借金300億円を6年半で返済―。鹿児島県を拠点に展開するスーパー、タイヨーは2013年にMBO(上場を廃止し経営陣による株式買い取り)を選択し、リストラも行わず本業のスーパー経営を立て直してきた。その中心にいたのが、それまで経営を学んだことのなく創業家に嫁いだ清川照美副社長だ。「志と覚悟のあるところに道は開ける」「簡単なことを覚悟を決め、真剣にやる」。その思いを胸にいかに経営再建の筋道をつくったのか。自著「崖っぷちの会社を立て直したスーパーな女」から一部編集し2回にわけてお届けする。
MBOを行ってからすでに今年の秋で7年になろうとしています。銀行様からの借入金は、2013年秋のMBOの時点で454億円でしたが、その返済も予定より早く進み、2020年3月時点での6年半で150億円まで縮小、約300億円の返済を致しました。
「MBO」理想形を実現
タイヨーの経営は急速に回復しており、それに多くの方が驚いて、 「MBOの理想形だ。タイヨーの奇跡だ」と言ってくださいます。 「きれいだ」 、 「よどみがない」とのお言葉もいただきます。世の中にはいろいろ思惑を持ったMBOもあるようですが、スピードを持って意思決定をし、会社を立て直してお客さまの豊かさのために地域に貢献するという、本来のきれいなMBOのあり方だと自負しております。
あらゆる改革に取り組んできましたが、一番は、やはり社員のみなさま方の意識改革でした。「企業は人なり」とは古くからよく言われている言葉ですが、我が社には能力のある社員がたくさんいらっしゃいます。しかし、かつては学習の機会を与えられることがなく、自分たちで考えることをしないまま、眠ったままの状態になっている人がほとんどでした。
その方々に目を覚ましていただき、頑張る人たちを評価したいと思いました。そこで「会社を元気にするため、未来に向かってみなさんの夢を我が社で実現してほしい」とひたすら話しかけ、少しずつ、みなさんの意識が変わってきてくれたのだと思います。具体的には以下のような手順で進めました。
■まず全体として
・現状の自社の真実の数字を見てもらう(本業の小売業の数字はどうなのか?)
多くの社員は売上と荒利益しか理解しておらず、 残念ながら営業利益が純利益と思っていた管理職がいたほどです。
・会議を減らす(年間毎日朝8時半から夜9時くらいまで会議漬け→週1回月曜日午後1時から6時に終わらせる)
・資料を減らす(店舗社員も管理職も資料作りに追われる→無駄を省く)
店舗を立て直すために何を変えたのか
■店舗や各部門での改革・意識改革
①赤字店舗の立て直し
・小規模改装(人間力と掃除力を活用した150万~200万円規模の改装)
・徹底したバックルーム、トイレ、窓の掃除
・お客さまが入りやすい通路幅と導線の確保
・お客さまのニーズにあった量目の見直し(世帯人数が減っている現在の状況に合わせる)
②赤字部門の立て直し(精肉・食品以外全部門赤字→すべての部門が黒字に)
以前は、自分たちの部門は赤字でも、他の部門で補ってもらえればよいという考えでした。 そこで事業部制の考えを打ち出し、部門内で損益を管理することにしました。
③改革実行のための意思統一――会議のたびにみなさんに伝えてきたこと
・1年目「売上」から「営業利益」へ
・2年目「人時売上」から「労働分配率」へ
・3年目「ローコストオペレーション」 (後に「チェーンストアオペレーション」 )
・4年目「経営者意識」
・5年目「無駄をなくす」
・6年目「筋肉をつける」
・7年目「前向き」
これらに取り組んだ結果、かつて 90数店舗あまりの中、 50店舗以上に及んでいた赤字店舗は、現在、かなりの数まで縮小しています。また、オーガニック指向の食品スーパーのオンリーワンでも経営改革を進め、かつては8年間、年間5000万円の赤字続きだったものを意識改革、ローコストオペレーションにより、5カ月で黒字化を果たしました。
すでに 10店舗ほどオープンしていますが、すっきりと洗練されたデザインが新鮮で、お客さまから大きな支持を得ています。今後、厳しい既存店もこのタイプに徐々に転換していくつもりです。
二つ目が小さな試みですが、スーパー内で薬を販売する売り場を作ることです。ドラッグストアは本来の薬ばかりでなく、グロサリーをはじめ、酒、米、生鮮などを格安で扱い、食品スーパーにとっては手強い相手になっています。それに対抗して、我が社の店舗でも薬を扱えるようにしたのです。今や小売業の垣根はないと思います。
2015年から社内で登録販売者の勉強をしていただき、2016年より、本部にモデル店舗を作って社員向けに薬の販売実験を始め、現在は5店舗ほどで営業しています。医薬品を販売できる専門職・登録販売者の育成も図り、現在145人ほどにまで増えました。
三つ目が、よりよいモノを安く、より多くの方に利用していただきたいと始めた超ローコスト運営のディスカウント業態です。2020年、宮崎地区の赤字7店舗から始めます。今期中には結果を出す予定です。