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百貨店、存在の証明その4 海外に活路見出すも、安定さ欠く髙島屋の成長戦略

髙島屋(大阪府)は大手百貨店の中でおそらく唯一、海外事業を成長戦略に据えている。J.フロントリテイリング(東京都)のように自社店舗をショッピングセンター化するわけでも、三越伊勢丹ホールディングス(東京都)のように国内店舗を活用したオンライン戦略を描くわけでもなく、海外事業によって収益を伸ばしていこうというのだ。しかし、海外事業が収穫の時期を迎えるまでの間、国内ではインバウンド頼みの経営が続く見通しで、不安定さは否めない

M&Aには無関心?独自路線を行く髙島屋

 「次は髙島屋か」

 三越と伊勢丹、大丸と松坂屋、と大手百貨店の経営統合が巻き起こるたびに、各所からそのような声が聞かれた。しかし大方の予想に反し、髙島屋が果敢なM&A(合併・買収)に打って出ることはなく、今では「再編に乗り遅れたことが今となってみればよかったのではないか」とまで言われている。

 そんな髙島屋も一時期は、三越伊勢丹の大阪進出を横目に、阪急阪神百貨店を擁するエイチ・ツー・オーリテイリング(大阪府)と“共闘”するため経営統合を模索したという経緯がある。だが、当時社長だった鈴木弘治氏(現会長)が「規模ばかりが唯一の手段ではない」として撤回、それ以降、髙島屋によるM&Aの噂は聞こえてこない。

 足りない部分を経営統合で相互補完しながら新たな成長戦略を描く、という選択肢を捨てた髙島屋。だが、「融合に時間がかかっている」(業界関係者)という三越伊勢丹のケースを踏まえると、経営統合の“負の部分”を引き摺っていないと見ることもできる。

“不動産偏重”から抜け出せるか

 ただ髙島屋も、ほかの大手百貨店と同様に、不動産事業とインバウンド需要に偏重した収益構造であることもまた事実だ。髙島屋が公表している2020年2月期業績予想を見ると、連結営業利益の見通しは280億円。このうち不動産事業の中核でショッピングセンター事業を行うグループ子会社、東神開発(東京都)の営業利益計画は69億円と、実に約25%を不動産事業が占めるという依存状態となっている。

 インバウンドの変調も気がかりだ。同社の2020年2月期上期のインバウンド売上高は対前年同期比0.8%減の280億円と微減。通期計画では同0.5%増まで引き戻すとしているが、米中貿易摩擦や個人ブローカーを取り締まる中国EC法の施行などを背景に、かつて“爆買い”を巻き起こした代理購買が減少していることに加え、元安も重なるため、先行きは不透明だ。

 百貨店全体に強い逆風が吹くなか、J.フロントリテイリングは不動産事業、三越伊勢丹ホールディングスはECを軸にしたデジタル化と、大手百貨店は旧来の百貨店モデルに頼らない成長戦略に舵を切り始めている。そうした状況下、髙島屋が次代の成長の軸に据えるのが、海外戦略である。

 髙島屋の海外事業は堅調で、とくにシンガポールではショッピングセンターの展開が成功している。海外事業の営業利益は、19年2月期実績で39億円。同社はこれを23年度に110億円にまで引き上げる計画を打ち出している。国外で「髙島屋ブランド」の知名度を高めることで、国内でインバウンド客を集客するといった、相乗効果を引き出す考えだ。

海外事業の堅調続くも、国内の収益確保が急務か

 しかし、元ファミリーマート会長の上田準二氏が「海外で事業を軌道に乗せるまでには10、20年とかかる」と発言しているように、海外事業は腰を据えてかからなければできない事業でもある。実際、シンガポールのショッピングセンターも、93年の開業から20年以上かけてようやく軌道に乗ったという経緯がある。

 国内ならば、「髙島屋ブランド」は誰もが知る老舗ブランドだが、海外にこれを根付かせるためには長期戦になるのは間違いない。中国のように、ECが先行しているため百貨店の位置付けが曖昧になっているような国もある。

 実際、髙島屋も中国・上海の店舗がなかなか軌道に乗らず、今年に入って撤退を発表したものの、家賃交渉で貸主が譲歩したことから撤退を撤回するなど、すべての海外事業が好調というわけではない。

 いずれにせよ、海外事業は時間のかかる事業だ。国内で安定した収益を稼ぐ方策を早急に描かなければ、次の成長も不透明だ。(次回に続く)