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プロセスセンター開発など生鮮強化するゲンキー、藤永賢一社長が語る、これからの急成長戦略!

フード&ドラッグ大

本部を置く福井県のほか岐阜県、石川県、愛知県でドラッグストア(DgS)を展開するGenky DrugStores。同社は売場面積300坪の店舗を標準フォーマットとし、直営の生鮮売場の展開や、生鮮のプロセスセンター(PC)の開発など、食品強化型DgSの中でもとくに生鮮販売にこだわりを持つ企業だ。さらに直近ではEDLP(エブリデー・ロープライス)の取り組みにも本腰を入れ、新型コロナウイルス(コロナ)禍でも大きな支持を集めている。コロナ禍を経た今後の成長戦略について、藤永社長に展望を聞いた。

食品需要増と節約志向が大きな追い風に

──コロナ禍で先行きが不透明な状況ですが、足元の経営環境をどう分析しますか。

ふじなが・けんいち●1962年生まれ。88年に創業し90年にゲンキー株式会社として法人化。2017年に持株会社化し、Genky DrugStoresを設立。

藤永 これまでを振り返ると、われわれを取り巻く消費環境は3カ月ごとに変化していると感じています。

 まず、感染拡大が顕著になった4月から6月にかけては、マスクや消毒液といった衛生用品の需要が急増し、それらを買い求めるお客さまの行列ができるという一種の異常事態でした。その後7月から9月までは、いわゆる“巣ごもり需要”で、食品を購入される方が増加、10月以降も依然として食品の売れ行きが好調ですが、景況感の悪化もあり、節約志向がより強まっている印象です。

 経営面では、コロナ禍での需要増で足元の売上高は前年を大きく上回っており、直近の21年6月期第1四半期(20年7~9月)の既存店売上高は対前年同期比11.1%増と2ケタ成長を遂げることができました。

──ここ数年取り組んできた、生鮮を含む食品強化の戦略が奏功したかたちですね。

藤永 20年6月期の食品の売上高構成比は、前年同期からさらに1ポイント増の62.2%まで拡大しました。コロナ禍で食品の需要はとくに高まったので、われわれならではの商品構成が業績によい影響を与えたことは間違いないでしょう。

 ただもう1つ要因はあって、昨年8月10日からEDLP(エブリデー・ロープライス)をスタートしたことも大きいとみています。これは食品を中心に単価を引き下げることで、客数・来店頻度の増加と買い上げ点数の向上を図るねらいです。

──コロナ禍で消費者は価格に対しよりシビアになっています。EDLPの導入範囲は広げていく考えですか。

藤永 今年5月からは、日替り特売をさらに抑制し、これまで以上にEDLPを追求する戦略をとっています。これは、お客さまの「デスティネーションストア」になるために、「ディスカウント」をわれわれの強み・特徴として明確にするためでもあります。

 実はコロナの感染拡大が深刻化するなか、私はある出来事に対し危機感を抱いていました。それは、政府や自治体の要請もあって、食品スーパー(SM)各社がチラシやスポットの販促セールを抑えつつ、一部商品の価格を引き下げる動きが見られたことです。仮にこのスタイルが定着し、ほとんどのSMがEDLPを志向するようなことになれば、競争環境はとてつもなく厳しいものになっていくだろうと危惧していたのです。しかし、その後は徐々に通常の販売形態に戻っていったSMが多く、杞憂に終わりました。そうしたなかでわれわれは今後も、EDLPを追求し続け、地域の人々の暮らしを豊かにしていきたいと考えています。

19年8月10日からEDLPをスタート。ゴンドラエンドに掲げるプライスボードには「いつでもロープライス!」と記している

来夏、滋賀県に進出へ
洗練された店づくりも志向

──今後の出店施策の方向性について教えてください。

藤永 これまでと変わりなく、主力フォーマットとする売場面積300坪のDgSの出店を続けていきます。現在出店している東海・北陸4県のうち、マーケットシェアの大きい福井県と岐阜県については“防衛”のための出店を行う一方、石川県と愛知県では競合と比べて店舗数が少ないため、重点的に投資をしていきます。具体的には23年6月期までに石川県で55店舗、愛知県で157店舗を新規出店する計画です。

──現在推進している中期経営計画(21年6月期~23年6月期)では、「新規県への展開」も目標に掲げています。

藤永 5県めとして滋賀県への出店が決まっています。来夏から本格的な店舗展開を始め、23年6月期までに35店舗をオープンする予定です。滋賀県担当の店舗開発スタッフだけで10名弱を配置しており、すでに約10カ所で契約を済ませています。

──コロナ禍での消費動向の変化も踏まえ、現在標準化している店づくり・売場づくりの面で何か変更を加えることは考えていますか。

藤永 既存のレイアウトや運営手法については従来どおりですが、店内の演出手法については工夫が必要だと思っています。顧客層を拡大するうえでは、今のような“ディスカウントストア然”とした店づくりではなく、「商品の価格がこんなに安いのに、店内の雰囲気もよい」という店づくりも重要で、これには一定の投資を行っていきます。すでに一部の新店や改装店では、照明の配置を変更したり、外壁をガラス張りにして自然光を採り入れたりといった取り組みを行っています。

総菜は「PCの安心感」がモノをいう時代になる

2019年9月から稼働している生鮮PC。製造アイテムは着実に増えている

──生鮮を含む食品の販売動向はいかがでしょうか。コロナ禍での“内食回帰”の動きからSMでは総菜が伸び悩むといった動きも見られます。

藤永 総菜を含めてカテゴリーごとの濃淡はあまりなく、総じて好調といえます。SMの総菜の落ち込みは内食需要のあおりももちろんありますが、これまで売り手が重視してきたインストア加工による鮮度感や出来立て感よりも、衛生面の安心安全をより重視する消費者が増えた結果であるとも見ています。

 つまり、店内でつくる出来立ての総菜よりも、安全基準をクリアしたPCで製造している商品のほうが安心だ、と支持を集める時代を迎えているのではないでしょうか。その点、われわれの総菜は100%アウトパックですし、昨年9月に岐阜県安八町に開設した生鮮PCの存在は本当に大きいと思います。

──その生鮮PCの稼働状況はいかがですか。

藤永 おにぎりや総菜、精肉などをはじめ製造アイテム数は順調に増えていて、現在約30アイテムを供給しています。ただ、製造能力や人員体制を最大化するには至っていません。最大で500店舗へ供給できるキャパシティがありますので、今後1年以内にはその規模にまで引き上げたいと考えています。

──総菜やプライベートブランド(PB)など、独自商品の開発の方向性について教えてください。

藤永 基本的には新規開発よりも既存商品のブラッシュアップあるいはラインアップ拡充を重視していて、開発現場には「ヒット商品をつくるな」とさえ言っています。つまり、一過性の話題で終わってしまうような奇をてらった商品ではなく、今ある商品の課題を改善し、よりよいものにしようということです。

──PBに関しては、昨年「SPA推進部」を立ち上げました。海外メーカーや工場と連携した商品づくりは進んでいますか。

藤永 それについてはコロナの影響を大きく受けています。マレーシアのようにロックダウン(都市封鎖)がほとんど緩和されていない国もあり、現地へ渡航できない状態が続いています。とくに製造現場を確認できないと、不良品率が上がるなど品質低下にもつながるため、開発スピードはコロナ前から落ちているのが実情です。そのため現在は、国内メーカーとの共同開発も増えています。

ノウハウ獲得を目的としたM&Aは行わない

──今後の経営戦略における目標について教えてください。

藤永 数値的には、中期経営計画で掲げている、「23年6月期に売上高2400億円・店舗数568店・営業利益率4%」の達成をめざしています。また売上高については、直近5年間の年平均成長率が13.2%でしたが、23年6月期の時点で同25.2%まで拡大するべく、出店スピードを速めていく方針です。

──隣県の石川県を本拠とするクスリのアオキホールディングス(青木宏憲社長)が、京都府と石川県でローカルSMを買収するという大胆な策に出ました。こうした動きをどう見ますか。

藤永 いろいろな考え方や戦略がありますので一概に論ずることはできません。ただ1つ言えるのは、SMのビジネスモデルには、生鮮ノウハウを持つ“技術者”を育てなければ、店舗網を拡大できないジレンマがあるということです。その意味ではSMを買収したところで、生鮮を扱う店を多店舗展開することは難しいでしょう。

 少なくともわれわれは、ノウハウ獲得を目的としたSMなど小売企業のM&A(合併・買収)は考えていません。それよりも、食品メーカーや物流企業などから特定の領域に知見を持った人を迎え入れたほうが、ビジネス革新につながりやすいでしょう。