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百貨店、存在の証明 プロローグ「百貨店不振で崩壊した流通の生態系とは」

百貨店はかつて、流通業界の頂点に君臨していた。だが、そこから数十年が経ち、その栄光は見る影もない。現在の百貨店業界をけん引しているのは主にインバウンド消費であり、もはや高級品を総合的に扱う業態としてその役割をとどめているに過ぎない。百貨店はこれからどこに向かおうとしているのかーー。

百貨店縮小によりメーカーは販売政策の見直しへ

 経済産業省の「商業動態統計」によると、百貨店の衣料品販売額は、バブル期の91年に6兆1000億円とピークを迎えてからは減少トレンドにはいり、2018年には2兆7000億円にまで減少している。衣料品の構成比はいまだ百貨店全体の2割以上あるが、ユニクロとしまむらの売上高を足した程度にすぎない。

 改めて言うまでもないが、この低落はユニクロに代表されるカジュアル衣料専門店や、紳士服専門店チェーン、さらにはZOZOのようなEC勢に押され続けてきたためだ。しかし、それだけではない。「百貨店と運命共同体で衣料品の流通を築き上げた、大手アパレル企業との閉鎖的な商習慣が元凶だ」とみる業界関係者は少なくない。

 百貨店は、アパレルメーカーから売れた分だけを買い取る、返品自由の「消化仕入れ」と呼ばれる取引形態を採用したり、メーカーが販売員を百貨店に派遣する「派遣店員」制度をとったりと、季節やファッショントレンドによって商品が変化し、販売が難しい衣料品をノーリスクで扱える体制を築いてきた。アパレルメーカー側も、百貨店依存の販売体制によって業績が安定したという側面があった。こうした背景もあって、“運命共同体”の両者はぬるま湯の構造のなかで改革の機会を失った。

 高級品・ブランド品販売の頂点に君臨した百貨店の凋落により、「ブランドの受け皿」という機能も失われてしまった。

 化粧品の例がわかりやすい。百貨店は海外の有名なラグジュアリーブランドの化粧品の取り扱っているため、国内の化粧品メーカーは、百貨店を中心に流通させる高級商品をラインアップする一方で、ドラッグストアなどに向けたいわゆる「セルフ化粧品」を下位のブランドとして展開する、といった具合に、業態でブランドと価格を分けるチャネル(販路)別政策を展開してきた。

 だが、百貨店業界が縮小に向かう中では、高級ブランドを展開するメーカー各社は、百貨店の店頭でブランドイメージを確立し、それをマスに落とし込んで果実を収穫する、という戦略がとれなくなっている。つまり、化粧品だけでなく、高級衣料品はじめラグジュアリーブランドもチャネル別政策を根本から見直さなくてはならなくなっている。

もはや崩壊した流通の“生態系”

 それでもまだ化粧品は、百貨店でブランドの“高級イメージ”をつくり上げるという戦略が機能している。一方で、衣料品はユニクロ、しまむらに続いて最近はワークマンのような新プレイヤーも台頭。さらに、メルカリをはじめたと中古品流通市場も拡大しており、「ユニクロで購入された商品がメルカリのような二次流通サービスで流通している」といったことも珍しくなくなっており、百貨店の果たす役割は縮小する一方だ。

 衣料品をめぐる流通は様変わりしている。かつて、大手アパレルが百貨店で販売するブランドの姉妹ブランドをつくり、ショッピングセンターで販売しようとしたところ、百貨店側からクレームがついたことがあった。

 「なぜ、我々が育てたブランドをショッピングセンター(という新興のチャネル)で売るのか」。ある百貨店の幹部はそのように話した。姉妹ブランドとはいえ、ショッピングセンターで同じ名前がついたブランドを売られては、ブランドイメージの低下を招きかねないという不満があったからだ。

 だが、そんな百貨店とアパレルの綱引きも今は昔、大手アパレルのブランドもショッピングセンターで商品を売るようになっている。百貨店を頂点とし、食品スーパー、専門店と続いた流通の“生態系”は崩壊していった。

 百貨店は今のところ、インバウンド消費によって、大手を中心に業績は下げ止まっている。しかし、それは一時的な“神風”が吹いているにすぎない。百貨店は今後、どこに存在意義を見出そうとしているのか――。(次回に続く)