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新MDに手応え!食品メーカーと生鮮食品の商品化に取り組む=サミット田尻 一 社長 

サミット(東京都/田尻一社長)の2012年3月期単体業績は、売上高2218億5800万円(対前期比0.1%減)、営業利益34億300万円(同31.4%減)、経常利益31億1200万円(同33.9%減)、当期純利益17億5200万円(同8.4%減)と減収減益だった。競争が激化する首都圏で、同社はどのような戦略を描き、勝ち残りを図るのか。田尻社長に聞いた。

販売促進策の変更で“浮動票”を取り込めず

サミット代表取締役社長 田尻 一 たじり・はじめ●1956年生まれ。79年、日本大学芸術学部卒業。同年、サミットストア(現・サミット)入社。2001年、取締役就任。03年常務取締役、06年専務取締役を経て、07年6月、代表取締役社長就任。

──減収減益だった2012年3月期(11年度)業績をどのようにとらえていますか。

田尻 11年度は苦戦しました。都心部の比較的店舗年齢が高い既存店の売上がよくありませんでした。この要因は大きく2つ挙げられます。

 1つめは、業態の垣根を越えて食品を取り扱うチェーンが増加傾向にあり、食品スーパー(SM)の顧客が奪われているからです。

 たとえばドラッグストア(DgS)は、食品のウエートを徐々に高めています。食品の売上構成比が30%を占めるチェーンもありますし、中には50%前後のDgSもある。また、コンビニエンスストア(CVS)の動きも変わってきています。多くの企業が食品の取り扱い店舗を増やしていますので、SMの総売場面積とは関係のない部分で、食品を販売する小売店舗は増加し、競争環境は厳しくなっています。11年度はそういった業態の“ボーダーレス”の競争対策に後れを取ってしまいました。下期を中心に7店舗を新規出店しましたが、結果として既存店の落ち込みをカバーできませんでした。

 2つめは、11年度は販売促進施策を大きく変えてしまったがために、「低価格」に敏感に反応するお客さまを取り込めなかったことです。11年3月に発生した東日本大震災以降、結果として当社はチラシの価格が他社に比べて弱くなってしまいました。わが社のポイントカードを保有するお客さま、つまり当社にとっての優良顧客の来店頻度や買上点数、客単価は、10年度と比べてほぼ変化はありません。しかし、来店客の3割を占める、ポイントカード非保有のお客さまにあまりご来店いただくことができませんでした。

 既存店の売上高が対前期比3.9%減、客数が同3.9%減となったのはこの2つが大きな要因です。

──その反省を踏まえて、現在はどのような対策を打っていますか。

田尻 既存店へのテコ入れと販売促進施策の変更です。

 12年度~13年度にかけては、新規出店を抑制して既存店のリニューアルに力を入れる計画です。12年度は4店舗を新規出店する一方で、大規模改修や小規模なリニューアルを行います。

 すでに4月27日には石神井台店(東京都練馬区)を改装オープンしていますし、ほかにも笹塚店(同渋谷区)の大規模改修を計画中です。また、売場のレイアウト変更や商品政策(MD)の見直しなど、小規模なリニューアルを月に4~5店舗ずつ実施する計画で、すでにプロジェクトチームを組織して改装に当たらせています。既存店の改装には12億円ほどかける計画です。

 結果的には長期の目標である200店舗、5000億円態勢の実現は遅れることになりますが、既存店にテコ入れして体力を回復させたうえで、14年度以降、新規出店を加速したいと考えています。

 また販売促進施策は、すでに10年度と同じ内容に戻しましたので、価格に敏感に反応されるお客さまをある程度は当社の店舗に引き戻せると考えています。利益を減らしてまで「安売り競争」をするつもりはありませんが、やはり「低価格」という要素は外すことができません。

値下げ原資は生鮮と総菜で稼ぐ!

──商品を低価格で販売するための原資はどのように捻出するのですか。

田尻 当社は都心部に店舗を展開していますから、販売管理費がほかのSM企業よりも高く、それをカバーするために粗利益率をある程度高く維持しなければ事業が成り立たない構造があります。販売管理費は圧縮せざるを得ませんが、投資を含めてムダな出費を減らし、それを原資にグロサリーの値入れ率を下げます。

 競合他社の強力なプライベートブランド商品には、オール日本スーパーマーケット協会(大阪府/荒井伸也会長)の「生活(くらし)良好」で十分対抗できると考えています。ナショナルブランド商品については、競合店と売価を比較されやすい商品を中心に地域の実勢売価にしっかり値合わせします。

──販売管理費低減以外に値下げの原資はありますか?

田尻 生鮮食品や総菜の売上構成比を高めて粗利益額を増やし、増加分をグロサリーの値下げ原資に回します。そうすることで粗利益率を一定に保つことができると考えています。

 先ほど“ボーダーレス”競争について話しましたが、その対策として生鮮食品や総菜を今まで以上に強化しようということで出店したのが11年10月開業の成城店(東京都世田谷区)です。

──成城店には新しいMDを数多く導入しました。11年11月にはテラスモール湘南店(神奈川県藤沢市)、同じく11月には横浜岡野店(同横浜市)と、新MDを導入した店舗を相次いで開業しています。12年1月~2月にかけてオープンした売場面積350坪の2店舗にも新MDを採り入れています。

田尻 そうです。まだまだ実験段階であり、ブラッシュアップしながら検証しているところです。新MDでは、加工度を高めた生鮮食品をはじめ、半調理品や完成品である総菜の販売に取り組んでいます。生鮮食品の加工度を高めて「食事の材料の提供業」の機能を強化していくことでしかSMとして生き残ることはできないと考えています。

──半調理品や総菜の商品開発はどのように行っているのですか。

田尻 今のところ食品メーカーさんとタッグを組みながら商品開発しています。

 たとえば先日、あるメーカーさんから豚バラ肉を素材として使う簡単便利な即席調味料が発売されました。豚バラ肉を10枚ほど重ねてミルフィーユ状にし、フライパンでたれとあえて炒める商品です。

 当社の精肉部門の担当バイヤーは、その即席調味料に使用されるミルフィーユ状の豚バラ肉を商品化しました。ある店舗で販売したところ、土曜日と日曜日の2日間で65パック売れました。通常の豚バラ肉も15%ほど売上が伸びていますし、担当バイヤーは手応えを得たと思います。

──食品メーカーが販売する即席調味料にあわせるかたちで生鮮食品の加工度を高める。

田尻 そうです。逆に食品メーカーさんが事業を拡大できるヒントがそこにはあると考えています。

 生鮮食品は、単純に素材を提供するということではなく、関連するグロサリーにあわせたかたちでSKUを揃えていく。それによって相乗効果を発揮して売上を伸ばせると考えています。

──その延長線で考えれば、野菜や生肉、たれなどを1つのパックにまとめた「キット化商品」の開発も視野に入ります。

田尻 そういうことも当然あるでしょう。素材を売るための1つの方法だと思います。素材を総菜にするような部分では、キット化にご協力してもらえるようなお取引先さまを探していくことになります。これこそまさに「製・配・販」の三位一体の取り組みではないでしょうか。

新MDに磨きをかけて既存店に導入する

──さて、新MDの検証には6カ月ほど時間を要すると成城店のオープン時に話していました。新MDの現状について教えてください。

田尻 傍から見れば同じことをやっているように見えるかもしれませんが、中身はどんどん変えています。

 たとえば、「フレッシュサラダ&カットフルーツ」コーナーの商品は、売価が高すぎましたので、値入れ率を低く押さえて価格を下げることにチャレンジしています。鮮魚部門の「煮魚・焼き魚」コーナーの商品は生の素材に固執することなく、たとえば冷凍エビを店内で焼くといったように、品揃えのバリエーションを増やすことに取り組んでいます。

 また、「おためし下さい」のコーナーでは、1週間に6品ほどお客さまへ試食をお勧めしていますが、来店客の約7割の方がコーナーに立ち寄ります。これまで1日当たり1~2個しか売れなかった商品が試食をお勧めすることで10~15個売れるようになりました。

 お客さまは自分が食べたことのある商品を継続して購入する傾向があります。当社の店舗が取り扱うグロサリーは1店舗平均1万SKUほどあるわけですから、「おためし下さい」でそれまでお客さまが味を知らなかった商品を売り込むチャンスは大きく広がると考えています。

 現在は、バイヤーと「おためし下さい」の担当者が試食の商品を決めていますが、今後はお客さまからの試食リクエストを受け付けようと考えています。お客さまが試食したい商品を売場からお持ちになって、「おためし下さい」コーナーで試食するという段取りです。「サミットの店舗に行けば食べたい商品を試食できる」ということがお客さまに浸透すれば、来店動機になりますし、買上点数アップにもつながると考えています。

──新MDではクロス・マーチャンダイジング(関連販売:以下、クロスMD)にも積極的に取り組んでいました。

田尻 はい。クロスMDのポイントは、売り手側の論理ではなく、買い手=お客さまの論理をどれだけMDに採り入れることができるかどうかです。店舗のオペレーションを標準化する中では、どうしても売り手側の論理が強くなってしまいがちです。それでお客さまに納得してもらい、ご理解いただいているかといえばそうではないでしょう。買い手側の論理をMDへ具体的に落とし込み、その上でどうオペレーションを組むのかだと考えています。これはとても初歩的ですが非常に難しいことです。

 昨今、お客さまは青果、精肉、鮮魚といった素材ごとのコーナーではなく、用途ごとの売場を求めていると感じています。たとえば「ケーキをつくろう」となったら1つのコーナーで必要な商品がすべて揃う。パスタやお好み焼きも同じです。そのような1カ所で買物を完結できる売場をどうつくるのか、そして売り手側の論理を壊そうと取り組んだのがクロスMDです。部門という縦割りの仕切りを取り払ったとき、お客さまにとって買いやすいのはどのような売場なのか。それを具現化してからオペレーションを組み直すことを心掛けました。

 ただし、われわれはオペレーションをとても重要視していますので、それを壊すのはすごく怖いことです。クロスMDを実践すると、同じ商品が店内のあちこちにありますから、発注作業の効率は悪くなってしまいます。しかし作業の効率云々は売り手側の論理です。お客さまが買物しやすい売場をつくるという考えがまず先になくてはなりません。次にオペレーションをどうするのか考えればいいのです。

──そして、今後は新MDを既存店に導入していくことになります。

田尻 はい。その1号店が4月27日に改装オープンした石神井台店です。

 同店の開業後の状況を見ると、内装や什器を新しいものに変え、MDや商品の見せ方を一新することでお客さまが戻ってくるということがわかりました。新MDを導入した新店についてもお客さまから評価されているという感触を得ています。

 当社の店舗は売場面積150坪から同1100坪までありますが、売場面積が小さくてもインストア加工にこだわって生鮮食品や総菜を提供していく方針に変わりはありません。それが当社のいちばんの差別化のポイントであり、競合対策なのです。

 都心部は人口がまだ若干伸びている状況から、ミニSMやCVS、DgSなど食品を取り扱う競合店が日々開業しています。12年度は新MDに磨きをかけて既存店への導入を進め、しっかりと足場を固めていきます。