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「エブリデイ・セイム・アホーダブル・プライス」を実現=マックスバリュ東海 寺嶋 晋 社長

今年5月、マックスバリュ東海(静岡県)の新社長に寺嶋晋氏が就任した。イオン(千葉県/岡田元也社長)、イオンリテール(千葉県/村井正平社長)で農産商品部長、生鮮商品部長を歴任してきた寺嶋氏は、内山一美・現会長のもとで快進撃を続けてきたマックスバリュ東海の経営をどう舵取りするのか。寺嶋新体制で変わること、変えないことは何か!? 

個の力を、効率的に組織の力に変える態勢をつくる

マックスバリュ東海代表取締役社長寺嶋 晋 てらしま・すすむ 1958年9月1日生まれ。82年3月 ジャスコ(現イオン)入社。2002年7月 同社SSM新潟商品部長、05年9月、同社農産商品部長。08年3月、同社生鮮商品部長、08年8月イオンリテール生鮮商品部長。10年5月、マックスバリュ東海社長に就任。

──今年5月にマックスバリュ東海の社長に就任しました。実際に中に入ってみて、マックスバリュ東海はどんな企業だと感じていますか?

寺嶋 マックスバリュ東海の年商は現在、約1400億円です。その企業規模であれば本来なら、組織の力と仕組みの強さで企業運営をしていくべきステージにあっていい。私も外からマックスバリュ東海を見ていたときは「業績がよく、スーパーマーケット(SM)の雄だ。きっと組織力の高い、一流企業なのだろう」と思っていました。

 ところがマックスバリュ東海は、組織の力ではなく、個々の人たちの力や頑張りで、好業績を成し遂げていたのです。

 周知のとおりマックスバリュ東海は、元はヤオハンです。それが経営破たんして、2000年にイオンの100%子会社となりました。再建に向けマックスバリュ東海の全社員は、がむしゃらに働いてきたのです。彼らの並々ならぬやる気と意地とプライド、つまりお客さまにご支持いただくためにはどうするか、この大命題に対し本部のリーダーシップのもと、全員が同じベクトルに向かって個の力で考え対応することに集中し運営してきたのです。

 その後、連続出店による店舗数拡大という急成長を遂げる過程で、さまざまな仕組みを導入しつつ安定軌道化を図る必要性から、個の力より本部主導で運営する態勢が強くなりました。

 ただ、これから先、2000億円、3000億円規模の企業に成長していくためには、企業としての仕組みを変えなければならないと考えています。個々の従業員の努力を、効率的に組織の力に変えていくマネジメント態勢を構築していきたい。そして“売る仕組み”から“売れる仕組み”へと成長させたいと考えます。

──具体的にはどのような組織態勢に変えていくのですか?

寺嶋 これまでは、本部が強いトップダウン型の組織でした。これを、店側が主体になりもっと意見を出し合うマネジメント態勢へと移行していきます。つまり本部主導から、店舗主導のボトムアップ型マネジメント態勢への変更です。1店舗1店舗をそれぞれの地域で最良の店にする、この実現に向けたマネジメントスタイルの刷新が、次のステップだと思っています。

 そのためにはまず、われわれ経営側が、従業員の“意見を聞く耳”を持っていることを、わかってもらうことから始めています。現場の正確な情報が私の耳に入らなかったら、会社は変わりません。だから、私が自ら現場に入って話を聞いています。

 また、本部では早朝の時間を使って毎日、あいさつの訓練を実施していますが、私が率先して声出しをしています。別に私がやることが、訓練として意味があるかと言えば、実はあまりありません。けれども、「社長が率先してやっているんだったら、おれたちも負けずにやろう」という雰囲気が生まれてきます。それが新しい企業風土の醸成につながればいいと考えています。

インストア起点からアウトパック起点へ
ビジネスモデルを転換

──さて、社長直轄組織として、今期初にオペレーション改革室を新設しました。

寺嶋 オペレーション改革とは、サービスレベルの向上を図りながら、現場の従業員の作業を軽減し、時間内に終えるための改革です。実は当社の労働分配率は50%を超えており、非常に高い。この高い労働分配率のまま、新しいサービスをどんどん売場に導入していくと、従業員にさらに負荷がかかってしまいます。

 その解決を図るために、オペレーション改革室を新設したのです。たとえば、プロセスセンター(PC)で生鮮食品を一次加工する仕組みを整備したのも、売場のSKU数を削減したのも、それに合わせて売場づくりの方法を変えているのも、すべてオペレーション改革の一環です。また、イオングループ共通の自動発注システムであるODBMSも導入済みです。

 ただ現状では、仕組みが導入されただけにすぎません。現場と一緒になって、その仕組みを使いこなす段階にはまだ到達していません。また、商品供給方法の改善もまだまだ遅れています。

 新しい仕組みは、使う側にとっては当初、新しい負荷としか受け取られないものです。だから、負荷ではなく、仕事を楽に遂行するための便利なツールだ。ということを全従業員に理解してもらうことから始めています。現場とコミュニケーションを取りながら、使いこなせるように進めていきます。もちろん、オペレーション改革はお客さま満足に直結する取り組みでなければならないのは言うまでもありません。

──売上高販売管理費率や労働分配率などの経営指標を、どの程度改善させたいと考えていますか?

寺嶋 指標としては労働分配率ではなく、人時売上高(=売上高÷総労働時間数)に設定しています。ただやみくもに労働分配率だけを下げようとすれば、従業員がお客さまのために動かなくなってしまうからです。

 業界には1万8000円を超えている企業もありますが、当社の目標とする人時売上高は1万5000円で、現在ようやく1万4000円に手が届く段階です。あと1年ぐらいで約1割、人時売上高を上げたいと思っています。

──これまでマックスバリュ東海は、エブリデイ・ロー・プライス(EDLP)とエブリデイ・ロー・コスト(EDLC)の態勢づくりに取り組んできました。一方で寺嶋社長は、「EDLPは万能薬ではない」という趣旨の発言をしています。

寺嶋 EDLCについて言えば、まったくそのとおりです。ローコスト運営や低い商品原価で調達する仕組みづくりは、必ず実現しなければなりません。

 ただし、ローコスト態勢が整ったからといって、すべてをロープライスで売る必要はないと考えています。お客さま、メーカーさん・生産者さん、当社、がそれぞれ利益を享受できる「3方良し」のポリシーに則った、商品価値に対する正しい価格づくりに取り組むべきです。EDLPありきの価格政策では、そのことが歪められてしまう恐れがあります。

 ある程度の利幅をお客さまから頂戴して、その分を一次産業の生産者の方々に還元しないと、われわれも継続的な商売ができなくなります。最終的には、お客さまにもご迷惑をおかけしてしまうわけです。継続性を考えたら、EDLPではなく、毎日が同じで安心して手軽に買える価格、エブリデイ・セイム・アホーダブル・プライス、EDSAPであるべきだと考えます。

──すべての商品が安いわけではないが、生活必需品を毎日同じ価格で消費者に提供する。

寺嶋 ええ。SMの商売は今後、ますます小商圏高占拠型になります。そうなると、限られたお客さまに毎日来ていただけるかが重要なテーマになります。ところが、われわれが実践しているのは、EDLPと言いながらも、結局はチラシ販促に頼ったハイ&ロー戦略です。それを続けているうちは、週1回の特売日に大量に買うという購買行動はなくなりません。また、ロープライスについても、メーカーさんを無視した、ムダな安売りは必要ない。お客さまにストレスをかけない“買い場”の実現が必要というのが私の考え方です。

 要するに、誰に対してのロープライスなのかということ。競争店に対するロープライスではなく、お客さまにとってのロープライスであり、メーカーさんや生産者さんにとって納得できるロープライスでなければいけません。単なる価格競争としてのロープライスは継続できません。EDLPではなく、EDSAP。これが、いつお客さまが来店されても安心して買物ができるSMのあり方だと、私は思います。

 ただEDLCについては、これまで以上に努力しないといけません。商品を買い叩くのではなく、仕組みにより合理的なローコスト、そしてお客さまとメーカーさんが納得できるローコストを実現していきたい。そして、V(価値)=Q(品質)÷P(価格)、価値を上げていくために、価格の低減だけでなく、品質を向上させる商品力、開発力をつけていきたいと考えています。

──EDLCに向けた取り組みとして、マックスバリュ東海は生鮮部門でPCを積極的に活用しています。今後の投資や新たな展開についてはどのような計画を持っていますか?

寺嶋 インストア起点からアウトパック起点へのビジネスモデルの転換を図っていきます。現在PCでは、売れ筋商品以外の商品を小ロット多品種生産しています。そして売れ筋商品を店内加工して、店段階の粗利益率を引き上げる。これはインストア起点の考え方なのです。

 そうではなく、大量に販売するマス化商品を、PCで集中的に大量生産する態勢へと移行します。マス化商品をPCで集中生産することで、大幅なコスト引き下げが見込めます。ただ、現在の当社のPCの製造キャパシティでは全然足りないので、拡充しなければなりません。その際、すべてを自前で整備する必要はありません。イオングループには、イオンフードサプライ(千葉県/佐々木勉社長)という生鮮加工・配送を担う機能会社がありますから、そこへの委託や地元のベンダーさんへの委託も選択肢のひとつになります。

13年2月期に年商1900億円をめざし、積極出店

──アウトパック主体のビジネスモデルが進めば、バックヤードが最小化され、さらにローコストで出店可能になります。今後の出店戦略を教えてください。

寺嶋 当社では13年2月期に年商1900億円をめざしています。数字の根拠は、年商20億円の売場面積600坪クラスの新店を年間10店舗ずつ出店していくというものです。しかし、そこには小型店の出店分は考慮に入れていません。小型店の業態確立に向けたノウハウが、まだ当社には蓄積されていないからです。

今年9月にオープンした、売り場面積300坪スタイルのマックスバリュ富士水戸島店

 とはいえ、売場面積600坪の店だけを出店していくのかといえば、そうではありません。ドミナントを深耕し、エリアシェアを高めることを考えれば、600坪のSMだけでなく、モール型ショッピングセンターに入居する売場面積1000坪の店舗もエリアに1店舗ぐらいは必要でしょうし、ディスカウントストア(DS)も、そして300坪タイプの小型SMも必要になる。そのエリアで複数のフォーマットを展開し、お客さまに生活シーンに応じてより便利に使い分けしていただくことが肝要です。

 小型店フォーマットありきではなく、あくまでも商圏内シェアアップが優先課題としています。そして、それを実現するためにはどうしても、小型店フォーマットの確立を急がなければならない、というのもまた偽らざる本音です。ただ、「まいばすけっと」や「れこっず」のような小型店を自社で展開する気持ちはありません。それは、イオングループの専門部署に直接出店してもらったほうが早く展開できるからです。

──DSということでは、現在、イオングループが力を入れている「ザ・ビッグ」を出店するのですか?

寺嶋 自前で「ザ・ビッグ」を出店していきます。DSに業態転換して商圏を広げない限り、黒字化が達成できない、これ以上成長できないという店が当社にもあります。店舗閉鎖すれば地域のお客さまにご迷惑をおかけしますから、存続を前提に考えた場合、DS業態に転換することで打開を図るべきだと考えています。今後1~2年以内にそういった事例が出てくるはずです。

──最後に、地域密着型のSM企業として、マックスバリュ東海をどのような企業にしていきたいですか?

寺嶋 「地域との共生」を口先ではなく、本気で実現できる企業をめざします。日々、お客さまとともに暮らしていることをお互い共感できる企業づくりがしたい。

 けれども、これは本当に難しいことです。どうすれば実現できるかを、就任以来ずっと考え抜いてきました。ようやく出た結論は、当社は物販業ですから、商品を通じてお客さまと共感するということです。

 そこで、地元の食とわれわれの生活は不可分のものだ、という意味の「身土不二(しんどふじ)」という言葉に着目しました。静岡県民、そして静岡県に本部を置く当社はいずれも富士山の恩恵を受けている、という思いを込めて「身土富士」という言葉で表現していきたい。

 お客さまと一緒に「富士山に、地元にありがとう」という気持ちを共感しながら、消費活動ができたら、すごく素敵なことだなあ、と考えたのです。メーカーさん約130社に来ていただいて、“身土不二223プロジェクト”を立ち上げました。223は「ふ・じ・さん」をかけたもので、地元の水、土や食文化、加工技術を生かしてつくった商品223個をセレクトして、富士山に恩返ししようという企画です。現在、第1弾商品の発売に向けて、鋭意商品を選択中です。

 このように、お客さまも良し、メーカーさんも生産者さんも良し、そして当社も良し、の3方良しを体現し、商売を通じた地域活性化を通してお客さまと共感できる企業をめざしていきます。