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ベルメゾン、かゆいところに手が届く商品開発に欠かせない独自の調査手法とは

コロナを機にECサイトでの購入は私たちの暮らしにすっかり定着し、生活インフラとして浸透した。日本発・老舗の通販会社として知られる千趣会(大阪府/梶原健司社長)。『ベルメゾン』というブランド名で幅広い商品を展開し、根強い人気を誇っている。コロナ禍では巣ごもり需要の影響で好調、とくに在宅勤務関連商品の売上が伸びた。競合がひしめく通販業界でベルメゾンが選ばれる理由はどこにあるのか、その独自性や戦略について、常務執行役員 コーポレート本部長の髙橋哲也氏に話を聞いた。

ECサイトトップ

 千趣会が手掛ける通信販売のベルメゾンは、アパレル、インテリア雑貨、育児用品と幅広いジャンルでオリジナル商品を開発する、会員数約200万人(2022年度にベルメゾンを利用した人数:202212月末時点)を誇る人気ブランドだ。会員の中心はほぼ女性、購入層の中心は40~50歳で、従来からのカタログ販売を残しつつも注文の89割がEC経由となっている。

 元々は、カタログ通販として成長してきた同社。最大の強みは、“かゆいところに手が届く”ユニークな商品開発だ。顧客の声を反映し、“こんな商品が欲しかった”“この機能が欲しかった”と思わず唸ってしまうような、ありそうでなかった気の利いた商品が数多く揃う。

 コロナを機に、2021年からスタートした5カ年の中期経営計画では「お客さまとのつながり方や提案方法を、時代に則したデジタル活用により変革する」というDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進を一番に掲げた。

 「これまでは、カタログを通じて生活スタイルを提案、活用シーンを見てもらうことに焦点をあてて商品を訴求してきた」とした上で、コーポレート本部長の髙橋哲也氏は「ECシフトを強化する中で、これまでのやり方から提案方法を大きく変化させている」と話す。

 今取り組んでいるのは、ECに最適化したかたちで、商品を訴求するメッセージをつくること。

 「カタログでは活用シーンの全体像で商品の特徴や良さを伝えていたが、EC上では商品一つひとつの価値を伝えるメッセージが大切になる。具体的には、単品での活用法をイメージしていただけるような表現やキーワードに変えることや、一つの商品を購入いただいた後、次はどういう商品を提案していくかというシナリオを描くことなどを進めている」

 一方、今後もカタログは残し、EC、カタログそれぞれの特徴に合わせて訴求ポイントを使い分けていく方針だ。

 「まだまだカタログを見てくださるファンが一定数いるので、カタログをなくすつもりはない。時間があるときにゆっくりと見ていただき、ベルメゾンの世界観を楽しんでもらうことで、商品との出会いの場となるのがカタログの意義。カタログはこの先も強力なツールであることは間違いないと考えている」

商品開発力で差別化、ロングセラー『Hotcott©(ホットコット)』も顧客の声から誕生

ホットコット©

 ベルメゾンの商品開発では、他では手に入らない商品、長く愛着をもって使ってもらえる商品づくりにこだわっている。

 商品開発のベースとする調査手法が「エスノグラフィー」だ。これは民俗学などで行われる調査手法で、調査対象者の生活・行動様式をフィールドワークによって観察する調査手法のことだ。生活者の暮らし方に入り込むことによって、通常の調査やグループインタビューだけではなかなか気づけない「生活の中の不満」や「あったらいいな」を見つけ、商品開発に生かしているわけだ。

 「ベルメゾンでは、エスノグラフィーをベースに、定性分析、定量分析、N1分析などのマーケティング手法を駆使している。くわえて、顧客インタビューや商品モニター、アンケートを活用してお客さまの生の声を取れ入れる形で商品開発を行っている」と髙橋氏が話す通り、顧客の声を深く理解するために多彩な手法を使う仕組みが定着している。

 顧客のリアルな声から誕生したヒット商品の代表格が、冬用の肌着『ホットコット©』だ。他社が展開する化学繊維で作られた肌着を着ている乾燥肌の人からは「チクチクして痛い」という声が多く上がった。そこで、メーンの素材を綿にして同じ機能性をもたせた肌着を開発したところ、まさに“かゆいところに手が届く”商品として10年を超えるロングセラー商品となった。

 さらに、競合の多いベビー・キッズ商品分野でも“安心品質”、“納得価格”、“気の利いたデザイン”と3拍子揃ったオリジナル商品を開発し、高い支持を得ている。中でも、子育て世代の心を掴んでいるのが、オリジナルブランドのGITAで展開する細部にまでこだわった名札をつける場所を設けた洋服だ。

名札ココ半袖Tシャツ

 「子どもの洋服では、名札を付ける機会が多くあるが、名札をつけると生地が破れてしまうという課題をお客さまからいただいていた。そこで、破れないように補強を兼ねて、パッチワークでかわいい模様をつけるデザインへ改良したところ大ヒットとなった」

 5カ年計画の中には、「オリジナル商品・サービス開発力の強化」も盛り込まれている。今後も顧客の声に耳を傾け、商品の改良や新商品開発へとつなげていく考えだ。

長く愛着をもって使用してもらいたい、リサイクル・リユースも強化

リバーシブルキッチン隙間ワゴン

 現在、同社の売上トップはインテリア雑貨で、全体の4割を占める。代表的なヒット商品となっているのが、一級遮光カーテンや収納家具だ。中でも、収納家具はファッション用品に比べて競合が少ない上に、ビフォーアフターをわかりやすく伝えやすいことから、ECでも根強く売れ続けているジャンルだという。

 「冷蔵庫の横のほんのわずかなスペースなどを活用できる隙間収納は、家具屋さんでは扱っていないし、ホームセンターにも置いていない。当社オリジナルの隙間収納ワゴンは、どこに行っても見つけられなかった、“ありそうでなかった商品”として大変好評をいただいている」(髙橋氏)

 競合にはないユニークな商品の開発を目指す一方で、注力するのがサステナブルな社会に向けた取り組みだ。環境に優しく、愛着をもって長く使い続けてもらうためには何が必要か、循環型モデルの構築に向けて模索を続けている。

 髙橋氏は、「できるだけ長くご使用いただけるように商品開発を進めるのはもちろんだが、使用中、使用後までを考え、クリーニングや補修などのメンテナンス、不要となった商品の引き取りまでをトータルでご提案できるようなサービスを検討しているところ」と話す。

 すでに202211月から、衣料品について『kimawari fashion』(キマワリ・ファッション)という宅配買い取りサービスを始めている。ベルメゾン以外でもOK、ノーブランド品も含めて不要となった洋服、ファッションアイテムを段ボールに詰めて送れば、同社にて無料査定を行い、引き取り額を現金またはポイントで還元する。申し込みに対して、現状、査定が追い付かないほどの人気ぶりだという。

 「私たちが責任をもって、リユース・リサイクルしようとはじめたが、開始直後から予想以上の大きな反響があった。きれいにクリーニングしてお手紙までつけて送ってくださる会員さんもいて、お客さまのリサイクルへの関心の高さを改めて認識している」

 よりよい商品・サービスの開発を続け、顧客とともにサステナブルな社会に向けた挑戦を続けようとするベルメゾン。同社独自の新たなビジネスモデルを模索しながら、今後も“かゆいところに手が届く”ライフスタイルを提案し続ける。