一つ目は「低価格」ニーズの高まり、二つ目は「密」を避けられる「アウトドア」人気、三つ目に“ハレ”の消費から“身の丈”消費へと流れが変化したことが大きく影響していると考えます。

 10月に「コレットマーレ」(神奈川県横浜市)に出店した「#ワークマン女子」は、入場3時間待ちで整理券を配布する混雑ぶりでした。この#ワークマン女子と、男性用のワークマンプラスは、扱っている商品は100%共通です。女性のマネキンを置いて“女性”を前面に出し、商品には柔らかい暖光色を当てる。一方、ワークマンプラスの場合はスポーティな演出をし、照明は蛍光灯です。この違いだけで、余分な経費をかけなくても同じ商品が男女それぞれに売れており、利益向上につながっています。

奥谷 まず、「巣ごもり」による内食回帰が大きいといえます。ただしSMなどと比べると、オイシックスへの需要は若干“ハレ”に寄っているとみています。新型コロナウイルスに対する警戒心から、安心・安全に対する意識がより高まったということも追い風につながった。さらに、これまで外食にかけていたお金が浮いたこともあり、その一部分が流れてきたという面もあるのではないでしょうか。

 今見過ごしてはいけないのが、通販関係のビジネスはその良さが各家庭内だけにとどまりやすいという点です。通販の場合、店頭で他の買い物客にも聞こえるように「あれが評判のオイシックス」、「これが話題のらでぃっしゅぼーや」と指差せるものではありません。だからこそ、しっかりマーケティング活動をすることが重要です。今まで商品を購入し続けてくれた顧客もそれらを見聞きすることで、「あ、やってて良かった」という気持ちを持ちやすくなります。

角井 コロナ禍がもたらしたニューノーマル(新常態)は、EC化を加速させています。自前でラストワンマイルを構築するアマゾンにとってはさらなる追い風となりますが、対アマゾンという視点からの戦術・戦略はどのように考えていますか。

土屋 ワークマンは、すべての商品を5年は売り続けます。とくに作業服は10年保証です。外資の場合、そこまでの商品展開はしませんから、そこがアマゾンへの対抗力になっていると考えています。

 また、価格競争でもアマゾンに負けない自信があります。長く売り続ける商品が中心のため、10万個単位で商品を一気に作ることができる。累計では100万単位での生産になるため、さらにコストを下げられます。次に、配送料をかけないことを重視しています。ラストワンマイルを構築しているアマゾンと配送料で勝負をしたら必ず負ける。そのため、ワークマンは注文はEC経由でも、商品は店舗渡しです。今後はEC注文の7割を占めている宅配をやめ、店舗受け取りに集約しようと考えています。もう一つなのが販促費です。アマゾンは知名度抜群で販促費ゼロ。これに対抗するべく、SNS上で情報発信をするアンバサダーを使い、“タダ”で広告をしてもらっています。これが効果をあげてきており、今ではテレビへの番組提供を止めました。価格、配送費、販促費、この3つを10年以内に徹底できれば、アマゾンに対するプロテクトになるのではないでしょうか。

鼎談する3氏(左:イーロジット 角井亮一氏、中:オイシックス 奥谷孝司氏、右:土屋哲雄氏)。

 オイシックスの秀逸なアマゾン対策

奥谷 オイシックスでは、ミールキットをアマゾンフレッシュからも提供していることもあり、「アマゾンと同じ土俵では戦わない」という考えが強くあります。

 我々はアマゾンのように早くは運べません。しかしながら、SMのバックエンドのような3温帯対応の物流をもっています。これが我々の強みになっているのではないでしょうか。これまで“オイシックスが培ってきた物流”というものが、ヤマト運輸との協業のもとで鮮度が高く、おいしいまま届けられるものとして信頼を得ていることも大きいでしょう。

角井 コロナ禍で、これまでECなどデジタルシフトにに躊躇していたところも、「もう踏み込まざるを得ない」状況に追い込まれています。ワークマンとオイシックスでは、今後、軸足の異なるリアルとデジタルの融合をどのように考えていますか。

土屋 我々は、Click&Collect(クリック&コレクト)に特化していきたいというのが本音です。日本全国に500以上の店舗があれば、顧客は都合の良い店舗に商品を受け取りに来る。だから店舗在庫を使ってネット販売を展開していくことができる。ただし、中途半端に強化しようとしても意味がない。ネット上の在庫はすべて店舗在庫による、受け取り方法は店舗だけにするというくらい徹底していく考えです。

奥谷 食に関するカテゴリーでは、飲食店系が淘汰されながらもいろいろな意味でデジタルを活用するようになるとみています。ただし、UberEATSや出前館などのデリバリー事業者に頼ったデジタル活用は飲食店が負担するフィーも小さくなく(35%程度)、デリバリー事業者にしてもシェア争いでなかなか儲かっていないといわれています。ネットスーパーも頑張っていますが、なかなか収益化につながらない。今後はそうしたところに対し、オイシックスがテクノロジー開発をするといったこともあり得るのではないでしょうか。食に関するデジタル活用の流れを止められないのであれば、我々がいかに業界をリードしていけるかが生き残りにつながると考えています。

公開討論の最後を角井亮一氏は「どちらの会社も、施策に芯が通っている。それが成功の秘訣ではないか」と締めくくった。