今回から3回にわたって、「ZOZOがアパレル業界にもたらした功罪」について解説していきたい。クライアントに出向中だった私がZOZO(当時の社名はスタートトゥデイ)のバイヤー達に新規ブランドの売り込みをした10年前と比べ、同社は売上を求めるあまり、あまりにも変わってしまった。正確にいえば、インターネット黎明期には合理性を持っていたZOZOのビジネスモデルも、EC乱立時代の今となっては機能しなくなってきたということだった。
ZOZOはかつて高感度ブランドだけをネット販売する
唯一の企業だった
今から10年前、私があるアパレル企業に出向し、ブランド建て直しに奔放していたときだった。私のスタイルは一般的なコンサルタントのそれと異なり、クライアント企業の中に入り、時にクライアントの名刺を持ち一緒に事業を進める。絶頂期の1/5にまで売上が落ちた企業のブランド力の立て直しのため、当時ファッショニスタ憧れの的であったZOZOへの出店は成し遂げなければならないミッションだった。
私はサンプルを持って千葉まで出向き、ZOZOのバイヤー達に新ブランドの説明をしたのだが、残念ながら丁寧にお断りされた。その理由は、ブランドが持つイメージが当時のZOZOに相応しくない(ようはダサい)からだった。当時のZOZOは、ユナイテッドアローズ、ビームス、シップスなど高感度のブランドをネット販売する唯一の企業で、ファッション好きの私も憧れをもって毎日眺めていたものだった。私は、事業再生を専門にしていたので、私が手がけるアパレル企業は、どちらかというと、ブランド力が弱く、都会から追い出され地方のシニア向けになったものが多く、ZOZOTOWN(ZOZOが運営するECサイト)に出店するのは夢のまた夢だった。
そして、時を経ること10年。今、ZOZOが運営するZOZOTOWNをみると、当時の面影は見えにくい。依然、格好良さは残るものの、どちらかというと、当時のような敷居の高さよりも、「お買い得感」の方が目につく。市場が低価格品を求めているからなのか、ZOZOが戦略を転換したからなのか、私は知るよしも無いが、今のZOZOであれば、10年前、私が手がけたブランドも出店が可能だったような気がする。
この10年、私は様々なアパレル企業に出入りをしてきたが、最近は、ZOZOのお買い得イメージが強まりすぎたことが原因で大手アパレル企業や有名ブランド達が、ブランド力の毀損を理由に「ZOZO離れ」をしているという。しかし、私の分析はやや異なっている。確かに、客観的に分析すれば、(現実にはブランド力などない「ブランド」を) 今でも力が強いと信じているアパレルが多いのは事実だ。しかし、ZOZOのビジネスモデルには、単なる「ブランド論」では片付けられない致命的な欠陥があった。
次のページは
ZOZOのビジネスモデルの欠陥に迫る!
ZOZOだけが儲かるビジネスモデル
ブランド力無きアパレルが安売りされるのは必然
まず、本連載で繰り返し述べているよう、日本のアパレルは、小売り(川下)とそれ以外(川中、川上)が分断され、“製販統合の権化”といわれているユニクロでさえ、自家工場は持っておらず、多くが協力工場だ。ユニクロは実にうまく工場をマネジメントしているため資本関係など無くとも自家工場を持つアパレルより上手に生産コントロールをしている。
アパレル企業の工場というものは、例えばニット製品の工場ならニット製品しか作れないので、トレンドが布帛に変わり、売場が布帛を中心に組み立てたてられたら、工場稼働率を上げられなくなる。したがって、取り扱っている商品がファッション型であればあるほど、売上のボラティリティ(変動)が大きくなり、予測が困難となる。
つまりユニクロのように、商品を定番に絞り込み、ヒートテックのような「渾身の一作」を中長期にわたって作り続けるようなモデルでなければ、生産工場の内製化はアパレルにとってリスクとなるわけだ。実際、特定のアパレルの多くの協力工場が競合他社にも商品供給をしており、また、蛇足となるが、それらの知的保全も野放図な状況だ。もう、「真似をしてください」と言わんばかりの業界だ。実際、秋冬ものが始まる8月になると、アパレルはこぞって中国やASEANに出張にゆく。競合がつくっている商品を丸裸のままコピーするだめだ。なんのための自家工場かという点についての戦略と議論が見えないというのが現状なのである。
話をZOZOに戻すと、日本には「三方良し」という言葉があるが、ZOZOのビジネスモデルはここを外していた。例えば、ZOZOのビジネスモデルは、ZOZOだけが儲かって、リスク(主に在庫)はベンダーにヘッジされる構造になっている。まず、ZOZOは商品仕入をしない(ここでは、一旦、プライベートブランド<PB>や一部の例外商品についての話は置いておく)。良くいえば、超優良ファッション好きの顧客基盤をベンダーに対して開放し、「売場」を貸してベンダーの売上向上に貢献しているともいえる。
しかし、これは1980年代後半の百貨店のやり方と全く同じで、あえて悪い言い方をすれば、「我々の顧客に販売をさせるから家賃を払え」というやり方と違わない。小売企業は在庫リスクを持たず、売上を上げれば、その売上に応じて家賃(見合い)をベンダーに請求できるから、神の見えざる手によって、こうした構造によって小売企業は必然的に「安売り」をすることとなる。
日本のアパレルは差別性が無いから、似たような商品があれば安い方が売れる。だから、売上を上げようと思えば、極論を言えば、小売企業は、あの手この手で安売りをすればよい。ZOZOに出店している企業数は1000を超えるから、消費者にとっても利便性は高い。だから、安売りをすればするほど売上は上がり、その売上に応じて手数料をアパレルから頂けるからZOZOだけが儲かる。
一方、供給者であるアパレルはたまったものではない。彼らは仕入れをしているわけだから、値引き販売を小売側が行い、家賃(見合い)を取られれば業績が悪化するのは当然だ。サステイナブル(持続可能)なビジネスとは、バリューチェーン全体がフェアに利益を配分し合う関係が成立しあうものだ。これが、私がいう構造上の欠陥である。
次回、さらにZOZOについての考察をすすめてゆく。そもそもなぜ、ZOZOだけが儲かるビジネスモデルを、アパレル企業は受け入れてしまったのだろうか? そこにはアパレル業界特有といってもよい論理的思考の弱さと感覚
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)