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ユニクロ世界一、滅びゆく旧来型商社、日本企業は外資に買収… 10年後のアパレル業界予測

2030年のアパレル業界はどうなっているだろうか。グローバルベースでは何が起こり、それに合わせて日本市場はどう変わっていくのか。大量生産からの転換はあるのか、またアパレル企業が生き残るため主要KPIは何にとって変わられるのか?変化の諸相を読み解いた。

(2019年 ロイター/Issei Kato)

10年以内にユニクロが世界一になる理由

 「ユニクロに勝てるアパレルがでてきますか?」

 ビジネススクールでの授業の一コマ。私が教鞭をとっていたところ、ある生徒によって私に投げかけられた質問だ。 

 私はこう答えた

「出てこない。ユニクロはいずれZARAを抜かして世界一になる。もっと分かりやすく言おう」

「地球を真ん中で半分に線を引いてほしい。その線の上は成長は止まり成熟経済となる。その線の下は成長経済となる。線の上は、欧米と日本。線の下はアジアだ」 

 私は続けた。

 「ZARAは、線の上に店をたくさん持っている。一方ユニクロは線の下に店舗を展開している。だから、時価総額で二位となったユニクロはZARAを抜かして世界一になる」

 私は50歳を過ぎて、自分の時間の半分を「人づくり」に充てている。自分がやってきた企業改革のノウハウを若い世代の人間に継承し、また、ものの見方や考え方を若い人に教えることで産業を救いたいと考えているからだ。

  余談ながら、私は国内のあるアパレル産業を守るべく、新しい仕事をする予定だ。その産業は、日本から消えつつあり、今は、補助金で生きている。無意味な「南下政策」を繰り返し、日本から産業を奪っていったのは商社だ。私は、その商社出身の人間として、その責任を果たすべく、友人の神藤光太郎(日本を代表するクリエイター)と一緒にこの産業を救おうと誓った。

 

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日本市場は「グレーターチャイナの一部」という扱いに転落する

 

 話を「半分になった地球」に戻す。

 例えば、今は無き世界の流通コンサルティング、カートサーモンのパートナー会議を上海で行ったとき、各国から上海に集まったパートナー達は、東南アジアの経済成長とリテールの成長資料をスクリーンに映し、東南アジアへの進出を計画していた。

  実際、東南アジアは、最もリテールが成長する国で年率約8%の経済発展をしており、ユニクロなどは巨額の投資を行っている。日本にとどまり続けたアパレル企業は、縮小する国内市場から抜けられないが、ユニクロは一歩も二歩も先を行っている。

 これに対して、地球の半分の上。つまり、欧州、北米、そして、日本の3市場は成長が止まる。まず、欧米などの企業がマーケットセグメントを、グレーターチャイナ(一般的に、中国に、香港と台湾を入れた言葉)の中に日本を入れると私は思っている。欧米の巨大SPA(製造小売)は、日本をもはや特別な市場と見ず、AP (アジアパシフィック) の一部として見なすだろう。日本市場の存在感が大きく薄れるということだ。ルイ・ヴィトンのような日本人が大好きなブランドも、中国人の旺盛な消費意欲の前では、市場として「無意味同然」となる。欧米初のスーパーブランドは、中国本土の沿岸部に出店してゆけば、日本など不要だ。

  実際、最近のAppleは新製品をだすとき日本市場はでてこない。日本はビジネスでいえばすでに後進国になりつつある。

 

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アパレルのKPIは売上からLTVに変わる

Petmal / iStock

 次に、欧州と北米などの市場を考えていきたい。これら先進国と呼ばれる市場では、これからは必要な量だけを求め、必要な量だけを消費するようになる。ユニクロが「これから必要な量だけを製造する」といっているのを聞いて、「ああ、プロパー消化率を上げるのか」と極小的な発想しかでてこない人は「チマチマ病」(物事を俯瞰して見られず、局所的なところしか見ない癖)にかかっている。 

  売上を作ることを目的とし、「プロパー消化率 50%」など、最初から半分は定価で売れない計画を立ててビジネスをしているアパレルは極めて厳しい状況に追い込まれることになる。また、アパレル企業の主要な業績指標(KPI)は、売上ではなくLTV (Life time value; 個人、個人が、生まれてから死ぬまでどのぐらい特定の商品、サービスを使うかという指標)に変わる

  日本市場の成長は止まり、乱発貨幣のつけで円安が進み、外資によるM&A(合併・買収)によって、私たちの上司は中国人か欧米人になる。すでに、その兆候はでているではないか。今は無きレナウン、マークスタイラー、バロックジャパンリミテッドなどは、中国の会社だ。これからの5年、10年、語学が話せず、あうんで仕事をしてきた人は仕事がなくなってゆく。また、語学ができるだけではダメで、外国人とのコミュニケーションは論理と事実だけがベースとなる。

  商社の多くは消えて無くなるだろう。私の出自だけに無念極まりないがしかたない。成長期に、一気に国の経済をブーストさせてきた商社という、売上の拡大だけがレゾンデトール(存在価値)だった業態は大きく業態転換を余儀なくされ、流通構造からはずされる。D2Cとはそういう意味だ。商社の中でD2Cという言葉を使っている方がおられるが、こういうことを分かっているのだろうかと思うときがある。

  そして、もはや日本という衰退市場と決別したユニクロを横目で見、世界展開に遅れた企業は消えゆき、顧客をしっかり囲い込んだ企業だけがAI で需要を予測し、PLMProduct Life Management)で自動生産をする。そして、それでも余った商品は二次流通市場で再販されて消費され、格差が広がった底辺を支える人達が、中古品を消費する。こうして、アパレルの在庫の売れ残り問題、破棄問題は多くの企業の倒産と統合によって解決されることになる。地球の温度を変えるほどの量のゴミを排出し続けてきた反逆がコロナによる産業再編なのだ。

 

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循環型経済への移行で二次流通市場が発達する

  いかがだろう。私は、占い師ではないので、こうした考察が当たるか当たらないかは問題ではないと開き直っている。むしろ、こうした未来に対する事業環境を予測せず、その場その場の近視眼的対応をしている企業は、もう少し長期的な視座をもって頂きたいということなのだ。もちろん、雨が降れば傘を売る。マスクがなくなればマスクを増産するなど、その場、その場の生き残り施策は大事だが、今のアパレル業界を見ていると、こうした大局的視座にたったビジネスを展開しているとは思えないほど局所的だ。

  例えば、どのアパレル企業に行っても、判で押したように「次は、サステナブルのブランドを立ち上げよう」という。また、評論家の方々も「サステナブルだからアパレル企業は在庫問題をなんとかしろ」と声高に叫ぶ。しかし、なぜ、人がサステナブルな商品を選ぶのか、そして、そもそも、サステナブルな商品とは何かという根源的な問いかけに答えられない。当然ながら、人がトレンドとしてサステナブルな商品を求めるのではなく、冒頭に書いたような社会背景の下、モノにまみれ、必要以上の商品が不要となった消費市場により消費型経済から循環型経済に移行するという背景があるという因果関係が重要なのだ。現象ばかりを追い続け、「次のトレンドはなんだ」と躍起になっているから、そもそも20年で市場の30%が消えて無くなっている一方で供給量は倍増しているという需給のアンマッチから在庫破棄問題が起きているのに、そのことも理解せずに、単に「AI を使えば、世の中から余剰在庫がなくなる」など勘違いし続けているわけだ。

  また、循環経済になれば、企業は必要な量だけを生産し、破棄損ゼロを実現するために二次流通市場が発達するのは自明だろう。論理立て、筋道を立ててものごとを考えれば誰でも分かる話だ。某メディアで、「進むサステナブルへの取り組み」と書かれていたので、よく読んでみると、クズの綿を再生産した素材を使い、相も変わらず大量生産し「これがサステナブル商品だ」などとしていた。

  今のアパレル企業は、目先のことで精一杯になり、ものごとを長期的視座に立って「今」を考えられない状況になっている。こんな企業に未来はない。古き良き時代は、アメリカ様を見ていれば、そこに「4年後の答え」はあった。しかし、もはや答えは自分でつくる時代になった。先生はいなければ教科書もない。こうした世の中を楽しめる企業だけが生き残ることになる。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)