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良品計画 松﨑曉社長が語る 無印良品が食品を強化する理由~2030年頃までに売上構成比30%へ 

「無印良品」のブランドで衣料品や生活雑貨、食品などの企画開発・製造から流通・販売までを一貫して行う、製造小売(SPA)企業の代表格である良品計画。2018年から19年にかけては生鮮食品も取り扱う店舗の出店も進め、食品強化の姿勢を強くしている。20年2月期第3四半期では直営既存店ベースの客数が2ケタ増を記録するなど好調な同社の企業姿勢や今後の戦略について、松﨑曉社長に尋ねた。

聞き手=阿部幸治 構成=松尾友幸(ともにダイヤモンド・チェーンストア編集部)

無印良品の「さりげなさ」を支持する若者が増加

──20年2月期は足元の売上が非常に好調です。最近の業績をどのように分析していますか。

まつざき・さとる1954年生まれ。西友ストアー(現西友)を経て2005年、良品計画入社。同年、同社海外事業部アジア・業務担当部長、08年、執行役員 海外事業部中国担当、11年、取締役 海外事業部長、12年、常務取締役 海外事業部長、13年、専務取締役 海外事業部長、15年、代表取締役社長(現任)、同年、MUJI HOUSE代表取締役社長(現任)。

松﨑 20年2月期はこれまでのところ1月を除き全社の売上は前年同月実績をクリアしています。その大きな要因は客数の増加です。客数が2ケタ増を記録した月もあり、直近の第3四半期では対前年同期比16.8%増でした。とくに9月は消費増税前の駆け込み需要もあり同23.1%増だったほか、10月には「無印良品メンバー」向けの優待「無印良品週間」を実施したこともあり、増税後の反動減はあまりありませんでした。

 私が社長に就任した翌年の16年から、より多くの方に使っていただけるように、靴下など生活の基本となる商品については品質を維持しつつ価格を見直しました。また、弊社が13年5月から提供しているアプリ「MUJI passport(ムジパスポート)」では、新商品やお買い得商品の情報のほか、各店舗の個店情報を積極的に発信してきました。このような施策が実を結び、来店頻度と買い上げ点数が増加したことが、現在の2ケタの客数増につながっているのだと思います。10~20代前半の若年層の方も多く来店するようになりました。

──若い来店客が増えているとのことですが、その理由は何でしょうか。

松﨑 最近は「若者の車離れ」に代表されるように、若い世代が高額消費を避けているといわれていますが、一方で自分のふだんの生活を大切にする傾向があります。そのため、前述したように品質を維持しつつ価格を見直した靴下などの生活必需品や、レトルトカレーのような多少高くても品質にこだわった個食商品が若者の支持を集めているのだと思います。

 また、最近ではサステナビリティ(持続可能性)や環境保全への関心が世界的に高まっています。このようなSDGs(持続可能な開発目標)のトレンドが登場する以前から、当社は創業期から「消費社会へのアンチテーゼ」をテーマにさまざまなことに取り組んできました。このような無印良品が長年継続してきたコンセプトが、現在になってより多くの消費者から理解されつつあるのではないかと考えています。とくに若い人の消費傾向として、パッケージにプラスチックを使用していないなど社会貢献につながる商品を購入することも多くなりました。

 しかし、当社は「自然環境を守っています」などSDGsに取り組んでいることを直接的にアピールするような企業ではありません。あくまで商品が持つ意味や製造の背景を伝えることによって、お客さまに当社の考え方やものづくりのコンセプトを理解してもらう。この「さりげなさ」が無印良品のよさで、非常に重視している点です。

欧州では衣料品を拡大

──20年2月期第3四半期累計で、売上高や客数は増加していますが、利益面では減益となっています。

松﨑 第3四半期は消費増税がありました。当社は税込価格表記の維持や幅広い秋冬商品の価格見直しを計画に盛り込んでいました。しかし前述したように9月の駆け込み需要があり、その反動減を抑えるために10月に販促施策の頻度を増やしたことで、とくに第3四半期は粗利率の低下を招いてしまいました。それが大きな原因です(編集部注:同社の20年2月期第3四半期累計の売上総利益率は50.1%で対前年同期比1.3ポイント減)。

 しかし、そもそも無印良品の値下げは売上を伸ばすためのものではなく、日常的に使用する商品をお客さまにお試しで使っていただきたいという目的から実施しているものです。増税直後は反動減抑制のための施策として活用しましたが、今後は値下げを本来の目的のみに活用し、その頻度を抑制して粗利率の改善を図りたいと考えています。

 また、現在は食品の売上が好調ですが、売上高構成比ではまだ1ケタ台です。この比率をさらに拡大させていくとともに、より粗利を確保できる衣料品や生活雑貨などの売上増もめざしたいです。今期は暖冬の影響により衣料品は計画より下回っていますが、既存店売上高はクリアしています。オーガニックコットンを使用した下着やTシャツなど、無印良品のコンセプトを体現した商品が好調でした。雑貨では新商品の「撥水サコッシュ」(990円:以下、税込)が大きな支持を獲得しました。

──好調な商品のトレンドは海外の店舗でもあまり変わらないのでしょうか。

松﨑 海外事業では日本以上に衣料品の売上が伸長しています。これまで欧州では、無印良品といえば文房具やアクリル製品、家具などのイメージが強く、実は衣料品の構成比率は低かったのです。しかし、今期は靴下などの基本商材を中心に衣料品の商品数を拡大したことが奏功し、欧州既存店の売上増加に貢献しています。

無印良品では、食品だけでなく衣料品も好調だ。とくに欧州での売上が伸長している(写真は国内店舗)

食品は無印良品の考え方を伝えやすい

(上)18~19年にかけて、無印良品は生鮮を取り扱う食品強化型店舗の出店を進めてきた(写真は無印良品 京都山科)(左)食品は無印良品のコンセプトを伝えるうえで効果的だ。「つながる市」では食品の生産のストーリーを伝えている (右)無印良品ではレトルトカレーを中心に食品の売上が好調だ

──ここからは近年強化している食品についてお伺いします。18年に増床リニューアルした「無印良品イオンモール堺北花田」(大阪府堺市:以下、堺北花田店)に続き、19年は「無印良品 銀座」(東京都中央区)、11月に「無印良品 京都山科」(京都府京都市)など生鮮食品を取り扱う店舗を開業しました。無印良品が生鮮を含め食品を取り扱う意義を教えてください。

松﨑 無印良品は基本的に日常生活に必要な商品を販売しています。しかし、これまで食品で展開していたのは、レトルトカレーに代表される「調味加工」、チョコレートやサブレといった「菓子」、黒豆茶などの「飲料」の3カテゴリーで、生活に必要な食材をすべて網羅しているわけではありませんでした。そのため、これまでの商品に加え、青果・精肉・鮮魚といった生鮮3品や味噌などの日配品も取り扱い、日常で使う食品を広くカバーする店舗として開業したのが堺北花田店でした。

 また、食品は無印良品の考え方をお客さまに示すための手段として非常に有効です。当社は商品の製造の背景にあるストーリーを伝え、人と人、人と自然、あるいは人と社会をつなげることを重視してきました。食品の場合、生産者がおいしさや安心・安全を提供するためにさまざまな工夫を凝らして商品をつくっています。このような背景をお客さまに理解していただき、消費者と生産者をつなげるためのツールとして食品は効果的です。

 たとえば、19年12月に一部の店舗で販売した「不揃いりんご」(1個99円)は、品質的には問題ないものの、傷やシミ、色ムラがあるため今までは一般に流通していなかった商品です。技術革新により同じものを大量生産できる環境があるなか、工業製品ではない野菜や果物はそれぞれ形や色が違って当たり前だという考えから「おいしさ」の基準を見直し、一般的な販売規格から外れた商品を取り扱うという試みでした。

──生鮮食品を取り扱っている店舗の売上状況はいかがでしょうか。

松﨑 どの店舗も売上高は計画通りに推移しています。生鮮を取り扱う食品スーパー(SM)としての機能を付加したことで、食品全体の売上高構成比も高まりました。堺北花田店では20%近くになる月もあります。また、通常の店舗でも取り扱っている非食品の売上も伸長しました。

 このことからわかったのは、無印良品の来店頻度はSMと比較して圧倒的に少なかったということです。この点に今後の店舗戦略の活路を見出し、SMと無印良品が一体となった店舗をつくりたいと考えました。そこで19年4月に開業した「無印良品 野々市明倫通り」(石川県野々市市)は初のロードサイド店舗で、北陸地方でSMを展開しているアルビス(富山県/池田和男社長)の敷地内に出店したのが特徴です。SMの隣に出店したことで来店頻度が高まり、売上は計画以上に推移しています。この店舗ではSM敷地内に別の建物として出店しましたが、今後はSMと同じ建物内で、食品を軸としてSMと無印良品がつながるような売場もつくりたいと考えています。

 海外では19年11月にフィンランド1号店として、首都のヘルシンキに「MUJI KamppiHelsinki」を開業しました。同店では精肉・鮮魚は取り扱っていませんが、フィンランドの約100もの地元農家や企業から仕入れた青果や日配品、加工食品などを販売しています。地元のお客さまからは、「フィンランドの商品をたくさん取り扱ってくれて嬉しい」というお声をいただいています。食品はローカルとの結びつきが強いため、地域に根付くよいきっかけになっています。

──その一方、衣料品や生活雑貨についてはどのような戦略を採りますか。

松﨑 生活雑貨では、19年2月に組織体制を見直しました。これまでは「ファニチャー」「ヘルス&ビューティー」といったカテゴリーごとの縦割りの組織でしたが、生活シーンに合わせた商品を開発しようという考えのもと、「品揃え・商品開発担当」「企画デザイン担当」「生産・調達担当」というように再編しました。この体制にしてから人員も見直し、20年秋冬には組織再編後初の商品がデビューします。個別のカテゴリーではなく生活シーン全体を考慮した商品開発を行うことで、ベッドなど無印良品がこれまで得意としてきた商品の売上拡大を図りたいと思います。

 また、海外ではその地域の性質に合わせた商品開発も始めました。これまでは日本で開発した商品のほとんどは海外にそのまま展開していましたが、中国では現地に商品部を設置しました。現地の人に合わせたベッドやシーツのサイズの見直しのほか、たとえば中国ではスリッパの底は柔らかいものは好まれないため、硬い素材に変更するなど好みや生活習慣に合わせた変更を行っています。

社会貢献だけでなく利益も確保する

「食品強化を進め、30年頃までに売上高構成比を30%まで高めたい」

──今後の出店戦略について教えてください。

松﨑 今後は国内で毎年15~20店舗をコンスタントに出店していく計画です。売場面積については、従来の標準店の250坪では現在展開している商品をすべて陳列するスペースを確保できなくなっているため、500坪程度の店舗を中心に展開し、冷凍食品やチルド商品など、食品売場を拡大したいと考えています。30年頃までには、食品の売上高構成比を30%ほどまでに伸長させたいです。

 オペレーション面では17年から配員基準に対する充足率を改善し、各店舗の人員を増やしました。また、電子タグの導入も検討しています。食品はまだですが、すでに衣料品ではサプライチェーンで電子タグを取りつけ、実用化に向けて実験を開始しました。

 海外では、中国で毎年30店舗を安定的に出店していきます。一方、米国では黒字化を達成するまで出店を凍結しました。欧州については18年末から出店を再開していますが、売場面積については見直したいと思います。これまで出店してきた大型の旗艦店は無印良品の世界観を伝えるためには非常に有効ですが、現地の運営体制がしっかりしていないと維持できません。そのバランスを見極め、適正な売場面積を模索していきます。

──最後に、これからの無印良品がどのような店舗をめざすのかについて聞かせてください。

松﨑 われわれは「感じ良いくらし」の実現をめざしています。現代では社会が分断され、人同士のつながりが希薄になりつつあります。このような状況下で社会との関係性を再構築するため、当社は地域活性化を中心にさまざまなことに取り組んできました。商品を購入していただきたいのはもちろんですが、それ以前にまず人が店舗に集まることが大切だと考えています。そのため、無印良品は人と人をつなげる「プラットフォーム」になることをめざしています。

 しかし、企業としてしっかり利益を出さなければ、このような地域活性化の取り組みはできません。18年2月に創設した「ソーシャルグッド事業部」は、その名のとおり社会によいことをするために設置した部署ですが、ただ社会に役立つだけではなく、同時に利益の確保をめざして「事業部」と名付けました。社会貢献につながり、かつ利益も見込めるのであればこんなによいことはありません。無印良品は今後も何が社会のためになり、何が会社の利益になるのかを両面から考えながら、さまざまなことに取り組んでいきたいです。

※本インタビューは20年2月初旬に行われました

良品計画企業概要

本部 東京都豊島区東池袋4-26-3
設立 1989年
資本金 67億6625万円
代表者 松﨑曉代表取締役社長
営業収益 4096億円(2019年2月期)
無印良品店舗数 国内420店舗、海外497店舗(2019年2月期)