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流通再編の衝動その6 争奪戦決着!ココカラをマツキヨとの統合へ突き動かしたのは

マツモトキヨシHD(千葉県)とスギHD(愛知県)によるココカラファイン(神奈川県)の争奪戦は、「スギ有利」という大方の予想を覆し、マツキヨHDに決まった。ココカラは8月14日、マツキヨHDとの協議について「独占交渉権を付与」、その後、基本合意を締結し、最終契約をめざすと発表した。下馬評では「ココカラはスギHDと経営統合した方が調剤部門で相乗効果が見いだせる」とした見方が圧倒的だった。ココカラをマツキヨHDとの統合に突き動かしたのは何だったのか――。
※HD=ホールディングス

寡占化進まぬ調剤市場

 「なぜ、マツキヨ?」

 「ココカラとマツモトキヨシHDが経営統合で協議」という一報に業界はざわついた。「スギの方が相乗効果は出せる」と、“テッパン”の様相を見せていた交渉劇の呆気ない幕切れに、今後の融合の行方をはかりかねるという声が聞こえてくる。

 なぜ、スギHDではなかったのか。巷間言われていたのが、スギHDとの調剤をはじめとした医薬品戦略の相乗効果だ。

 ドラッグストア(DgS)は一般用医薬品(大衆薬)と医療用医薬品(調剤)からなる医薬品の売上高比率が高い。マツキヨHDの医薬品の販売比率が30.8%(2019年3月期)であるのに対し、スギHDは40%超(19年2月期)。ココカラファインとしては、今後の市場を見据え、医薬品に力を入れているスギHDを選択するという見方が優勢だったわけだ。

 医療用医薬品は薬価制度で薬価が決まるので急な売上アップは望めないが、安定収益が見込めるため、経営への貢献度は高い。政策による「かかりつけ薬局」の推進されているうえ、薬局内における薬剤師の負担を減らす施策も打ち出されていることも調剤伸張の追い風となっている。こうした背景もあり、最近は地域の医療支援に力を入れるDgS企業も増えている。

 だが結局、ココカラファインとスギHDの統合は成就しなかった。「医薬分業」は進んではいるものの、寡占化が進むとみられていた調剤市場は依然、群雄割拠状態が続いている。

 全国の薬局数は約5万9000店。このうち7割を個人薬局が占めている。一見すると、潜在的に規模を拡大できる余地があるようにみえる。しかし、調剤薬局専業チェーン上位10社のシェアはわずか約14%と、寡占とは無縁な状態。急速に寡占化が進むDgS業界とは対象的だ。

 調剤市場は今後5年、10年で寡占化が一気に進むとは考えにくく、薬価という政策で守られた個人経営の薬局の比率は当面下がらないと言われている。そのため、調剤専業チェーンの門前薬局が大きくシェアを握る構造も変わる気配がない。

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ココカラはマツキヨに何を期待する?

ココカラがマツキヨに期待すること

 ココカラファインとしては医薬品を軸にしているスギHDよりも、マツキヨHDが推進しているインバウンド向けの店舗づくりや商品政策、プライベートブランド開発といった分野で相乗効果が見込めると判断したとみられている。

 マツキヨHD、ココカラファイン両社ともに構造的に化粧品の売上高比率が高い。そのうえ、都市型店舗の比率が高いことから未だ旺盛なインバウンドの需要も期待できる。統合効果は出やすいと言える。

 かつてのDgS業界では大衆薬、調剤、化粧品、食品と満遍なくそろったスタンダードな商品政策が一般的だった。しかし現在は、コスモス薬品(福岡県)に代表されるような、“利益度外視”の食品の安売りでお客を呼び込み、化粧品や医薬品で利益をとるというプレイヤーが勢力を急拡大するなど、DgSのビジネスモデルは多様化している。

 これは、医薬品だけで稼ぐことのハードルが高くなっているとも言い換えることもできる。ココカラファインが設置した特別委員会は、国内外で浸透しているマツキヨHDのブランド力と成長性を推薦したのだろうというのが大方の見方だ。ココカラファインにとって、この判断が吉と出るか凶と出るか。

 ともあれ、今回の一報によって、DgS業界初の1兆円連合の誕生に道筋がついた。今後、上位DgSのM&A(合併・買収)に拍車がかかるのは必至だ。(次回へ続く)