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23年ぶりの社長交代! イオン電撃人事の裏側

国内小売最大手のイオン(千葉県)が1月10日、3月1日付けで同社代表執行役副社長の吉田昭夫氏を代表執行役社長に昇格させる人事を発表した。1997年の就任以来、約23年間社長を務めてきた岡田元也氏は取締役兼代表執行役会長となり、巨大流通グループの運営は2人の代表執行役が舵を握ることになる。岡田氏はかねてより「世襲はしない」と発言しており、まさに“公約通り”、創業家以外から次期社長を選出した格好だ。この人事が意味するところとはーー。

吉田昭夫副社長が代表執行役社長に昇格

会見に臨んだ岡田元也社長と吉田昭夫副社長

 「こういうふうに(社長在任期間が)長くなったのは恥じ入るばかり」

 イオンの岡田元也社長は会見の中でやや自嘲ぎみにこう語った。岡田社長が1997年にイオンのトップに就任して以来、23年ぶりとなる社長交代。後任として白羽の矢が立ったのは、イオンの代表執行役副社長でイオンモール代表取締役社長を兼任する吉田昭夫氏だ。

 イオンは1月10日開催の取締役会で代表執行役の異動を決議。3月1日付けで吉田副社長が代表執行役社長に昇格し、岡田社長は代表執行役会長に就任する人事を発表した。吉田副社長は5月に開催される定時株主総会の決議を経て取締役に就任する予定だ。なお、吉田氏が兼任するイオンモールの社長職については今後人事変更を含め検討していくとした。

 吉田氏は1960年生まれの59歳。83年にジャスコ(現イオン)に入社したのち、東北開発部長、関東第一開発部長、イオンリテール関東開発部長、イオンモール国際企画部統括部長などを経て2011年3月イオングループ中国本社取締役に就任。その後イオンモール中国本部長などを経て、15年2月よりイオンモール代表取締役社長を務めている。また、19年3月にはイオン 代表執行役副社長 ディベロッパー事業担当兼デジタル事業担当を兼務している。昨年11月末の英ネットスーパー大手オカド(Ocado)との提携の旗振り役を務めたのも吉田副社長である。

デジタル戦略の推進と組織改革を急ぐ

新社長に就任する吉田昭夫副社長

 年が明けて間もないタイミングでの突然の社長交代となったが、「イオン誕生より51年目となる2020年度のスタートにあたり、組織体制の刷新を図り、新しい環境変化に即応した経営スピード、多様性を重視した自律的運営により、グループ総合力の持続的成長を目的として社長交代を実施した」とイオンはリリース上で説明している。デベロッパー事業、国際事業、デジタル事業のそれぞれの領域での経験を積んできた吉田氏をイオンの経営トップに据えることで、組織の若返りと、イオンが昨今とくに力を入れているデジタル分野の強化を急ぎたいねらいだ。

 吉田副社長は「アマゾンエフェクトなどと言われていたが、もはや『オフライン対オンライン』という軸ではなくなっている。(リアルが)オンラインにどう対抗するかということではなく、リアルにオンラインをどう取り込んでいくか、そのなかでリアルの強みをどう出していくかを考えていく」と力を込めた。

 また、組織づくりについても改革を進める考え。「人材育成は本当に大切。これだけ早く環境が変わっているなかで、現場で判断できる人材の育成がキーになる。組織が大きくなると本部からの指示を待つだけの人が増えていくが、『現場のリーダー』としてお客さまの動きに対応し本部に要請を出すような、”逆流”が生まれるようにしていかなければならない」と吉田副社長は指摘した。

岡田社長が露わにした”危機感”

約23年間にわたって社長を務めた岡田元也氏は代表権のある会長に就任

 電撃的な人事で社長交代に踏み切ったもう1つの要因と見られるのが、企業としての成長鈍化だ。岡田社長は会見で「ここのところ、イオンの成長スピードが落ちている」と述べ、グループの成長停滞への危機感を隠さない。

 もちろん、同社も手をこまねいていたわけではない。「小規模な事業を立ち上げ、それによって若い人材が学習し、成長できる機会を用意する――。それこそが私の最後の使命であると考え、この5~6年間はさまざまな手を打ってきた」(岡田社長)。その一例が、16年に立ち上げたオーガニック専門店「ビオセボン」であり、同年に設立した冷凍食品専門店「ピカール」であり、岡田社長の言葉を借りれば「グループに新しい血を入れてきた」というわけだ。

 「ビオセボン」「ピカール」ともに店舗数は十数店舗と、事業規模的にはまだ小さい。だが岡田社長はこれらの取り組みについて「細分化された仕事を続けたまま30~40代になってしまった人材に、新たな機会を設けることができた」と評価する。このような既存人材の活性化を加速させるのも、社長交代のねらいであると見られる。

 「日本全体が『固定化』していく中で、イオングループだけは自由かつ流動的な組織でありたい。成功した人間がもっと(事業を)大きくさせていく、そんな“擬似空間”をグループの中につくりたい」(岡田社長)。流通を取り巻く環境は激変している。変化に柔軟に対応できる流動的な組織・体制づくりによって、グループを再び成長軌道に乗せたいという岡田社長の思惑が透ける。

「世襲はしない」の公約を守ったが……

 社長交代会見で吉田副社長は「話を受けたのは年末」と明らかにした一方、このタイミングでの交代の理由を問われた岡田社長は、社外取締役らと次期社長人事について議論を重ねてきたとしつつ、「(社長を)死ぬまでやっていくというわけにはいかない。ただ、具体的に昨日今日の話になるとは思っていなかった」と話し、比較的スピーディな流れで社長交代の話がまとまったことを明かした。

 なお、岡田社長はかねてより「世襲はしない」と公言してきた。その意味で、今回の社長交代人事は”公約通り”と相成ったわけだが、同氏の長男・尚也氏はイオングループのオーガニック専門スーパー、ビオセボン・ジャポン(東京都)の代表取締役社長を務めている。岡田社長は「私が社長に就任したときに(外部から)『世襲だ』といわれたので、『世襲はしない』と申し上げた。(イオンが推進する後継者育成計画)『サクセッションプラン』のなかで私が(立ち位置として)どこにいるかもわからないし、本人(尚也氏)がどう思っているかはわからない」と発言し、今後については含みを持たせた。

 とはいえ、当面は吉田新社長が国内最大手の流通グループをけん引していくことになる。喫緊の課題であるデジタル戦略の推進・強化と、柔軟な組織づくりを実現できるか。その手腕に注目が集まる。