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実録!働かせ方改革(6)外国人アルバイトの育成がうまいコンビニのここが違う!

働き方改革が進み、残業時間削減や有休休暇促進、在宅勤務などに踏み込む会社が増えてきた。それにともない、働きやすい職場があらためて注目されている。本シリーズでは、部下の上手な教育を実施したりして働きがいのある職場をつくり、業績を改善する、“働かせ方改革”に成功しつつある具体的な事例を紹介する。
いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。諸事情あって特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「ここがよかった」というポイントを取り上げ、解説を加えた。
今回は、外国人のアルバイトの育成に力を入れるコンビニエンスストアを紹介したい。漫然と仕事をさせるのではなく、それぞれのアルバイトの仕事の習熟度を心得たうえで教えている。人事コンサルタントらが言うところの「個に応じた指導」といえる。ぜひ、ご覧いただきたい。

Photo by TAGSTOCK1

第6回の舞台:コンビニエンスストア

(店長以下、アルバイト35人)

 

店長自ら個々の外国人の課題を見つけ、教え込む

 この数年、人材育成の状況を確認する上で、定点観察の対象としているコンビニエンスストアが、都内西部に3店ある。その1つの店でつい先日、見聞きした光景だ。パンを陳列する棚のすぐ横で、店長兼オーナーが中国人と思える20代前半の男性に、やや厳しい口調で説明する。

 「違う、違う…。このパンを前に置かないと…。(賞味期限を)きちんと見て、確認しないといけないでしょう?」

 「…」

 「さっき、賞味期限が近いものを後ろのほうに(手で)追いやったでしょう?(賞味期限が近いものは)前に並べないと…」

 その声は、棚の向かいの棚のさらに奥にいる私にも聞こえるほどだった。叱りつけている、といった印象を受け、少々、暗い気分になった。「なんとかして育成しよう」とする店長の意志は強く感じる。一方で中国人の男性は、委縮した様子ではあった。アルバイトとして勤務し、まだ1か月程だからか、商品の陳列が十分ではない。賞味期限に応じて、商品の位置を変えることがまだ正確にできないのだ。しかし、私がこれまでこの店を見てきた経験から言うと、あと1~2カ月も経つと、この男性は急速に熟練し一気に戦力化するだろう。

 というのも、この店は、外国人アルバイトの育成にずっと力を入れてきているからだ。特徴的なのが、いわゆる「個に応じた指導」だ。それぞれの仕事の習熟度を観察し、実情に応じた育成をするのだ。「アルバイトの育成」と大雑把に捉え、漫然とした指示で仕事を与え、なんとなく教えたつもりになっている店が多い中、ここは店長自ら個々の外国人の課題を見つけ、そこにフォーカスを当てて教え込む。これが、アルバイトの仕事力を早いうちに高めるようになると私は思う。

 35人程のアルバイトのうち、外国人は7人。それぞれは日本語のレベルも様々で、仕事への姿勢も大きく異なる。そうしたバラつきは、日本人のアルバイトよりは顕著のようだ。国籍や文化、習慣などが違うのだから、ある意味で自然なことなのかもしれない。

 店長のアルバイトを観察する目は鋭い。厳しいと捉えることもできるのかもしれないが、育成のためには大切な視点なのではないだろうか。

個々の課題に応じた指導をしなければ、育成はうまくいかない

 今回は、外国人の育成を考えるうえで検証すべき事例だと思う。私が導いた教訓を述べたい。

①ここがよかった
個に応じた指導を実行した

 日本人もまた、個々のアルバイトにより、仕事のレベルは違う。外国人は母国での教育や家庭環境などがそれぞれの国で違うのだから、来日したいきさつや背景も違う。アルバイトに対する考え方も様々だろう。このことを本当の意味で心得ている雇い主や従業員は少ないように私には見える。少なくとも、個々の違いを見つけ、その弱いところや課題を直すように誘うことはなかなかできない。漫然と仕事をさせて、できない時に「ダメ!」と注意したところで、それは「育成」とは通常呼ばない。

 本来、育成とは仕事をあてがうだけではなく、そこから先にまで踏み込んで「教える」ことまでしないといけない。さらに、その進捗などを含め、「確認」することが必要だ。その際、個々のアルバイトの違いを踏まえ、「この人には、このような言葉が好ましい」と考えたうえで接するべきだ。これら一連のアプローチを本当にできているだろうか。私は、多くの人ができていないと見ている。

②ここがよかった
育成は店舗を変える!

 店長自らアルバイトを育成する。コンビニエンスストアならばよく見られる光景だろう。しかし、今回の事例のように、真摯に教え込む姿を私はあまり見ない。なぜ、この店長の指導が厳しく見えるのだろうか。私は、店長がアルバイトの1つひとつの作業の様子や進捗などをそばで「確認」をしているからだと思う。ある意味で「監視」とも言えるのかもしれないが、これこそが「育成」だと私は考えている。

 ただし、この店長の場合、声の調子がややキツイ印象を周囲に与えている可能性がある。気をつけないと、パワハラなどと言われかねない時代ではある。そこだけが、課題だと思う。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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