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部下を育てるのに必要なのは「自信」 鹿児島タイヨー副社長が説く伸びる人材の育て方

借金300億円を6年半で返済―。鹿児島県を拠点に展開するスーパー、タイヨーは2013年にMBO(上場を廃止し経営陣による株式買い取り)を選択し、リストラも行わず本業のスーパー経営を立て直してきた。その中心にいたのが、それまで経営を学んだことのなく創業家に嫁いだ清川照美副社長だ。再建をはかるなかで大切にしてきたのは主婦感覚とお客様視点。自著「崖っぷちの会社を立て直したスーパーな女」から、人材育成や組織の適切なマネジメント法を一部編集してお届けする。

いかに部下をスキルアップさせ育てるか。清川副社長の持論は「自信」をつけさせることにあるという(写真はイメージです Photo by tdub303 from iStock)

 前述の通り、将来、会社を牽引するブレーンを育てたいと考え、私の秘書として 働いてもらった人は、今では数十人以上になりました。短ければ3カ月、長ければ1年ほど一緒に仕事をすることで、精鋭たちが次々と育ってきております。

 ある人は、初めの 1年ほど一緒に仕事をすることで、精鋭たちが次々と育ってきております。 1週間は目が回るほどでしたが、私と仕事をした時間は1カ月 が1年くらいに感じられるほど、充実していたと言ってくださいます。

 また、別の人は、それまで自分は歩いていただけだったが、やがて自転車で走るようになり、3カ月後はF1のレーサーになったみたいだったと言っていました。それほどみなさん誰もが特別な経験をし、大きな自信をつけていきました。

一つの部で100 点よりも、 複数の部署で 60〜 70点を

 同じ仕事をコツコツと続け、質を高めていくことはとても大事なことですが、定 年まで同じ部署で働いてくださったとしても、100点満点中90点ほどまでいけるのがせいぜいではないでしょうか。 というのは、時代は常に変化し、進歩して、満点の仕事をしたと思っても、その時にはまた新しいことが求められるからです。

 一つの仕事で100点満点を目指すよりも、いくつかの部署を回りながら、それぞれ 60点〜 70点を取っていったほうが、個人のスキルは上がっていくと思います。違う部署で違う仕事に取り組む経験は、単なる足し算ではなく、それ以上のものになります。違う型に進化するわけです。

 私は秘書たちにもそのようなことを期待し、また、秘書たち自身、会社のトップのポジションに上がる意欲を持ってほしいと伝えてきました。そのかいあって、これまで多くの人が大きく育っていきました。卒業した秘書たちの多くは、店舗の現場へと飛び立ちました。店長として、今度は一つの店舗を任されます。そこで経営者の視点で、店舗を運営していきます。

 店で結果を出すと本部に帰ってきていただき部長のポジションに上がっている方もいらっしゃいます。1年後、再び、私のもとへ戻ってくる人もいますが、その時はさらに大きく成長し、すっかり別人のようになっています。「清川照美に改造された」と笑っています。

 多くの人を見てきましたが、少しとんがっている人のほうが早く変わりやすいようです。個性があり過ぎて、今の職場ではちょっとはみ出てしまう人が、経営の視点を身につけることで、大きく変わっていきます。

 波風を立てることが嫌いな平和主義の方でも1年後には自信をつけてはっきり物事を言い、 「嫌われるのがどうしたの」と言うくらいに変わった方もいらっしゃいます。もちろん職務として嫌われても、人としては慕われていらっしゃいます。

部下を育てるとは、部下へ愛情を持って指導。「自信」を育てること

 部下を育てること、人を育てることは、非常に難しいと言われます。MBO後、私は約6年半で数十人以上のTERUMIチルドレンを将来のブレーン候補として育成してきました。以前は、機会がなくその能力を発揮できずに眠っていた人々の意識を目覚めさせてきました。

 そのためには、まずその人のキャパシティーと思われる仕事の、 30%アップくらいの仕事をお願いします。 もちろん、いきなりやり切れるわけではありません。しかし、それまで能力がありながら、それを眠らせていた人たちです。キャパと思われるレベルの 20%アップほどまでは、黙っていてもやれます。まずそれをしっかりと見守ります。さらに後 10%は、私が手伝いながら取り組んでもらいます。 こうして、かつての自分よりも遥かに上のレベルの仕事ができることを、本人に自覚してもらうのです。

 こうして、かつての自分よりも遥かに上のレベルの仕事ができることを、本人に自覚してもらうのです。やり遂げた仕事、でき上がった成果物については、しっかり認め、褒めます。場合によっては昇格させたりもします。しかし、人はこのような報酬ばかりを目当てに育つわけではありません。

 効果が上がるのは、自らの成果をみなの前で発表してもらうことです。23カ月に一度行われている店長会議をはじめ、社員が集まる機会を用いて、できるだけ大勢の人の前で、自らの仕事の成果を発表してもらいます。私一人が褒めるよりも、こちらのほうがよほど自信をつけることに役立ちます。そしてこの自信こそ、その人をさらに大きく成長させていく原動力となっていくのです。

 縁があった人に、単にポジションだけでなく、それ以外の何かを受け取ってほしい。 「自信」こそが、清川照美と一緒に時間を過ごした最大の成果だと思っています。その様子を、私は母親のような深い愛情を持って、いつも見守っているつもりです。

頑張る人を評価する

 以前の我が社では、せっかく優秀な人たちが数多くいたにもかかわらず、その力を存分に発揮していただいていたかというと、そうではありませんでした。たとえば、部下がよい提案をしても上司は聞いてくれないこともありました。聞いてくれたとしても、それで得られた成果を上司は自分の手柄にしてしまう。逆にうまくいかなければ、部下の責任にしてしまう。提案しても何の得にもならないのであれば、部下はやる気を失い、ただ、言われたことだけをやるようになってしまいます。

 働いていても報われていないこともありました。たとえば部長より、課長の給料が高い。店長より、一般社員の給料のほうが高いことがありました。退職金も同様です。店長を経験するなど要職に就いてきた方よりも、一般社員の方の退職金の方が高かったのです。誰でもおかしいと思うような理不尽な現象がまかり通っていました。

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 私は、まず、そのような頑張っている人たちに存分に力を発揮してほしいと思いました。そのため、頑張っていることを評価し、報いることができる仕組みを整えていきたいと考えています。

 今期やっと、一般社員の人事制度改革に着手できるレベルになりました。公募制にして、 30人のメンバーを集め、毎週、人事制度について活発に議論がなされています。メンバーの中には組合の委員長や書記長もいらっしゃいます。今期中に見直す予定です。

 頑張っている方、ポジションに見合った責任ある仕事をしている方は、評価に値する給料をもらうべきだと思います。たとえば、管理職については、2015年9月より満 55歳以上の管理職の給与制度を見直し、それまでの段階的な給与引き下げを廃止して、職位に見合った給与の継続ができるように変更しました。

 他にも頑張る人、結果を出し会社に貢献してくださった方が評価されるように制度を整えていきたいと思っています。そうすることで、会社に利益がもたらされますし、何より本人がやりがいのある毎日を送れるのではないでしょうか。まずは今我が社で働いている方は前向きに生き生きと働いていただきたいと思っています。