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消費者に「欠品」という概念がなくなった理由と追加生産しても売れない事情

既存のビジネスモデルが通用しなくなったアパレル業界。その理由の1つが、多くの”ブランド”に対するロイヤルティが著しく低下したからだ。それは、日本中のアパレルが似よりの商品を同じフロアで展開し、オンラインで比較購買がいくらでもできるからである。その結果、いま、日本のアパレル企業にはどんなことが起こっているのだろうか?

お客が“欠品”を気にしない理由

 アパレル業界では、古き良き時代に一世を風靡した「勝利の方程式」を未だに盲信している人が多い。例えば、私が講演に呼ばれたとき参加している女性に冒頭でこのような質問をする。

 「女子の皆さんの中でこの商品が欲しいと30日待つ人は手を上げてください」

 多いときには100人以上集まるが誰ひとりとして手を上げない。「それでは、どのようにお買い物をしますか」と聞くと、「ルミネやパルコに行き、例えばベージュのニットを探します。行きつけのお店に商品やサイズがなければ隣のお店に行き、それでもなければフロアを回って、最後にはスマホで探してポチって終わりです」と大方このような感じで答える。

 当たり前の話だが「欠品」という概念が、少なくとも消費者から見て存在しないことが分かるだろうか。

 確かに個別企業、ブランド、店舗だけでみれば欠品は深刻だ。私が過去実施した調査では、某ブランドの売上の30%が欠品損失だった。しかし、日本中のアパレルが似よりの商品を同じフロアで展開する時代、加えて、AIが過去の買い物履歴や閲覧履歴から「これはどうですか」というレコメンドメールを送る時代である。個社の欠品など、競合が穴埋めしていくだけだ。

 この20年で衣料品の平均単価が40%下がっているのに市場への投入点数が倍になり、市場全体では30%以上の供給過多といわれている。お客にとって欲しい商品がないということは考えにくいし、そもそも消費者は服にそれほどお金を使おうとも思っていない。

 さらにいえば、「消費者が服を買わないのは、店頭やウェブでの買い物が面倒なことが原因だ」として、デジタル化を進める議論が大半だが、残念ながらこれは論点がずれている。

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欠品だっ!と騒いでいるのは企業だけ

服が売れないのは、自分磨きのほうがコスパが良いから

 消費者が服を買わないのは、シーズン毎に新しい服を買うよりも、ヨガやジム、ネイルや美容院に行き、トータルの「自分磨き」をした方が総合的にコスパがよいと考えているからだ。だから、売上が落ちたからといって「無人レジ」や「自動接客」ツールを入れても、生産性は上がるが売上向上効果はない。ここが生鮮食品など必需品を扱うスーパーマーケットやコンビニエンスストアと違うところだ。

  私はこの仮説を検証するため、5年毎の消費者ブランドホッピング定量調査をした。特定のブランドに帰属すること無く、お得なものを買う人達をブランドホッパーと言うのだが、この調査はブランド愛好者の離脱率を図るのが目的である。2010年を境に、消費者は一つのブランドに対するロイヤルティを失い、ネットを駆使しあちこちのブランドで比較購買している。そのため、直近のブランド・ホッピング率は5年前の5倍に膨れ上がっていた。 

 だから、「欠品だ。作れ!」と騒いでいるのは企業だけで、お客さまは「欲しいと思ったその日に買い物が終了」しているのだ。だから、30日後に店頭にならんだ時にはすでにシーズン終了、売れるはずがないのである。

 90年後半、日本はSCMSPA(製造小売)QR(クイックレスポンス)、という「オペレーション三種の神器」を米国から輸入した。当時は日本経済も成長しており、服に対する強い需要もあった。悲しいかな、今でもそれを盲信し、最新のデジタルトランスフォーメーションもこの3つを前提に組み立てられていることが多い。「初速は嘘をつかない」と言われたものだが、今は「初速は嘘だらけ」。病気の原因と処方箋がズレているのだ。

 今、商品回転率以上にトレンド回転率の方が高速になり、「作り増し」を前提としたQRは売上アップに寄与しない。消費者は自分のブランドだけで買い物をしていると思ったら大間違いだ。欲しければ、たったワンクリックで、ネットで海外サイトから個人輸入することだってできる時代なのだ。

 したがって、儲けている企業は、期中計画でなく期初計画精度を上げるための創意工夫をやっている。世の中の流行りや競合企業の状況から、翌シーズンをいかに乗り切るか考え、売れ筋は追いかけず、むしろ、独自性の高い商品を販売することで鮮度を保っているのが無敵のZARAだ。

 例えば、8月、11月などのセール前では店頭で商品は動かなくなるためクーポンの乱発月となるが、「それ追加生産だ」と、その時期に30日前の追加商品を投入するのは自殺行為だ。それでも、正規商品を追加投入する。これは、組織が細分化されシーズンを通して全体を見る人がおらず、皆が分業で仕事をしているためである。

 製造業では「セル方式」と呼ばれる、個人が全体を見ながら目的をもって業務を行う開発手法が、目的の見えない「流れ作業」以上に生産性が高いことは周知の事実だがアパレル業界も同様なのである。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)