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常盤勝美の実践ウェザーMD #3ウェザーMDで成果を出すためのコツと販売数が急増する基準温度

私はこれまでの経歴の中で、スーパーマーケットをはじめコンビニエンスストア、ドラッグストア、ホームセンター、外食、食品メーカー、卸売業者、アパレルなど、製販配の多岐にわたる業種業態でウェザーMD支援を行ってきました。そしてその中で、さまざまな成功事例、必ずしも成功しなかった事例を見てきました。今回は、その一部をご紹介しながら、より効果的にウェザーMDを実践するためのコツをまとめていきたいと思います。

Petrovich9 / iStock

効果的実践のための重要なポイントは?

 日頃から多くの企業がさまざまな方法で気象情報をチェックしていると思います。より効果的にウェザーMDを実践するために、心がけていただきたいポイントがあります。それは、本部での企画や販促、店舗での発注仕入れなど、各部門での具体的な業務の中で必要とする気象データを、可能な限りシステム上で連携させて活用するフローを確立していただきたいということです。

 気象データが具体的な業務や自社の保有するデータ、システムと連携していないと、別々の独立した情報となってしまいます。業務経験が豊富なベテランの方なら過去の知見から自分の頭の中でそれらのデータの関連性を導き出すことができるでしょう。ですが、業務経験の浅い方は関連性に対する知見が少なく、十分なウェザーMDの効果が出せない場合があります。

 業務が多忙なときは、気象データを参照する時間すら取れないことがあるかもしれません。いずれにしても属人的な活用レベルとなります。また、結果検証の際に、単純な「天気予報の当たりはずれ」の議論となり、仮説立案の深化につながらないのはもったいない話です。

 気象データと対応する業務のデータが連携され、わかりやすく「見える化」されていれば、業務経験の浅い担当者もその関連性を十分に理解することができ、業務精度のボトムアップにつながるはずです。

自動発注システムでの気象データ活用

 店舗において、気象データが自社の持つ実績データとシステム上で連携され、活用されている最たる例が、需要予測システムです。

 気象データを使えば、一般的によく言われる、「〇〇℃になると△△が売れる」とか、「□□は気温が1℃上がると☆☆%売上が伸びる」など、より定量化された関係性(表参照)をシステムに組み込むことができます。これに店頭在庫や受発注の仕組みを連動すれば、自動発注システムのアルゴリズムの精度を高め、ひいてはロスの削減につなげられるでしょう。雨や気温の影響を考慮した来店客数予測に基づいて従業員の勤務スケジュールを作成することで、人時生産性を高める取り組みを実施している企業もあります。

図表●販売数が急激に増加する基準温度一覧【上:昇温期2~8月、下:降温期8~1月】(出典:気象庁「スーパーマーケット及びコンビニエンスストア分野における気候リスク評価に関する調査報告書」) ※青字は販売数が急減するまたは増加がとまる気温が抽出された品目

 このように店舗では、ウェザーMDの知見が少なくても、発注精度の維持やボトムアップができるシステムが確立しつつあります。ただし、これまでに経験したことのないような雨や気温などの異常気象が頻発する今日、過去の実績データだけでは想定しにくい販売動向もあることでしょう。そのときウェザーMDの知見がさまざまな仮説立案のための参考になり、さらなる発注精度の向上に寄与するはずです。

気象データ活用においての注意事項

 気象データと連動した自動発注システムまではいかないですが、たとえば発注システムに気象データが表示される仕組みを導入している企業もあります。しかし、気象情報が見られる環境を構築したのにもかかわらず、思うように気象情報活用の成果が得られない、というご意見を聞くことがあります。

 このとき陥りがちなのが、「気象情報がいつでも見られる環境があれば、自然と意識が高まり発注精度が向上し、ロスが減るはず」という錯覚です。前述のように、気象情報を活用しようとするマインドのボトムアップ効果は期待できますが、環境を構築したところで満足しては不十分です。

 このマインドを打破するために必要なのが、気象情報への関心を強くすること、そして積極的に活用しようとする意欲です。必ずしも天気図の見方まで熟知する必要はありませんが、せめて天気マークの意味や各季節の天候の特徴、店舗周辺地域の天候の特徴は把握しておいていただきたいところです。そして、店舗、部門長、スーパーバイザー、発注担当者など、関係者間で、気象の特徴だけでなく、それによって商品や顧客の動きが変わることを理解し、社内で知見共有する環境を構築していくことが重要です。

“お天気マニア”のススメ

 気象情報を積極的に活用し、MDの精度を高めている企業や店舗に共通して言える興味深いポイントは、“天気マニア”ともいうべき気象情報に詳しい担当者がいることです。その担当者が起点となって、「こんなことにも使えるのではないか」「あんなことにも使えるのではないか」と発想が広がり、さまざまな業務に向けて、それに適した形式での気象データ活用が実現されることがよくあります。

 たとえば、店舗の発注端末上のBIツールでピンポイントの気象情報が表示されるだけでなく、温度帯ごとの部門別販売数ランキングなど、さまざまな切り口で気象データと販売データの掛け合わせをできるようにしたことによって、店長や発注担当者が積極的に売場や販促の改善活用が始まったという事例もあります。

 もしそのような“天気マニア”が自社に居なければ、気象会社や、当社のようなデータマーケティングを手掛ける会社などに相談するという選択もあります。顧客に愛される店舗をめざし、あなたの会社でも、データ分析ができるお天気マニアを育ててみませんか?